衝撃の告白
バルコニーは月の光に照らされて闇に浮かび上がっていた。
敷き詰められた石材が銀色に染まり、
まるでそこが演劇の舞台であるかのように輝いている。
正装の舞踏服に身を包んだオウド若君が、西大公家の三女アミリを連れてバルコニーに出る。
涼やかな夜気がつんと顔にあたる。
しかしアミリは夜の空気の涼しさを感じるどころではなかった。
いつも無害だった後輩がなぜかじっとこちらの眼を見つめている。
まぁ、こうしてみると顔つきも悪くないというか良いほうなんじゃないか。
ダンスでも気遣いできるしな。と思考が乱れるのをアミリが必死にとどめる。
そんな話はなかったはずだ。恋話は避けてたし、本人も魔物学に詳しい私を先輩として尊敬しているだけ。
オウドが来てたのは知ってたが、そのまま会いに行くよりもちょっと驚かせてやろうと、
主催を任された舞踏会で待ち構えていた。
なのに全然来ないでそのくせ執事に私のこと聞きに来て、口止めしてなかったらネタバレするところだったじゃないか。
ようやく見つけたらなんかカッコイイ服をきてキリっと真剣な顔をしてオッサンばかりと話をしている。
だからちょっとドレスや胸元を強調してビビらせてやろうと思ったんだが。
まさか。
などとアミリが思考を暴走させていると、オウドがアミリに真剣なまなざしで向き合う。
まるで人生をかけた話を今からすると言わんばかりだ。
「で、アミリ先輩。話なんだけど」
「ちょっと待て……心の準備を。すぅ……はぁ……」
これは私としても、きちんと受け止めないといけない。まずは気を落ち着けて……
といきなり深呼吸を始めるアミリを不思議そうに見つめるオウド若君であった。
ようやく息を落ち着けたアミリがオウドに語り掛ける。
「さぁ、よし。なんだ」
「独立派の諸侯が怒ってて戦争になるかも」
「……はい?」
固まるアミリ先輩。
いつもの眠そうな目が全開きになっている。
「何かの誤解があると思うんだけど、アミリ先輩のお姉さんの結婚式に水を差したくないし、母さんが暴れるのもよくない。
実際に何が起きてるのか早く公爵殿下……アミリ先輩のご両親に伝えてもらえないかな」
「わ、わかった。それはちょっと詳しく経緯を聞きたい……が、他に話はないのか?」
気をそがれたアミリが念のために確認すると、オウド君はきょとんとした。
そしてちょっと考えると思い至ったように。
「ほかに……そう!もう一つ大事な話が!」
「うん!」
身を乗り出すアミリ。
「……単位が危ないんだよね?レポート手伝おうか?」
「うん!ありがとう!もともとそのために呼んだんだけどな!?今その話はちょっと置いておこうか?!」
なぜか不機嫌になって大声を上げるアミリだった。
ー ー ー ー ー
公爵宮殿に何百とある応接間の一つ。
三女付きのメイド隊に囲まれ、アミリとオウドが舞踏会姿のままテーブルを囲んでいる。
アミリの手には「ついでに迷宮伯誘っておいて」という失礼極まりない招待状が握られていた。
「なんだこの適当な招待状は……」
「アミリ先輩が出したんじゃ?」
「いや、私はオウド君が来れるように迷宮伯家に招待状出してくれとしか頼んでないんだ……」
うなだれるアミリ。
「姫、聞いてまいりました」
そこに三女付きのメイド数名が進み出る。
「他家の方がいらっしゃいますが、よろしいのですか?」
「よい、信頼できる」
メイドが不審そうにオウドを見るが、アミリに促されて報告を始めた。
日々さまざまな危険に取り巻かれる魔法貴族に仕える執事やメイドというのは只の雑用係では務まらない、護衛メイドや医療メイド、書記メイド、密偵メイドなど仕事は多岐にわたる。調査報告もメイドの仕事である。
「グリムホルン迷宮伯家をはじめとする独立家の皆様への待遇、若君から伺った通りの状況です」
「もともとは当家と親交のある方々を呼ぶ予定で招待状や部屋割りもきちんと準備できていたのです」
「そこに将軍や書記官長やご親族方……姫様が好き勝手に招待状を追加されまして」
「……うぐ、悪かったよ」
うなだれるアミリ。
「宮殿執事どのも必死でつじつまを合わせようとされていたのですが、結果長らく使ってない部屋に行く方や、急な部屋割りの変更が」
「また姫君もご存じのように、将軍と書記官長は常から仲が悪く、相手を上回ろうと自派閥を増やそうとされています」
「それぞれが独自にお呼びした独立派の方々に取り込み工作を行っていたようです」
「まったくあやつらは……」
「ところでアミリ先輩。なんかとても丁寧に対応してくれる人たちと、率直にいうと見下してくる人たちがいるんだけど……。
あと三姫の依頼した招待状がここまで適当になるのはさすがにおかしいんじゃないか?」
疑問を口にするオウド。
それを見てメイドが発言しようとするが口ごもる。
「それは……忌憚なく申し上げて良いですか姫?」
「構わん」
アミリに促され、メイドが発言した。
「では、強大なる我が公爵家の家臣にとって、弱小で借金まみれで潰れそうな領地なら当然見下してよい、と考えて自然かと」
「……次回からもう少し忌憚をつけような?!」
アミリが頭を抱えた。




