周辺と外交(友好的な領地、異民族)
ダンザウベル伯爵領は畑作や牧畜を営むのどかな領地である。
なだらかな丘陵は緑豊かな草原と何枚かの反物のように伸びる麦畑で覆われている。
麦畑にはまだ未熟な麦が青々と茂り、緑色の草原の中には白い羊の群れがゆっくり動きながら草を食んでいるのが見えた。
そしてその向こうには暗く広大な大森林が領地全体を覆うように伸びていた。
「お待ちしておりました」
城門の前で騎士たちが一礼する。
馬に乗り朝にグリムホルンを出発した若君と従者たち。
彼らがダンザウベルの町についたのは太陽がそろそろ中天に差し掛かろうというころである。
出迎えの騎士たちにつれられ、ダンザウベルの領主屋敷の門をくぐる。
「おお、オウド君ひさしぶりだな!」
「グスタフ殿こそ!ますます大きくなられて!
天を衝く山のごとき偉丈夫に奥様もますます惚れてしまわれるでしょう。
問題は次にお会いしたときには屋根を突き破ってないかが心配で」
「言うなよ、なんかこの年でまだ伸びるつもりじゃなかったんだぞ」
若君より頭二つは高いグスタフは亜麻色のアゴ髭をポリポリと掻いて愚痴った。
山のように盛り上がった筋肉に似合わず、少し垂気味の目がやさしい。
グスタフ・フォン・ダンザウベルはまだ若い伯爵である。
グリムホルン迷宮伯家とは長いつきあいで友好関係を保ってきた。
帝都留学でもオウドの先輩として魔法学園で出迎え、いろいろと世話を焼いたり焼かれたりした。
そしてグスタフは一足早く学位と妻を手に入れて帰国。
政治とか面倒だと隠居した先代から爵位を譲られて今に至る。
「ふふん、もっと言っていいよ。こいつを見上げてると首が痛くなるんだ」
と横から口をはさんだのはグスタフの奥方。
乗馬ズボンと短いチョッキに身を包み、腰まである金髪を三つ編みにして両側に垂らしている。
彼女は北方の遊牧伯家の出身で故郷では愛騎の竜鳥にまたがって魔物退治なんかもしていたという。
領地の牧畜は彼女が一手に指導しているとかなんとか。
「ほら、屋根を壊さないようにちったぁ縮め」
というと奥方が笑いながらグスタフの腰を叩く。というかそこにしか手が届かない。
オウドより頭一つ低い彼女からするとそれはそれは首が痛いことだろう。
「なるほど!首が痛くなるほど毎日見つめておられるのですね。
……仲が良くてうらやましいなぁ」
「……ち、ちげぇし?!」
オウドの感想にうろたえる奥方様。
「ハニー、さすがにここでは恥ずかしい……」
「だからぁ違うっ!」
赤くなって手をもじもじとする伯爵の腰をぽかぽかと殴る奥方。
となごやかに元魔法学園生としての久闊を叙しあうのであった。




