公爵一家の考え
広大な公爵宮殿の一角、公爵の私室に公爵が帰還した。
不吉な影を差していた夕日はすっかり暮れて、すっきりとした魔道灯の明かりが部屋の隅まで照らしている。
独立派伯爵たちとの和解に成功した公爵は付き人を控えの間において、一人でこの部屋に入る。
この部屋には家族だけが残っていた。
父である公爵を待ち構えているのは白い軍服姿に長い銀髪を後ろでまとめ上げた一の姫の嫡女。
そして部屋の隅に平伏しているのは三姫のアメルニアーナだ。
一体父に何を言われるのか、銀髪を肩に流してうずくまっている。
勘当云々は半分は本気だが、半分は優しい家族に甘えてやったことだ。
父に叱られるなど数年ぶりということもあり、父がすごい真剣な顔をしていたのに心底怯えている。
「いま戻った。直参伯爵どもは気が済んだようだぞ」
「甘くないですか?身の程をわきまえない愚図どもならば、いっそ血祭に上げるという手もあったはず」
腰につるしたレイピアをもてあそびながら、一の姫である公爵嫡女が不満そうに言う。
「そなたの結婚式を無事に済ませるのが最優先だと婿殿からも言われておろうが……」
「は、そうだった。ダーリンに嫌われてしまう?!」
呆れたような公爵の言葉に我に返る一姫。
レイピアを持ったまま頬に拳を当てているので極めて危険だ。
「戦争になれば猛勇なるそなたのことゆえ先陣を切っていくだろう。そうして余の妻、そなたらの母も戦死したのだ。軽々に戦争をするなどと申すではない」
「は、はい」
優しく強い母を思い出し、素直になった一の姫。
彼女を見て一つため息をつくと、公爵は部屋の隅の三姫に目を転じた。
「で、アメルニアーナ」
「は、はひ!なんでしょうか!」
慌てる三姫に、公爵は優し気に微笑む。
「よくやった。あの若君を巻き込んだのは正解だ」
「へ?」
気が抜けた声を出すアメルニアーナ姫。
てっきり叱られると思っていたのになぜ褒められるのだろうか。
「勘当云々は……まぁ冗談だよな?」
「はひ!」
父に睨み据えられて平伏せざるをえない。
「勘当も追放もせぬ、公爵家三姫としての自覚を持て」
「……はい」
つまり、政略結婚に使われるのが確定ということか……アメルニアーナの気持ちは沈んだ。まぁ優しい父に心配をかけたからには当然の結果ともいえる。
だが、父はすぐにいつもの優しい表情に戻って声をかけた。
「ならばもうよいぞ、用事があったのだろう?」
「あの、えと……あ。招待状とか名簿を乱した件は……」
「ふむ、では名簿の修正を命じる、書記を数名つけてやろう……それとも追加で罰がほしいのかな?」
「はひ!いいえ!わかりました!失礼します!」
アメルニアーナ姫は慌ててドレスの裾をつかんで一礼すると退出していった。
ドアが閉まったのを確認して、嫡女が言う。
「ふうん、あの若君はそんなにいいですか?」
「面倒くさい直参どもの中でも話が通じるし、顔が広そうだ。
さらにあの迷宮伯を抑えることもできる。アメルニアーナちゃんと仲が良い分には何かと使えるだろう」
「え、交際許可するの?」
「そこまで許しておらん!あくまで学友として役に立ちそうだからな!」
なぜか怒り出した父を見ながら嫡女は思った。
たしかに本人も学友としてしか見てませんと言い切ってたな。
まぁ、向こうに脈があろうとなかろうと、気に入ったならば奪って認めさせればいいのだ。私のように。




