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伊蔵がいなくても

 その日、第二王女シーマは兄である第一王子クレドの答えを聞こうとルードリアの城、その執務室を訪れていた。


「兄上!! 約束だ、答えを聞こう!!」

「……シーマ、お前はいつも急ぎ過ぎだ」

「兄上がのろまなのだ!! それで答えは!?」

「いいだろう。お前の提案を受けてやる」

「ようやくか……」


 シーマは執務室に置かれた酒の置かれた棚からグラスを二つとりだした。


「では、血と結晶の交換を」

「フンッ……こんな形でお前の血を得る事になるとはな……」


 クレドはシーマの差し出したグラスを受け取ると、着ていた貴族服の胸をはだけその胸に右手を突き立てた。


「クッ……これか……」


 探り当てた結晶を取り出し、氷を入れる様にグラスに落す。

 カランと澄んだ音が響いたグラスに、胸から流れ出た血を注いでいく。


「まさか、自分で自分の結晶を抉り出す日が来るとは思っていなかったぞ」

「それは私も同じだ」


 そう返したシーマも纏っていた白い騎士服の胸をはだけ、自身の結晶を取り出しグラスに血を注いでいた。


「では交換だ」

「よかろう」


 胸を血で染めた王子と王女は互いが持つグラスを交換し、まるで誓いの儀式の様にお互いの杯を飲み干した。


「これが血族の血……ハハハッ、素晴らしいぞ!! どんどん力が溢れてくる!!」

「クククッ……シーマ、血と結晶は餞別代りにくれてやる……代わりにこの国は俺がいただくぞ」

「何を言って……」


 血を飲み干したクレドの体が翳む様に消え、落ちたグラスが甲高い音を立てて砕けた。

 シーマは兄の気配を探り、自分が犯した失態を悟った。

 二重身……その身を二つに分け、互いが互いを補完する魔法。


 兄はそれを使い、血と結晶で得た力を背景に末の妹を喰うつもりだ。


「おのれぇ、そうはさせんぞ!! この国の王は陰謀好きなノロマでも嗜虐に傾倒した性倒錯者でもない!! 純粋に力を求めるこの私だ!!!!」


 シーマの怒号は爆炎となって執務室とその周辺を一撃で破壊した。

 城は揺れ、爆発の余波を受けた魔女と召使いの苦痛の声が響く中、魔法で作り出した白銀の甲冑を纏ったシーマは炎の中から飛び出し真っすぐに南へ向かった。


 流線型の障壁で身を包み、その障壁の後部から魔力で生み出した燃焼ガスを放出しながらシーマは音速を超えて南へと飛ぶ。

 腕組みをし怒りと焦りで歯を軋ませていたシーマを突然出現した巨大な竜巻が取り囲んだ。


「何だコレは!? これも兄上の仕業か!?」


 思わず空中で静止し、周囲を見渡して気配を探る。

 先程まで無かった強大な魔力の高まりに眼下に視線を送ると、視線の先の森の中、木々の枝の上で一本角の青年と全身甲冑の小柄な人影がこちらを真っすぐに見上げていた。

 その兜からは自分の物によく似た角が二本長く伸びていた。


 その全身甲冑が両手を掲げ、魔法を行使する。

 甲冑の放った攻撃魔法は竜巻内部に満ち、周囲の風の流れに沿い竜巻内部を魔法による暴力の嵐に変えた。


 雷撃と炎が踊り、刃と虹色の鱗がそれを彩り、衝撃が振動で砕けた岩を弾き、その岩に冷気が毒気を含んだ霜となって付着し刃を形作る。

 更にそれに乗せて赤い閃光と真空の刃がシーマの周囲を飛び交った。


 魔法という名の暴力が支配する地獄がそこには生み出されていた。


「魔法の複合だと……あの角……まさか奴は母上の!?……グッ!?」


 答えを言う前に雷撃がシーマを襲い、彼女は張った障壁ごと魔力の渦に飲み込まれた。

 障壁に力を送るが、目まぐるしく回転する視界に集中が途切れる。

 その隙を突く様に赤い閃光が障壁を焼き、冷気と岩の刃が弱まった障壁を砕き切り裂いた。


「おのれぇ、おのれぇ、おのれぇえええ!!!!」


 シーマの怨嗟の叫びは二人の魔女が作り出した嵐に飲み込まれ掻き消えた。



 ■◇■◇■◇■



 第一王子、クレドの居城のほぼ真南。

 ミミルの支配する南部との国境近くの森の中に潜み、フィアはカラと共に北に視線を送っていた。


「ねぇ、まだなの?」

「もうそろそろの筈です。あっ、先に言っておきますけど殺しちゃ駄目ですよ」

「ふぅ……いいんじゃないの、流石に王族はさぁ……」


「駄目です。死んじゃったら二度とその人には会えないんですよ」

「ホント、徹底してるなぁ君」


 フィアもカラもその身には鎧を纏っていた。


 カラは白い革の鎧で金属で補強されている物。

 フィアはサイズが無かったので、ローグが体に合わせて加工した金属の鎧を身に着けている。

