課題がある
「えっと……つまりアミリ先輩は特別休暇中の単位課題で詰まってるのと、招待客名簿の整理を命じられたと」
「う、うん。そうなのだ後輩」
オウドのもとにやってきたアミリ先輩はメイドにたくさんのノートや書類を持たせていた。たぶんこれが課題と名簿なのだろう。
「じゃあ簡単な方から課題をさきにやっちゃおうか。せっかく魔物学の本がたくさんあるし……」
と言いながらオウドはちょっと気になった。いつも不敵に笑っているアミリ先輩にしては元気がない。
「なんか調子悪そうですけど、大丈夫ですか?」
「い、いや?元気だぞ!ほら、手も動くし!」
アミリは焦った。なんでこんなにカンがいいんだ。
父に政略結婚を言い渡された、と思っているアミリは沈んでいる。
しかし、そんなのを異性の後輩に相談したら、その、なんかアレだから嫌なのだ。
ちなみに父である西大公にそんなつもりはなく、バカな悪戯をせずに貴族のお姫様らしくしろと言っただけである。
オウドはわたわたしているアミリ先輩を見てなんか変だなとは思いつつ、可愛いのでそのままにすることにした。
「わかりました。じゃあこっちの先輩の課題なんだけど、魔物についての調査と分析だよね。たしか盗猿博士の見聞録2巻と、幸運犬先生の航海記に……うん、これだ」
「いつも参考文献探すの早いな後輩は……」
魔法学園の魔物学の本の半分はざっと読んでいるオウドはこういうのはひたすら得意である。
本の記載内容を確認して、データをまとめあげると論考に移る。
こちらは普段からアミリ先輩と魔物の議論をしているので、それらを使う。
手際よくがりがりと書類の山を積み上げていく二人。
護衛である騎士たちとメイドたちが感心して眺めている間にきちんとしたレポートが書きあがった。
「どうだろう」
「うん、いいんじゃないかな」
完成だ。
すっかりアミリ先輩は心配事を忘れたようで好きな魔物学に打ち込めて嬉しそうだ。
オウドもレポートを確認しながら一安心していた。
「後輩がいると早いな……やっぱり学園に戻……れないんだよな」
「残念ですが」
アミリ先輩が少し寂しそうに言うと、オウドも申し訳なさそうに答える。
それを聞くとアミリ先輩はまた落ち込んでしまったようだった。
それを見た護衛の騎士とメイドがヒソヒソ声で語り合う。
「公爵家のメイドさん、あれで付き合ってないんですか?」
「迷宮伯の騎士さん、あれで只のご学友です。ただ、ご学友がそちらの若君しか居られないのですが」
「うーん、悪くないんじゃ?」
「図書館では静かに!」
オウドとアミリが同時にしかりつけて、静かになった。
見るとアミリ先輩が顔を赤くして黙り込んでしまっている。
可愛い。オウドはそう思いつつも、先輩は結婚話や恋愛を避けていることを思い出す。
あえて触れないように話題を変えた。
- - - - -
「アミリ先輩。名簿のほうだけど、もう参列者は確定したんだよね?」
「後輩のいうとおりだ。だから急がないと思う。ただ、書記たちと確認したんだが、すでに似たような名簿が12種類もあってだな……」
「なんだってそんなことに……」
公爵家内の各派閥が城門毎に設置されている来客名簿を好き勝手に書き換えて、
それを他の城門にコピーとして送付して写させた結果、それぞれ違う経緯で分岐して種類が増えていったのだ。
「じゃあ……先輩こうしない?来客名を全部カード化して各名簿と照合してダブリと出席有無を確認。その上で文字順に並び替えてそのカードの束を名簿にしよう」
「おお、後輩の案がいちいち見比べるより早そうだな……名簿の形をしていなくていいのか?」
「どうしても必要ならカードを見て名簿に清書すればいいよ」
「よし」
アミリは公爵家の書記官を十数名呼び出した。
そしてオウドの指示のもとで参列者のカード化と名簿の読み上げと消込みを進めていく。
分担してやり始めると作業自体は効率よく順調に進んでいくように見えた。
だが、オウドがちらちらと窓の外の太陽を見て時間を気にしている。
アミリがそれに気が付いた。
「……」
「どうした後輩」
「その、これ丸一日かかりそうなんだけど、本を読む時間が……」
「あ、すまない……そうだ!じゃあほしい本を言ってくれ。筆写ゴーレムに写させるから!」
「いいの?!」
「お父様からもできるだけ便宜を図るように言われてるしな。お礼だって」
そういうとアミリは司書を呼んで、筆写ゴーレムを起動する。
筆写ゴーレムとは巨大な一つ目と手が机から生えている魔道具である。
見本の本と紙とインクを置くと、自動的に本を書き写してくれる。
稼働に魔石やレアな魔物素材を使うので高価な魔道具だ。
しかしその動きは極めて正確で写し間違いはないので重宝されている。
司書がゴーレムに魔石を充填し、インク壺を並べるとゴーレムが本を地道に書き写し始めた。
さすがに筆写と製本は半日では終わらないが、結婚式が終わるまでには持ち帰れるようになるだろう。
「どんな本になるかな。楽しみだよ」
次々に書き写されているページに、心底嬉しそうなオウド。
それを見てアミリも少し嬉しくなるのだった。




