結婚式破壊計画
豪華なテーブルクロスに覆われた長いテーブル。
そこに燃えるように赤い夕陽が広間の窓から差し込んで、
西方独立派の伯爵たちの不満と怒りを真っ赤に照らし上げていた。
貴族たちは思うがままにテーブルに並んだ豪華な料理と上質なワインを食い散らかしているが、そのどす黒い赤は増すばかり。
公爵は帝国西部の旗頭ではあるが、我々は家臣ではなく皇帝直参である。
それなのにいちいち我らを侮るようなそぶりを見せる。このような高級肉でごまかされはせぬぞ。
しかしこれは蛇鶏であろうか。ワインも霧谷の上物だな。
うむ、うまい。
さんざんごまかされつつも、不満の渦はなぜか途切れない。
新しい話題が独立派貴族たちの間に広まりつつあった。
独立派貴族たちが肩を寄せ合い密談する。
「実はな、南大公の使者が来ておる」
「ほう」
南大公は帝国南部の旗頭であり、同じように従属貴族家を多く抱えている大派閥だ。
最も大事なのは最近、西大公の嫡女と、南大公の娘が男を取り合って戦争したほどの仲の悪さ。
その結婚式に大勢の貴族が参加し、結婚式が成功されるのは南大公にとっても耐え難いことであろう。
「我らはこちらに出席しておるのに?」
「ご本意ではないでしょうと、まったくその通りだ」
「ふむ、結婚式をぶち壊しにすれば対等の同盟を約束してくれる、か」
独立派貴族たちは酒の回った頭で考えた。
悪くない。今まで微妙に味わってきた侮辱と、公爵家がデカくてカネ持ちだからむかつくという感情を一気に処理できる。
当然、そんなことになれば西方を半分に割った大戦争になるが、貴族の誇りは何にも代えがたい。
そもそも貴族は気分で戦争をするものである。
「だが、勝ち目はあるのか?」
「こちらの最大戦力は迷宮伯になるだろうな。あの女傑のパーティはドラゴン1匹換算できよう」
「しかし、それでも正規軍が千もくれば敵わんぞ」
彼ら貴族たちは騎士であり魔法使いでもある。
千近い正規軍ならば、その魔法騎士が百人近く。
そして強力な魔法を専門に使う魔導士も数名つく。そして完全武装の装甲兵が彼らを肉壁として守り、側面と後方からは弓兵が支援する。
人間種が過去から異種族を圧倒してきた最強の陣形である。
いくらドラゴン級の英雄であっても正面から戦えばたちまち討ち取られてしまうだろう。
「正規軍が千もいれば倒せるドラゴンが脅威なのは、簡単に倒せる場所におらんからでな」
「なるほど戦場を選べばよいか」
迷宮の奥に潜むドラゴンを千の兵で攻めるわけにいかないので、やはり英雄冒険者が数名程度で突っ込むしかなく、だからこそ討伐は難しいのだ。
正規軍は人数が多いから動きが遅い。各領地の英雄だけをあつめた部隊を作って襲撃すれば追いつかれはしないだろう。
「花伯殿の殺戮魔道に、河川伯の水亀騎士、火山伯殿の獄炎魔道……これらを迷宮伯殿に率いてもらえばな?」
そして公爵領を略奪して回り、借金を返すのだ。
頷きあう独立派貴族たち。
「そこで、まずは各自は居城をしっかりと守る。攻められたところは他の領地から支援する」
「敵が分散したら」
「分散しすぎたなら、残りの領地でまとまって攻めればよいし、分散しないなら攻められたところを支援する。」
「完璧だな。我らの強みは中央がないことだ。1城や2城が攻められたところで戦闘能力は落ちん」
「そして、その間に迷宮伯率いる英雄部隊に公爵家の補給馬車を襲わせまくる」
「最後に南大公家の大軍が西大公家の背後をつけば王手だ」
「素晴らしい作戦だ!」
すらすらと作戦がでているようだが、もともと彼ら独立派が他から攻められたときの常套手段である。
公爵も当然にここまでは読んでくるだろうが、対策は難しい。難しいから常套手段になっている。
「しかし、公爵家も同じように少数精鋭をだしてきたら?」
「それこそ決戦の好機ではないか、少数同士なら負けるとは言うまいな。こちらには迷宮伯がおるだろう」
「おお!その通り!やってやろうではないか!」
彼らは好戦的ではあるが、今までは半分酒飲みの冗談でもあった。
しかしなぜか突然作戦が具体化していく。
気が早いものは領地に挙兵の使者を出そうとしているぐらいだ。
「ううむ……」
しかしその空気についていけていない者がいた。
西方独立派の一人、迷宮伯の隣人であるグスタフ・フォン・ダンザウベル伯だ。




