似た者同士
フィアの使い魔となったローグはモリスとの面会をすまし、イーゴの希望で城でフィア達と魔法定着を手伝う事になった。
書庫で魔法の定着について一通り説明を終えた後、イーゴは一冊のノートを取り出した。
それはイーゴが魔女達の協力が得られず無駄だと思いつつ、ずっと書き溜めていたアイデアノートだった。
そこに書かれていた武器を実際に試作する作業にはローグの能力はうってつけだったのだ。
「今回、俺が考えた武器には鉄の加工技術が絶対に必要だ」
「鍛冶屋じゃ作れないのか?」
「ああ、人間の鍛冶屋じゃ熟練に時間がかかり過ぎる」
「で、何を作ればいいのさ?」
「これだ」
イーゴはテーブルの上に図面を広げた。
「なんだコレ?」
「これは伊蔵の爆発するナイフを見て考えた新しい武器だ」
図面には弩に使う太矢が描かれていた。
矢じり部分が空洞になっており、内部には何か別の素材を仕込む様になっている。
「この矢の先を作ればいいのか?」
「そうだ。その矢じりの先にこいつを仕込みたい」
イーゴは印の刻まれたひし形の金属片を翳して見せた。
「なんだそれ?」
「こいつには炎と嵐が定着してある」
「炎と嵐……それってそのまま矢で使えばいいんじゃぁ……」
「そこがミソだ」
ローグはニヤリと笑ったイーゴに首を傾げる。
「どういう事?」
「いいか、炎と嵐を矢じりに定着させても、それは表面から噴き出すだけだ」
「よく分かんないけど、そうなんだ?」
「ああ、だがコイツの周りを鉄で覆えばどうなると思う?」
「……鉄の中で力が暴れる?」
正解を導き出したローグにイーゴは満足気に頷いた。
「そうだ! 暴れた力は圧縮されやがて弾ける! それは普通に表面から噴き出すよりも何倍も強い力を発生させるのさ!! ……多分な」
「多分って事は試して無いんだな?」
「今までは鉄をそんな風に加工できる職人さんがいなかったそうなんです」
フィアがローグの質問に答える。
イーゴは伊蔵の爆裂を見てすぐにこのアイデアを思い付いたのだが、領内にはそんな物を作れる鍛冶屋はいなかった。
それも仕方の無い事かも知れない。
魔法という規格外の力がある所為で人間はあくまで魔女のサポートに過ぎず、この国では人の使う武器はそれ程進歩する必要が無かったからだ。
「なんだか危なそうで私は少し怖いですが……」
「そうですね……出来ると思って浮かれちゃいましたが、完成したとしても扱いには十分注意が必要かもですね」
「そりゃ、どんな物でも注意は必要だがよぉ……」
慎重論を唱えたアナベルに興奮気味だったイーゴとフィアは少しトーンダウンした。
「……反乱の為にはそれが必要なんだろ?」
「ええ……カラさんはたった一人で町を破壊する竜巻を生み出しました。地方領主であるカラさんでそうなのですから、王族や中央の貴族はもっと強い筈です」
「王族か……そいつらの命令で俺はこんな見た目になっちまったんだよな?」
イーゴは石で出来た自分の右手に目を落とした。
「……そう……ですね」
「今もこの領以外じゃ人狩りはやられてるんだろう?」
「だと思います」
「……やろうぜ。俺は俺をこんな風に変えた奴らに一泡吹かせてやりたい」
「ローグさん……」
石の右手を握りしめたローグをフィアは少し悲し気に見つめた。
■◇■◇■◇■
フィア達が城で新たな武器を試作している頃、伊蔵はジルバとベラーナと共に二番目の魔女の下に向かっていた。
「なぁ、何で俺まで行かなきゃなんねぇんだよ?」
「ローグの様に飛ぶのが苦手な者をお主には運んでもらいたい」
「また駅馬車かよ……」
「フフッ、蝙蝠にはお似合いの仕事ね」
「おめぇも馬役がよく似合ってるよぉ」
「何ですって!?」
言い争いを始めたベラーナ達に伊蔵はため息を吐いた。
この二人は根っこは何処か似ているのに、反りが合わずしょっちゅうぶつかっている。
いや、似ているからこそぶつかるのかも知れない。
そんな事を思いながら伊蔵は二人を止めるべく口を開いた。
「止めぬか二人とも……ふぅ、儂もフィア殿の様に言葉一つで人を止められたらのう……」
「お前がそんな力を持っちまったら手が付けられなくなるじゃねぇか!」
「止めてよ! 今でもおかしいのにこれ以上強くなられちゃ堪らないわ!」
蝙蝠と猛禽は同時に伊蔵に反論を返した。
息ピッタリの二人を見て、やはり似ていると伊蔵は苦笑する。
「……さようか。ともかくじゃ、次のはぐれは山に住み着いておるようじゃ。そうじゃなジルバ?」
「ええ、城から北西の山。山って言ってもそんなに高くないんだけど……野イチゴを取りに出かけて迷った女の子が、山の中腹にある古い屋敷で助けてもらったらしいわ」
「娘を助けた?」
「うん。なんでもお菓子を貰って、それからふもとまで送ってくれたそうなのよ」
「ふむ……今度は戦わずに済みそうじゃの」
迷った娘を助けたという事は性格は穏やかな筈だ。
伊蔵は説得で何とかなりそうだとホッと息を吐く。
戦っても負けるとは思わないが、勢い余って殺してしまう可能性もある。
フィアの事を考えると伊蔵としても殺生はなるべく避けたかった。
そんな伊蔵とは逆にベラーナは残念そうに肩を竦める。
「なんだよ、戦闘は無しか……せっかくこいつを試せると思ったのによぉ」
ジルバの右手には黒革の籠手が装備されていた。
こちらには攻撃用の魔法が仕込んであった。
「あなたねぇ……それよりこの籠手返さなくていいの?」
「俺はお古は使わねぇ主義だ」
「あっそ、じゃあ、貰っちゃうわね……黒は嫌だから後で赤に塗り変えようかしら……」
ジルバは飛びながら左手の籠手を手を回し眺めた。
「あ? 何で黒が駄目なんだよ?」
「嫌よ、あなたとお揃いなんて……なんだか仲良しみたいじゃない」
「仲は良いと思うがのう」
「「良くねぇ!(ないわよ!)」」
同時に声を上げたベラーナとジルバを見て、伊蔵はこれは同族嫌悪と言う奴かのうとその日何度目かの苦笑を浮かべた。
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