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010 舞い込んだ試験1(コレット視点)

 宮廷魔導師の二次試験の結果を掲示板で確認していると、近衛騎士団長のクウェイル侯爵に声をかけられた。


「コレット・キールスだな」

「はい」


 クウェイル侯爵の鋭い視線は、あの日の審議会を想起させた。なぜ私に声をかけたのだろう。

 メルヒオール様に何かあったのだろうか。

 彼は今、アーロン殿下と国外に行っているから、近衛騎士団に何か連絡でもあったとか……。

 しかし、それならば私ではなくラシュレ家に話がいくだろう。

 

「宮廷魔導師の二次試験に合格したのだな。ならば、ついてこい。話がある」


 特に説明のないままついていくと、通された部屋にはルーティ様がいた。


「そこに座りたまえ」

「はい。失礼いたします」


 近衛騎士団長のクウェイル侯爵と、その隣にはルーティ様。そして向かいの席に私が着くと、テーブルに書類が置かれた。書類には近衛騎士の試験要項と書かれている。


「三日後に、近衛騎士の実技試験を執り行う。筆記については、宮廷魔導師の二次試験と内容が重複するため省くことになった」

「えっ?」

「……失礼。大事な話を飛ばしてしまったようだ。説明は、ルーティ様からお願いできますか?」 


 クウェイル侯爵が、ルーティ様に言葉を振ると、ルーティ様は緊張しながらもハツラツと答えた。


「は、はい。コレット様のお力添えもあって、私は留学試験に合格いたしました! よって、コレット先輩に近衛騎士として護衛していただきたく、クウェイル騎士団長に推薦いたしました!」

「ということだ。ルーティ様が合格されたのは隣国の学園の魔法学科だ。普通学科の場合、留学期間は一年、そして寮に住むことになるが、魔法学科は期間も通い方も異なる。特別な転移装置を用いての通学が可能であり、ルーティ様は寮には入らず、自国から半年間、通うことになる」

「遠い国の方もたくさん通われているそうなんです。一応私は王女という立場なので、近衛騎士の同行が必要なのですが……」

「その転移装置を使うには、魔法に精通する者でなくてはならないのだが、現近衛騎士でそれが可能な者は一人しかいないのだ。宮廷魔導師の中からも護衛候補を探したのだが、武に長けた者はおらず、適任者選びが難航している」

「そこで、私がコレット様を推薦いたしました! クウェイル騎士団長は、宮廷魔導師のコレット様を護衛として同行させればいいと言っていたのですが、それっておかしいですよね。王族を守るのはやっぱり近衛騎士の役目です。それに、コレット様は、剣の扱いにも長けていらっしゃるので、宮廷魔導師の杖よりも近衛騎士の剣を装備されている時の方が動きやすいのではないかと思いました。いかがですか?」

「はい。腰に剣を刺している方が、杖を持っているより、ルーティ様をお守りできると思います」


 代わる代わる説明を受け、全て理解しきる前に、私は反射的にそう答えていた。

 近衛騎士の試験を受けられる? 私が?

 まだ実感がわかないけれど、これは夢ではない。


 クウェイル侯爵は、私に厳しい眼差しを向けていた。


「ふっ。剣の方が殺傷能力は高いだろうが、扱えなければ意味がないのだぞ。剣が勝手に動いて身を守ってくれるとでも思っているのか? 魔導師の考えることはよく分からぬ」

「いえ。私は魔法学科に入り、初めて杖を持ち魔法を学びました。ですが、剣は違います。私は騎士の家系に生まれ、幼い頃からずっと剣と共に過ごしてきました。ルーティ様を守るには、不慣れな杖より、慣れ親しんだ剣の方が心強く、どんな状況に陥ったとしても扱うことができると思ったからです」

「慣れ親しんだだと? ……正直なところ、私は君を近衛騎士団に迎えるつもりはない。剣を魔法で強化することが得意とのことだが、鍛錬もせず魔法に頼り剣を持つ者など、近衛騎士団には必要ではないのだ」


 クウェイル侯爵は更に厳しい顔つきになり、呆れたように言い切った。

 あまり好意的ではないことは、声をかけられた時から感じていたが、やはり私が近衛騎士の試験を受けることを認めていないようだ。

 でも、私は試験を受けたい。

 どうにかクウェイル侯爵に認めてもらいたいと思った。


「私は日々の鍛錬を怠ったことなどありません。女だからと、剣を握ることを諦めようとしましたが、それはできませんでした。剣が……好きだからです。どうか、試験を受けさせてください。近衛騎士の試験を、受けたいんです」


 クウェイル侯爵が小さくため息をつくと、隣のルーティ様が声を上げた。


「私からもお願いいたします。私の推薦があれば、試験すら受けずに、コレット様を近衛騎士にすることも可能です。ですが、そんなズルをしたら、コレット様に怒られてしまうと思って、私はクウェイル騎士団長に試験を受けさせてもらえるようにとお願いしたのです」


 ルーティ様にそんな権限もあるのだと驚かされたが、クウェイル侯爵の表情は変わらなかった。


「クウェイル騎士団長、きっと、剣を交えれば分かりますよ。コレット様が近衛騎士に相応しいのかどうか。あ、これは兄からの受け売りですが」

「……試験は三日後、試験要項を、よく読んでおくように」

「はい。よろしくお願いいたします」


 クウェイル侯爵は私が言い終える前に席を立ち、部屋を出ていった。

 なんとか、試験を受けさせてもらえるようだ。


「コレット様、急なお願い申し訳ありませんでした」

「いえ。驚きましたが……実はとても嬉しいんです。この国で騎士になることが出来るかもしれないなんて、夢のまた夢だと思っていたので」

「その夢のまた夢が、現実になりますように。ルーティはコレット様のことを応援しています」

「ありがとうございます。ルーティ様の盾となれるよう、必ず試験に合格しますね」

「ふふっ。コレット様が一緒なら留学先でも安心です。実技試験、私も見学に行きますね」

「はい」


ルーティ様は笑顔で会釈すると部屋を出ていった。私はテーブルに残された試験要項の書類を手に取った。クウェイル様は私を近衛騎士にすることに否定的だったけれど……。


「私は近衛騎士になりたい。このチャンスを必ず生かしたい。そうよ、訓練しなきゃ」

お読みいたたきありがとうございます。

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