「なるほど、おカネがないんだね」
「なるほど、おカネがないんだね」
「はい」
明り取りの窓が全開にされても薄暗い城内。
スッカラカンのかがり火や魔道灯が虚しく佇んでいる。
「昨年の大不作の影響で、流民とか発生して。それを受け入れちゃったから借金が膨らんで」
「はい」
「母さんは借金を返すために冒険の旅にでてしまったと」
「はい」
「そこで、母さんの留守をあずかるのが、いそぎ帰国したこのボク!オウドリヒト・フォン・グリムホルンということだね!」
「はい」
紺青の眼をした若君の底抜けの晴天のように明るい声に対し、青年の書記官ルークが暗い声で答える。
なぜこの若君は少しうれしそうなのだろうか。領地の状況は今説明した通りで危機的状況なのだけど……。
「若君、この借金はですね、領内からした分だけじゃなくて、帝国への上納金や商会への返済金が含まれているんです」
「うん、さっき聞いたよ」
「どちらを延滞しても領地お取りつぶしか、領地差し押さえか……周囲の領主が一斉に攻めてきて全員奴隷に売られるかもなのですよ。だから……」
「お、お兄様……ど、どうしましょうか……」
ルークの説明を聞いて震えあがったのが若君の隣の椅子にちょこんと腰かけている姫君だ。
胸元に手を置きながら、兄と同じ紺青の瞳がおどおどと兄を見上げる。
「おお、ボクの小さく可愛いドルミーナ!安心しておくれよ、このボクの活躍ですべて解決してみせるから!」
「まぁ、お兄様!素晴らしいですわ!」
「いや、何もしないでください」
「えー」
えー、ではない。ルークは思った。
「母君、つまりグリムホルン迷宮伯様は偉大な冒険者でもあらせられます。今年の収穫までの返済金ぐらいは稼いでいただけるはずです」
「そうだね!」
「ですから、我々にできることはしっかりと留守番をしながら、少しでも経費を浮かせることです」
「ああ、だからボクの帝都留学が取りやめになったんだね」
「すみません、かなり高いので……」
申し訳なさでルークは伏し目がちになる。それなりの魔法貴族なら帝都に留学するのは当然。特に冒険者あがりの二代目にとっては帝都での貴族教育はとても大事なことだ。貴族としてのしきたりやマナー、帝都の魔法知識を身に着けるためなら高額の費用もやむを得なかった。
それなのに留学途中で学位も取れずに帰国するのは不本意だっただろう。
「はっはっは、大丈夫。ボクの愛する領地領民の危機にそんなことで文句は言わないさ。むしろこんな活躍の場が与えられて本望!」
「ですから活躍しないでください」
「えー」
えー、ではない。
若君ってこんなに軽い子だっただろうか?帝都での貴族教育が間違ってたんじゃないか?と思いつつもルークは現状の説明を続けた……。
- - - - -
相変わらず薄暗い城の謁見の間。
金になりそうな調度品はあらかた借金のカタに取られていてガランとしている。
伯爵嫡子のご帰国の挨拶をするため、領内の要人が次々に訪れていた。
「なんだって?ゴブリンが出たのか?」
「はい……作物や家畜への被害もあり、領民も安心して仕事ができず……」
身を乗り出して聞き入っている若君の前で頭を下げているのは領内の村長と村方役人たちだ。
「本当は冒険者を雇って討伐をすべきですが費用もなく……あ、いやなんとか追い払いはできております。……なにとぞ今年の年貢も配慮を」
まぁそれが言いたいことだろうなとルーク書記官は思った。
ゴブリンは小さいが厄介な魔物だ。臆病で一匹一匹は子供程度の力しかないが、こっそり作物や家畜を荒らしまわる。
下手すると子供がさらわれたりするが、ゴブリンが数体程度なら村人でも棒や農具で追い散らせる。
根絶するならば討伐が必要だが、ふつうはそうやって隣の村に追い込んで、その村がさらに隣に追い散らしということで追い払っていくものだ。
「ああ、大変だ。まったく大変だろう。とはいえ、今苦しいのはどこも同じ。今年の収穫についてはきちんと調査に行くので年貢はその時に……」
「しかし……」
口をはさむルーク書記官に村長が食い下がろうとしたとき。
「お兄様、とてもかわいそうです……」
「はっはっは、任せたまえ!ゴブリン程度このボクが討伐してみせよう!」
「お子様方ぁ!?」




