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魔力の結晶

 心臓が傷を負いフィアの使い魔となり、今度は全身が彼女の魔力無しでは生きられない体となった。

 その事で強力な魔女を凌駕する力を得たが、その力もまたフィア頼み。


 自分が求めたのは一人で完結する力であり、国元でも共有出来る知識や技だった筈なのだが……。


 魔女、それを生み出す悪魔。

 そんな見た事の無い正体不明な物に、伊蔵(いぞう)は深く絡め取られているような感覚を感じていた。


 そんな思いを深呼吸する事で意識から追いやる。


「ふぅ……この国に来た時は力を見つけ、すぐにでも国に帰るつもりじゃったのじゃがのう……」

「伊蔵さん……私に関わったばっかりに……」


「フィア殿が気にする事では無い……どうせこの国から厄介な魔女達を排除するのじゃからな、その過程で方策も見つかるじゃろう……先程は取り乱してすまんかった」


 伊蔵はテーブルの横でこちらを見上げるフィアの前に膝を突くと彼女の頭を撫でた。


「あう……だから子供扱いは……」


 そう言いつつも頭を撫でられたフィアは少し嬉しそうだった。

 伊蔵はそんなフィアを抱き上げると椅子に座らせる。


「さて、それでこの結晶についてじゃが……カラ、これを喰えばフィア殿は力を得られるのじゃな?」

「多分ね。王子と王女はそれを貴族達に献上させてるから……でもいくら強くなれるとしても人の体に出来た石を食べるとか……ちょっと気持ち悪いよね。それより僕も体を再生していい?」


「気持ち悪い……やっぱりそれが普通の感覚ですよね……」

「カラ、余計な事を申すな。それと体の再生はフィア殿が力を得てからにせよ」

「はいはい、分かりましたよ」


 伊蔵はカラに釘を刺し、手にした石をフィアに差し出した。


「うぅ、なんだかすごく堅そうなんですけど……カラさん、本当にこんな物食べて平気なんですか?」


「さぁ? 王子達からは石が生まれたら献上しろとは言われていたけど、僕は面倒だから無視してたし、彼らが食べている所を見た訳じゃないからね」


「俺が聞いた結晶の噂話も出所は王子達だったのか……」


 アガンはカラの話から類推し、自分が聞いた話がどう生まれたか思い当たったようだ。


「カラ、聞きたいんだが、そいつは俺が喰っても力を得られるのか?」

「どうだろうね。悪魔喰い以外には無理かもしれない……試してみる?」


 アガンの瞳が伊蔵の手にある石に向かい、その喉がゴクリと鳴る。


 石を見ながら彼の心は揺れていた。

 力は欲しい。

 それは彼がまぐわった悪魔の望みでもあったから……しかしベラーナに話した様に、身の丈を超えた力を得れば耐え切れず弾けてしまうかもしれない。


「あの、アガンさんがどうしても食べたいなら私は別に……」


 フィアの顔には食べたくないなぁという思いがアリアリと浮かんでいた。


「……伊蔵、石をくれ」

「フィア殿、本当によいのか?」

「ええ、どうぞどうぞ……だって人の体に出来る石って要は結石みたいな物でしょう……なんだか汚いような気が……」


「汚いって……気持ち悪いとは言ったけど、自分の体から出来た物をそんな風に言われると何だかモヤモヤするなぁ……」

「フィア、これから喰うんだぞ。そう言う事言うなよ……」


 フィアの言葉でアガンの顔が情けなく歪む。

 死ぬかもしれないと躊躇していた事に別の理由が加わってしまっていた。


「どうするのじゃアガン?」

「クッ……俺も男だ! 覚悟を決めたぜ!」


 アガンは伊蔵の手からひったくる様に石を取ると、その勢いのまま口に入れ飲み込んだ。

 伊蔵達はアガンの様子を暫し無言で見守った。


「……どうじゃ? 力は得られたか?」

「アガンさん、変な味がしたりお腹が凄く痛いとか無いですか?」

「君、さっきから僕の石を汚物扱いしてるよね?」


 変化の無いアガンに伊蔵達の緊張の糸が解けた頃、沈黙していた彼の体が小刻みに震え出した。


「アガン?」


 声を掛けた伊蔵には答えず、アガンは体を大きく震わせるとテーブルに突っ伏し盛大に嘔吐した。


「わわっ!? やっぱり毒的な何かが!?」

「ちょっと、アガン!? 吐くなら吐くって言ってよ!」


 フィアは椅子の上で身を縮め、カラは風を操りテーブルの上から避難した。


「ゴホゴホッ……はぁはぁ……」

「……あの、アガンさん大丈夫ですか?」

「はぁはぁ……駄目だ……強烈に胃にもたれる……やっぱ悪魔喰いでないと受け付けねぇみてぇだ」

「さようか……ではフィア殿、石はやはりお主が……」

「えっ!? ええっ!!!」


 アガンが吐き出した胃液の中には青白い石が光っていた。

 伊蔵はそれをつまみ上げるとフィアに向かって差し出す。


「さぁフィア殿」

「せっ、せめて洗って下さい!!!」

「ぬっ、さようか……では井戸で洗ってまいる。アガン、お主はテーブルでも拭いておけ」

「あっ、ああ……」


 伊蔵はそう言うとスタスタと家を出て行った。

 それを見ていたカラが呆れた様子で呟く。


「彼、大分変ってるね」

「あの人はずっとあんな感じですよ……目的以外の事は気にしないというか……デリカシーに欠ける所があるんです」

「そう……アガンもベラーナもどこか似た所があるし、君も大変だね」

「あんな変わり者と一緒にするな!」


 テーブルをぞうきんで拭くアガンの叫びを聞きながら、フィアはどうしてもあの石を食べなくてはならないのだろうかと深いため息を吐いた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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