 兜には角を出す為の穴があり、一見、飾りの様に見える。


 顔はスリットの入ったバイザーで隠されており、表情は窺えない。

 そして、どちらの鎧にもイーゴとアナベルによって魔法の定着印が刻まれている。


「ところで、ホントに大丈夫? 狼君の話じゃシーマはクレドの血と結晶を飲むんでしょ? 凄く強くなってるんじゃあ……」


「大丈夫です。感じる魔力の強さから考えて今の所、私の方が強いですし、不意を突けば押し切れる筈です」

「はぁ……面倒臭いなぁ……何で僕なのさぁ……」


「だってカラさん、お城じゃ一番強くて魔法の扱いも上手いじゃないですか……それに……一番暇そうでしたしね」

「暇そうって……」


「あっ、来ましたよ!!」


 フィアが指差した先、桃色の髪の白銀の甲冑を着た女が真っすぐにこちらに向かって飛んで来る。


「はい、じゃあカラさんお願いします!」

「ふぅ……分かったよ……」


 カラは呪文を詠唱しその甲冑の女が丁度真上を通った瞬間、両手を掲げ巨大な竜巻を出現させた。


 フィア達の上空に発生した竜巻は、以前カラがベドの町で発生させた物よりも遥かに大きかった。

 また、あの時とは違い竜巻は内と外の二重に渦を巻いており、互いに風を打ち消し取り込まれた物以外には影響を与えていない様だった。


 つまり、竜巻の影響を受けたのは取り込まれたシーマのみだ。


「お上手です!!」

「はいはい、ありがとね。次は君の番だよ」

「了解です!! では」


 フィアは両手を掲げ現在、所持している魔法と鎧に刻んだ魔法を竜巻の内部に流し込んだ。


 竜巻の内部はそれにより、電撃と冷気、炎に刃、さらには巨大な岩石に混じり虹の鱗が舞い、甘い臭いと黒い霧、閃光と不可視の刃、さらに衝撃が発生するさながら魔法の競演の様な状態となっていた。


「うわぁ……滝つぼに飲まれてもああはならないよ……君さぁ、僕に殺すなって言ったよね?」


 見上げた先ではシーマが風に巻かれ、激流に飲まれた小舟の様にもてあそばれている。


「大丈夫です……ミミルも伊蔵さんの……爆裂に耐えましたから……この程度では死なない筈です」

「この程度って……死ななきゃいいって問題でも無いと思うんだけどねぇ……しかし、まぁ魔法の並列制御なんてよく出来るね」


「複数の魔法を……同時制御出来ないと……イーゴさんのアイデアを……実現出来ないん……ですよ」

「それにしたってだよ。相反する力をぶつからない様にコントロールするとか……普通考えないよ」


「元々は……アナベルさんが……思いついたんです……私はそれを……よっと……アレンジしただけで……それに薬師ですから……材料を混ぜて効果を……おっと……上げるのは得意なんです」


 フィアはシーマが死なない様、微調整を繰り返しながら複雑に絡み合う魔法を操っていく。

 やがて竜巻が消えると、ズタボロになったシーマがフラフラと地面に降り立った。

 角は折れ身に着けていた甲冑は弾け飛び、白い肌からは血を滴らせている。


「ふぅ……じゃあ、行きましょうか」

「……君、無茶苦茶だなぁ」


 カラは若干引き気味にバイザーを上げたフィアの横顔を眺めた。

 その顔はいつもの穏やかな物でなく、真剣で張りつめた物だった。


「……被害を出す訳にはいきませんし……それに私はまだ死ねません。その為なら卑怯でも無茶でも、やれる事はやります……今は伊蔵さんもいないですしね」


「……最後のが一番の理由かな?」


「……そういう勘は鋭いですね…………あの人はいずれこの国を去る人です……ずっと頼ってはいられません」

「だからシーマ達が来る事を分かっていて伊蔵を東へやったのかい?」


 クレドとシーマのやり取りは、クレドの居城に潜伏していたガルドによってモリスの下へと届いていた。

 ガルドの情報、そして辺境に逃げ込んで来たスタルトスとカダハルから得た広域探知能力によって、クレドとシーマの動向もフィアは掴んでいた。


 目の前でコバルトを見たフィアは王族に潜む悪魔の気配を正確に見分ける事が出来たのだ。


「ええ……伊蔵さんがいなくてもやって行けるって思いたくて……」

「アハハッ、そんな心配しなくても王族のシーマを手玉に取れるんだから、君は伊蔵がいなくても十分やってけるさ」


 笑うカラの言葉にフィアは嬉しい様な寂しい様な複雑な笑みを返し「行きましょう」と再度カラを促した。

 それに「はいはい」と答え、カラはフィアと共に草原に膝を突き荒い息を吐いているシーマの下へ風を使い飛んだ。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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