第14話 「すべては計画通り」
7月18日の夜。
奈々美は一人でアパートの荷造りをしていた。
段ボール箱に荷物を詰めながら、これまでの日々を振り返る。
「全ては4月から始まった……」
奈々美の脳裏に、初めて黒峠高校に転校した日が蘇る。
教室に入った瞬間、奈々美の視線は一人の男子生徒に釘付けになった。
「元樹くん……」
7年間探し続けた人。
成長して面影は変わったが、間違いない。
あの優しい目、あの声。
担任の佐々木先生が言った。
「じゃあ、奈々美さんの席は……渡部の隣が空いてるな」
『計画通り』
奈々美は内心で微笑んだ。
実は、この席の配置も事前に根回ししていた。
転校前に学校を訪れ、担任に「元樹くんの隣がいい」と頼んでいたのだ。
「人見知りで不安なので、優しそうな生徒の隣に座りたい」
そう言えば、担任は快く了承してくれた。
席に座った瞬間、元樹の匂いを感じ取る。
シャンプーの香り、制服の匂い。
全てが愛おしい。
『やっと……やっと会えた』
授業中、奈々美は元樹を観察し続けた。
ノートの取り方、鉛筆の持ち方、時々見せる表情。
全てを記憶に焼き付ける。
休み時間、上野玲という女子が話しかけてきた。
「全然笑わないし、なんか変じゃない?」
その時、奈々美は玲を敵と認識した。
元樹との距離が近すぎる。
幼馴染という特別な関係。
『邪魔……』
でも、表面的には穏やかに振る舞った。
焦ってはいけない。
ゆっくりと、確実に元樹を手に入れる。
「あの頃は……失敗した」
奈々美は自分の過ちを認める。
毎日元樹に付きまとい、他の女子と話させないようにした。
特に玲には敵意をむき出しにしていた。
文化祭の準備中も、元樹から目を離さなかった。
玲と話している時は、必ず割って入った。
「元樹くん、お弁当一緒に食べましょう」
元樹の自由を奪い、完全に管理しようとした。
それが愛だと思っていた。
でも、元樹の表情は日に日に暗くなっていった。
『何がいけないの?』
当時の奈々美には理解できなかった。
こんなに愛しているのに。
こんなに一緒にいたいのに。
文化祭でのシンデレラ。
元樹が山田麻衣と親密に演技をする姿を見て、嫉妬に狂った。
継母役として、シンデレラをいじめるシーンで本気になってしまった。
「もっと惨めに! もっと哀れに!」
玲が仙女役として登場し、「真の愛」について語った時、奈々美は怒りを覚えた。
『私の愛が真の愛じゃないって言うの?』
「6月は……最悪だった」
奈々美は苦い表情を浮かべる。
元樹は明らかに疲れていた。
束縛を嫌がっている。
それでも、奈々美は手を緩めることができなかった。
図書室で、玲と二人きりになった元樹を見つけた時、怒りが爆発した。
「何してるの?」
玲を威嚇し、元樹を連れ去った。
でも、その夜元樹から来たメッセージは冷たかった。
『もう少し距離を置きたい』
その言葉に、奈々美はパニックになった。
「離れたくない……嫌だ……」
部屋で一人、元樹の写真を見ながら泣いた。
そして決意した。
『もっと強く、もっと深く結びつかないと』
屋上に元樹を呼び出し、過去の約束を持ち出した。
「私たちの約束、覚えてる?」
元樹の表情が曇る。
「小さい頃、あなたは私に言ったの。『ずっと一緒にいる』って」
その言葉に、元樹は動揺していた。
罪悪感を利用する。
それが奈々美の戦略だった。
でも、逆効果だった。
「そして……全てが崩れた」
奈々美は拳を握りしめる。
7月上旬、元樹がついに自分の気持ちを明らかにした。
「俺は……自由になりたい」
その言葉は、奈々美の心を深く傷つけた。
「自由って……私といるのが不自由なの?」
元樹は答えに詰まる。
