公爵に縁のある方々
大広間は大理石と色とりどりに染められた布で豪奢に飾り付けられている。
天井のシャンデリアの中心魔道灯は吊り下げられたガラスを通じてキラキラとした光を降らせており、部屋の中では大勢の貴族たちが談笑し、貴婦人たちは思い思いのドレスを纏っている。
今日は舞踏会の日。ただ、西大公派の貴族ばかりが参加しているため、独立派は酒がまずくなると言って欠席している。
そんな中で、舞踏会用の正装に着替えたオウドは周囲を見渡していた。
貴族は普通は共通の知り合いから正式に紹介されないと会話しない。
男女が一目ぼれしたときや、ケンカするとき、同じ趣味があるときなど例外は多数あるが、自分から普通にこんにちわとと会いに行くのは礼儀知らずとされる。
「あ、あの紋章は……」
オウドが手元の紋章図鑑をめくった。
貴族の紋章はその家の由来や、婚姻関係を示す1家に1つのものである。
本来は騎士が完全武装したときに身分を示すために盾に色をぬったものが由来で、今は家紋として身の回り品や屋敷、旗印などに使われている。
紋章として図案化されているが、盾に描く模様や、盾を取り巻く動物や植物、文章などにすべて意味があるのだ。
さて、帝都や特に多数の貴族が集まる場所では、お互いの紋章がわからないといろいろと問題が起きる。よってそれぞれの貴族家を見分けるために、紋章を専門に学ぶ紋章官というものが採用される。
魔法学園にもその紋章官や紋章学の書籍があり、オウドはそこの紋章図鑑を1冊まるまる手帳に模写して持ってきていた。毎日少しずつやって1年かかったが十分に役に立っている。
「これは名高い突撃伯閣下。かのチャルディラ平原での御武名はかねがね。まさしくご先祖の突撃卿が魔将軍を討ち取った突撃に並ぶご活躍といえましょう」
「おお、我が先祖のことまで昔のことなのによくご存じだ。お初におめにかかるが……?」
「おお、申し訳ない。名高い武勇のお方にお会いできた感動で。つい、紹介の礼儀を飛ばしてしまい。大変なご無礼を」
まずはその貴族の由来や過去の武勲などをほめたたえてから会話に入る。
自分と先祖を褒められて悪い気になる人はいないので、かねてからファンでした、という態でなんとか会話に持ち込むことができた。
自己紹介を終えて、本題に入る。
「公爵殿下のお人なりをご存じでしょうか、初めてご挨拶にあがるので」
「おお、大変お優しく度量も広い。頼りがいのある寄親として西管区を率いていただいておる。そなたも待遇はすべて最高級のものであろう。このように気前の良いお方で、客には常にまごころで当たるかただ」
いやいや、公爵の評判と、やってることが全然違うよね。
だから不満のある人たちが。
「それがそうではない話というか、いろいろ不手際があって不満のある方々が」
「なに!?公爵殿下を誹謗する気か!そのような話は一切聞いたことがないぞ!」
「えー」
何かめちゃくちゃ怒り始めてしまった……この話は危険かも。
「いえ、誤解するものがあっても、殿下のまごころはきっと通じることでしょう」
「当たり前だ、そのような不満を申すものがあれば余に言うがよい、成敗してくれるわ!」
まぁ、武勇の家に話しかけたからか、この人も血の気が多いな。
というわけで学問で名を挙げた穏健なところに……
「そのようなことはありません、文句がある人が居るならつれてきなさい」
「えー」
こっちも不機嫌になってしまった。
彼らが嘘をついたり何か隠してる感じはなかった。つまり彼らに対しては本当に丁寧な対応がされてて問題はないと。
……これを独立派のおじさんおばさんたちに報告したら即キレるな。どうしたものか。
舞踏会で踊りもせずに悩んでいると、そこに一人の貴婦人が現れた。
腰まであるしなやかな銀髪をふわりと両肩にたらし、淡い青色の絹のドレスが優美な曲線を覆っている。
その整った雪のような白皙の面立ちの中で、空のように透き通った青い瞳が困ったように半開きでこちらを見つめていた。
「……ここにいたか後輩」
「アミリ先輩?!」




