夢見た城と第二王女
シーラが使い魔になり傷が癒えた事で、隠れ里の住民はその大半がフィアの使い魔になる事を受け入れた。
勿論、中には絶対に嫌だと言う者もいた。
そういった者には、フィアは宣言通り魔法を使う事はしなかった。
そんな使い魔の契約を拒んだ者たちを住民に運んでもらい、フィア達は屋敷の庭に彼らを集合させた。
その後、伊蔵達を先頭にしたその集団から離れると彼女はその身を巨大な城へと変えた。
“それじゃあ皆さん、中に入って下さい。このまま里までお送りしますので”
「……何なんだ、あの魔女は」
「レアナ様も色んな魔法が使えたけど、流石にこれは見た事無いわねぇ」
そんな感想を述べながら、住民達はフィアが変化した守護魔女の屋敷よりも大きな白亜の城へ足を踏み入れる。
城の中は白い壁で構成され、まるでおとぎ話の城の様な煌びやかな作りとなっていた。
それは以前、カラの城へ向かう際、フィアが伊蔵に話したお姫様のいる城を思わせた。
「ふむ、戦の為の城というよりは貴人が宴席を楽しむ場所の様じゃの」
「なぁ、これってフィアの体なんだろ? 俺達、消化されたりしねぇよな?」
「消化!?」
「やはり食べるつもり!?」
“そんな事しません!! もう、ベラーナさんはマルダモさんの中で泊ったんでしょ?”
そういやそうだったと呟きつつ、ベラーナはロビーのソファーに腰を落とす。
その青いビロード張りソファーは柔らかく、フィアのイメージがそのまま再現されていた。
「中々、座り心地のいい椅子だぜ」
「さようか。どれ……」
伊蔵もベラーナの向かいに置かれたソファーに腰を下ろす。
「ふむ、確かにカラの城にある物より上等なようじゃ……同じ物が儂の部屋にも欲しいのう」
「クッ……調度ばかりで食べ物が無い」
「本当ね……食堂も厨房も無いわ」
シルスとフォルスは一通り内部を見て回って来たようだが、彼らが期待していた物は城の中には無かったようだ。
“すいません。流石に食べ物は作る事は出来ないので……それより伊蔵さん、そんなに座り心地いいですか?”
「うむ、柔らかく体を包み込むようじゃ」
“そうですか……私も見たり触ったりしたいんですけど、でもそれは私が変化した物で……”
内部はフィアの理想を追求した調度で統一されている。
それは彼女が夢見た物だったが、いかんせん彼女自身が魔法それに変じている為、どんなに願ってもフィアが調度に直接触れる事は出来そうに無かった。
“うぅ……もどかしいです。夢の空間がそこにあるのに……はぁ、仕方がありません……では里へ向かいます”
微かな揺れと共に城は風を纏うと屋敷の庭から浮き上がり、突然、城が現れた事で驚きの声を上げたダナールの人々の注目を浴びながら空高くへと消えた。
■◇■◇■◇■
ダナールの街の守護魔女の屋敷が襲撃されてから数日後、領主であるヘイズの城に桃色の髪の間から長く角を伸ばした女が訪れていた。
領主の執務室、年の頃は二十代後半に見えるその女は、濃緑の瞳をソファーの向かいに座った薄い青紫の肌をした禿頭の男へ向けた。
「それでヘイズ、はぐれ魔女とその魔女が従えていた住民は何処にいるの?」
真っ赤なフリルの付いたドレスを着た女は、手にした扇子で口元を隠しながら柔らかい口調で尋ねた。
その問い掛けに青い貴族服を着た禿頭の男は額に汗をにじませながら口を開く。
「はぐれ魔女は捕らえましたが、住民共は賊に奪われまして……」
「奪われたのなら取り返せばいいじゃない」
「それがですな……領内の部下が次々に姿を消しまして……捜索に向かわせた者も行方が分からず……」
「じゃあ、あなたが行けばいいでしょ? 分かってるのかしら、私、かなりイライラしているのよ?」
女の雰囲気が一変し、部屋のガラスが蜘蛛の巣を張った様にひび割れる。
「ミミル様、どうかお怒りをお鎮め下さい。住民はまだですが、はぐれ魔女は捕らえておりますので……」
「ふぅ……ヘイズ、知っているとは思うけど、私、そんなに気の長い方じゃないの。ここに来たのも待ちきれなかったからなのよ」
「ええ、それは勿論、重々承知しております」
「……まぁいいわ。早くそのはぐれ魔女を連れてきて頂戴」
「畏まりました」
ヘイズはそう言って頭を下げると執務室の扉に顔を向け手を打った。
しかし暫く待ったが誰も返事をしない。
「下僕の教育がなってないわねぇ」
「もっ、申し訳ございません。いつもならすぐに兵が顔を出すのですが……」
ヘイズはソファーから立ちあがると、扉を開け廊下を確認した。
いつも控えている筈の警備兵の姿は無く、それ以前に廊下には誰一人、人間の姿は見えなかった。
「これは、どういう事だ……? 誰か!? 誰かおらんのか!?」
廊下に声を張り上げるも返事をする者は一人もいない。
何か異常事態が起きている。
そう考えたヘイズは右手を持ち上げ、人差し指をクイッと上に向ける。
すると彼の足元から湧き上がる様にひざ下程の小人が次々と出現した。
総勢二十体の皮鎧を着た盗賊を模した小人はヘイズの前に並び膝を突く。
ヘイズは符牒の様に複雑に右手を動かす。
その右手の動きに合わせ、小人たちは一斉に城の中へと散っていた。
「程なく状況は知れましょう。それまでお茶でもいかがですか?」
ミミルはテーブルに置かれた優美なカップをチラリと見ると視線をヘイズに戻した。
「結構よ。はぐれの血で喉を潤すことにするから……」
「さようですか……所でミミル様……その……なぜ今回はそれ程、お急ぎに……?」
「なあに……聞きたいの? いいわよ教えてあげても……その代わり……」
ミミルの目が笑みの形に歪む。
その瞳は笑っていたがそれは明るい物では無く、暗い喜びに満ちていた。
まるで肉食獣が獲物を見つけた時のように……。
「さっ、差し出がましい事を申しました。忘れて下さい」
「……なぁんだ。つまらない……」
慌てて頭を下げたヘイズにミミルは興味を失ったらしく背もたれに体を預け、ゆっくりと手にした扇子を揺らした。
僅か数分の事だったが、ヘイズにとっては気まずい沈黙の時間が過ぎた。
「ねぇ……まだなの?」
痺れを切らしたミミルがヘイズに目を向けた時、突然、禿頭の男は立ち上がり叫んだ。
「これは!?」
ヘイズは先程同様、右手を動かし顔色を変える。
「ミミル様はここでお待ち下さい!」
「なにか問題?」
「いっ、いえ、問題など……そうですとも、問題など何もございません!」
問題無いとは思えない表情で汗を吹き出しながら、ヘイズはミミルを残し部屋を後にした。
「……ウフフッ……なんだか楽しい事になりそうねぇ……皆すぐ壊れちゃうから、頑丈な子だといいんだけど……」
そう言うと、ミミルは楽しそうにクツクツと笑った。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