「奈々美の気持ちは嬉しい。でも……束縛が重すぎる」
その瞬間、奈々美は理解した。
『やり方を間違えた』
束縛すればするほど、元樹は離れていく。
追えば追うほど、逃げていく。
「わかった……私、身を引く」
その言葉を言った時、元樹は安堵と困惑の混じった表情を見せた。
奈々美は部屋に戻り、一人で考えた。
「次は……違うやり方で」
養護施設で学んだこと。
人を操るには、力ではなく心理を使う。
「束縛ではなく、依存させる」
新しい戦略が生まれた瞬間だった。
「そして今……新しい段階に入る」
奈々美は荷造りを終え、新しい町への準備を整えた。
実は、この転校も計算の内だった。
親戚が桜ヶ丘にいることは本当だが、転校のタイミングは自分で選んだ。
「元樹くんが自由を求めている今、私が消える」
そうすれば、元樹は空虚感を感じるはずだ。
束縛から解放された喜びは、すぐに寂しさに変わる。
「そして……私を探しに来る」
完璧な計画だった。
奈々美の計画の重要な部分に、元樹の妹・由美がいた。
それは4月下旬のある日。
奈々美は偶然を装って、由美に声をかけた。
「あの、渡部由美ちゃんよね?」
放課後、由美が中学校から帰る途中だった。
「え? あ、はい……」
由美は突然声をかけられて戸惑う。
「初めまして、私、貴女のお兄さんと同じクラスの柊奈々美って言うの」
奈々美は優しく微笑む。
「元樹くんの妹さんって聞いて、一度お話ししたいなって思ってたの」
「お兄ちゃんの?」
由美の目が輝く。
「お兄ちゃんと仲良いんですか?」
「うん。隣の席なの」
奈々美は由美をカフェに誘った。
「少しお茶しない? お兄さんのこと、色々教えてほしいな」
由美は嬉しそうに頷いた。
カフェでの会話
カフェで向かい合って座る二人。
奈々美はオレンジジュースを注文し、由美にも好きなものを頼ませた。
「由美ちゃん、お兄さんのこと好き?」
奈々美の質問に、由美は照れながら答える。
「まあ……うるさいけど、嫌いじゃないかな」
「ふふ、素直じゃないのね」
奈々美は優しく笑う。
「実は私、お兄さんのことが気になってるの」
その告白に、由美の目がキラキラと輝いた。
「本当ですか!?」
「うん。でも、どうアプローチしたらいいかわからなくて……」
奈々美は困った表情を作る。
「由美ちゃん、お兄さんの好きなものとか、教えてくれない?」
由美は嬉しそうに話し始めた。
「お兄ちゃんね、アニメが好きなんです。特にこのキャラクター」
スマホで画像を見せる由美。
「へえ、可愛いキャラクターね」
奈々美はメモを取る。
「他には? 好きな食べ物とか」
「卵焼きが好きです! あと、お母さんの作る肉じゃがとか」
「そうなんだ。ありがとう」
奈々美は由美の手を取る。
「由美ちゃん、実は私、お兄さんと小さい頃に会ったことがあるの」
「え!?」
「7年前、別の町で……泣いてた私を慰めてくれた男の子がいて」
奈々美は遠い目をする。
「その子が、貴女のお兄さんなのよ」
由美は感動した表情を見せる。
「それって……運命じゃないですか!」
「そうかもね。でも、お兄さんは覚えてないみたい」
奈々美は寂しそうに微笑む。
「だから、ゆっくり仲良くなりたいの。由美ちゃん、協力してくれる?」
「もちろんです!」
由美は即座に答えた。
「お兄ちゃんに彼女ができたら嬉しいし、奈々美さんみたいな綺麗な人なら最高です!」
こうして、由美は奈々美の協力者となった。
それ以降、由美は定期的に奈々美に情報を提供するようになった。
5月上旬、由美からメッセージが来た。
『奈々美さん、お兄ちゃん最近元気ないんです。何かありましたか?』
奈々美は返信する。
『ちょっと距離が近すぎたかもしれない。気をつけるね』
『お兄ちゃん、玲さんとよく話してるみたいです』
その情報に、奈々美は眉をひそめる。
『玲さんって、幼馴染の?』
『はい。昔から仲良しなんです』
『そっか。ありがとう、由美ちゃん』
奈々美は玲への警戒を強めた。
5月中旬、由美から新しい情報が届く。
『文化祭の準備で、お兄ちゃん忙しそうです。でも楽しそう!』
『そうなんだ。由美ちゃんは文化祭見に来る?』
『はい! お兄ちゃんの王子様姿、見たいです!』
『そう、是非見に来て』
文化祭当日、由美は劇を見ていた。
「お兄ちゃん、格好いい……」
由美が感動しているなか、奈々美は複雑な表情で見ていた。
劇が終わり由美と合流する。
元樹と川崎麻衣の親密なシーンを思い出して、嫉妬心が込み上げる。
でも、由美の前では平静を装った。
「由美ちゃんのお兄さん、本当に素敵ね」
「でしょう! 奈々美さんとお似合いだと思います」
由美の無邪気な言葉に、奈々美は微笑む。
『この子は使える』
6月、元樹との関係が悪化し始めた頃、由美が心配そうに連絡してきた。
『奈々美さん、お兄ちゃんと喧嘩しましたか? すごく疲れた顔してます』
『少し意見の違いがあって……心配させてごめんね』
『お兄ちゃん、夜中によく起きてるみたいです。窓の外を見てたり』
その情報は貴重だった。
元樹が不安を感じている証拠。
『ありがとう。様子を見てみるね』
由美は奈々美のために、一生懸命情報を集めてくれた。
元樹が何を食べたか、誰と話したか、どんな様子だったか。
全てが奈々美の計画に役立った。
7月、転校が決まった時、奈々美は由美を呼び出した。
「由美ちゃん、実は転校することになったの」
カフェで向かい合う二人。
由美は驚いて目を見開く。
「え!? どうして!?」
「家庭の事情で……でもね」
奈々美は由美の手を握る。
「これはお兄さんのためでもあるの」
「お兄ちゃんのため?」
「うん。最近、私の愛が重すぎたみたい」
奈々美は悲しそうに微笑む。
「だから、一度距離を置いて、お兄さんに考える時間をあげたいの」
「そんな……」
由美は涙ぐむ。
「でもね、由美ちゃんにお願いがあるの」
「何ですか?」
「私がいなくなった後、お兄さんの様子を教えてほしいの」
奈々美は真剣な表情で続ける。
「元気にしてるか、誰と話してるか、どんな表情をしてるか」
「わかりました」
由美は力強く頷く。
「奈々美さんとお兄ちゃん、絶対に結ばれるべきです」
「ありがとう、由美ちゃん」
奈々美は由美を抱きしめた。
「いつか必ず、お兄さんと一緒になるから」
こうして、由美は奈々美の最も重要な協力者となった。
奈々美の計略は、由美だけではなかった。
未菜の友人、佐藤亜里沙にも接触していた。
7月下旬、奈々美は偶然を装って亜里沙に話しかけた。
ショッピングモールの本屋で。
「あの、佐藤さんですよね?」
亜里沙は振り返る。
「え? あ、柊さん……?」
「転校した柊奈々美です。少しお話しできる?」
二人はカフェに移動した。
「実は、山田未菜さんのことで相談があって」
奈々美の言葉に、亜里沙は首をかしげる。
「未菜のこと?」
「はい。未菜さんと木口くん、良い感じね」
「え……ま、まあ」
亜里沙は戸惑いながら答える。
「実は、木口くんの恋を応援してるの」
奈々美は優しく微笑む。
「でも、未菜さんが誤解してるみたいで……」
「誤解?」
「木口くんが上野さんと買い物してるところ、見ちゃったみたい」
奈々美はタブレットを取り出し、写真を見せる。
光明と玲がアクセサリーショップで話している写真。
「これって……」
「実は、未菜さんの誕生日プレゼントを選んでたんです」
奈々美は説明する。
「でも、未菜さんは誤解して、木口くんと距離を置いちゃって」
「そうだったんだ……」
亜里沙は納得する。
「佐藤さん、未菜さんに本当のことを伝えてあげて」
「でも、どうやって……」
「まずは、未菜さんの気持ちを確認してあげて」
奈々美は優しくアドバイスする。
「木口くんのことが好きなら、ちゃんと向き合うべきだって」
「わかりました」
亜里沙は頷く。
実は、この接触も奈々美の計算だった。
未菜と光明の関係をさらに複雑にし、最終的に玲を孤立させる。
そして、元樹の周りから邪魔者を排除する。
それから数日後、奈々美は再び亜里沙に連絡した。
『佐藤さん、未菜さんと話せた?』
『はい。でも、未菜はまだ信じてなくて……』
『そうですか。実は、いい方法があるの』
奈々美は電話で話すことを提案した。
「貴女が木口くんに未菜さんを誘うようアドバイスしてあげて」
奈々美の声は優しいが、その瞳は冷たかった。
「そうすれば、二人は仲直りできると思うわ」
「わかりました! 協力します」
亜里沙は奈々美の「善意」を信じていた。
しかし、奈々美の真の目的は違った。
夏祭りで混乱を引き起こし、玲を孤立させる。
そして、元樹の周りから全ての邪魔者を排除する。
奈々美の協力者は、学生だけではなかった。
7月中旬、奈々美は桜ヶ丘の花屋を訪れた。
「いらっしゃい」
50代の女性店主が迎える。
「あの……高橋さんですよね?」
奈々美の言葉に、女性は驚く。
「え? 私を知ってるの?」
「養護施設でお世話になった、柊奈々美です」
「ああ! 奈々美ちゃん! こんなに大きくなって」
高橋は奈々美を抱きしめる。
実は、高橋は以前奈々美がいた養護施設でボランティアをしていた女性だった。
「元気にしてた?」
「はい。実は、お願いがあって来たんです」
奈々美は事情を説明した。
もちろん、真実ではなく、都合の良いように脚色した話を。
「小さい頃に別れた大切な友達が、この町にいるんです」
「へえ、それは素敵ね」
「でも、恥ずかしくて直接会いに行けなくて……」
奈々美は困った表情を作る。
「もし、その人が私を探しに来たら、道を教えてあげてもらえませんか?」
「もちろんよ。住所を教えてちょうだい」
高橋は快く承諾した。
「ありがとうございます」
こうして、元樹が花屋で道を尋ねた時、スムーズに案内されるよう手配された。
最も重要な根回しは、担任の佐々木先生だった。
転校を決めた7月初旬、奈々美は先生を訪ねた。
「先生、お話があります」
放課後の職員室で、二人きりになった。
「どうした?」
「実は……転校することになりました」
佐々木先生は驚く。
「転校? 急だな」
「家庭の事情で……」
奈々美は涙を浮かべる。
「でも、お願いがあるんです」
「何かな?」
「もし、渡部くんから私のことを聞かれたら……」
奈々美は先生の手を握る。
「居場所を教えてあげてください」
「でも、個人情報だから……」
「お願いします」
奈々美は泣き始める。
「渡部くんは、小さい頃からの大切な人なんです」
「小さい頃から?」
「はい。7年前、私が両親を亡くした時、慰めてくれたのが渡部くんでした」
奈々美は過去の話をする。
もちろん、真実だが、都合の悪い部分は省略して。
「でも、お互い引っ越してしまって……やっと再会できたのに、また離れることになって」
「そうだったのか……」
佐々木先生は同情する。
「もし渡部くんが私を探してくれたら……それは本当の気持ちだと思うんです」
奈々美の涙に、先生は心を動かされた。
「わかった。もし渡部くんに聴かれたら居場所を教えるよ」
「ありがとうございます!」
奈々美は深々と頭を下げた。
こうして、元樹が学校に電話した時、スムーズに情報を得られるよう手配された。
8月に入り、奈々美は夏祭りに向けて最終準備を進めた。
まず、元樹が夏祭りのポスターを見るよう誘導した。
元樹の通学路を調べ、必ず通る場所にポスターが貼られるよう、町内会に「匿名の寄付」という形で協力した。
次に、光明が未菜を誘うよう仕向けた。
そして、玲が一人で来るよう誘導した。
全ての駒を配置し、夏祭りという舞台で混乱を引き起こす。
玲と未菜を喧嘩させ、玲を孤立させる。
そして、元樹の周りから全ての邪魔者を排除する。
祭り当日、奈々美は完璧な演技をした。
元樹と手を繋ぎ、楽しそうに笑い、幸せそうな恋人を演じる。
遠くで騒ぎが起きた時も、元樹を引き止めた。
「気にしない方がいいわ。私たちは楽しみましょう」
その時、内心では満足していた。
『計画通り。玲と未菜が喧嘩している』
花火を見ながら、元樹の手を握る。
「きれい……元樹くんと一緒だと、もっときれい」
優しい言葉をかけながら、奈々美は冷静に状況を分析していた。
『光明と未菜は和解するだろう。でも、玲は孤立する』
『元樹の周りから、最大の障害が消える』
別れ際、奈々美は元樹に言った。
「私、もう少し頑張ってみる。変わるために」
その言葉に、元樹は感動していた。
『完璧。元樹くんは完全に私の手のひらの上』
翌日、由美から詳細な報告が届いた。
『奈々美さん、お兄ちゃん昨日の祭り、すごく楽しかったみたいです!』
『そう? 良かった』
『でも、今朝玲さんに電話してました』
その情報に、奈々美は興味を持った。
『玲さんは出なかったの?』
『はい。お兄ちゃん、心配してました』
『そっか。ありがとう、由美ちゃん』
奈々美は満足した。
計画は順調に進んでいる。
玲は傷つき、孤立している。
元樹は玲を心配しているが、それは友情としての心配だろう。
そして、元樹の心には自分への想いが育っている。
『完璧……』
奈々美の独白・現在
荷造りを終えた奈々美は、窓から夜空を見上げた。
「全ては計画通り」
物語の舞台裏で、様々な人々が奈々美の計略に巻き込まれていた。
由美は「お兄ちゃんの幸せのため」と信じて協力した。
亜里沙は「友達の恋を応援するため」と思って動いた。
誰も、自分が操られているとは気づかなかった。
誰も、奈々美の本当の顔を見ていなかった。
そして、奈々美の計略は着実に進行していた。
元樹は奈々美への想いを募らせている。
玲は傷つき、孤立している。
光明と未菜はカップルになり、元樹の周りから注意が逸れている。
全ての駒が、奈々美の思う通りに動いていた。
「大丈夫よ……」
奈々美は自信に満ちている。
「私の計画は完璧。誰にも止められない」
夏の夜、奈々美は窓から夜空を見上げながら、元樹との未来を夢見ていた。
歪んだ愛情、計算された優しさ、そして狂気的な執念。
それらが混ざり合い、物語は次の段階へと進んでいく。
第14話では、奈々美という少女の“狂気の完成形”が明らかになりました。
これまで点在していた違和感、偶然に見えた出来事、そのすべてが計算の上に成り立っていたことが暴かれました。
担任への根回し、妹・由美への接近、友人たちの利用──すべてが「元樹を取り戻すための脚本」。
愛のためにここまで徹底して動ける彼女の姿は、恐ろしくもどこか切なく、読者の感情を揺さぶります。
奈々美はもはや“恋をしている少女”ではなく、“愛という名の狂気を制御する演出家”。
誰よりも冷静で、誰よりも情熱的で、誰よりも孤独な存在です。
暁の裏




