009 元気の源(フィリエル視点)
ガスパルとコレットに初めて出会った日、私は興奮して眠れなくて、夜遅くまで二人のことを考えていた。どうしたらコレットと友達になれるだろう、とか、どんなものが好きなのだろう、とか。そしたら風邪を引いてしまい、何日も寝込んでしまった。
そして、風邪が治りかけた頃、コレットがお見舞いに来てくれた。元気が出るようにと、お花もたくさん摘んできてくれた。
兄は無頓着だし、姉は私と同じように身体が弱かったから、風邪の時に誰かが訪ねてくれるなんて初めてだった。
笑顔でお花をくれるコレットに、私は戸惑ってしまいうまく笑えなくて、風邪をうつしてしまって嫌われるのが怖くて、冷たいことを言ってしまった。
「風邪をうつしてしまうかもしれないから……。サリアが受け取って」
「まぁ、私のことを心配してくれるの? フィリエルって優しいのね」
「えっ……」
これを優しさだと言ってくれるなんて、そんなコレットの方が優しいのに、と思っていると、コレットは笑顔で言葉を続けた。
「ねぇ、風邪って移るものなの?」
「ええ、そうよ。コレットも風邪を引いたことあるでしょう?」
「うーんと……あったかなぁ……」
コレットは考え込んでしまった。どうやら、風邪を引いたことがないみたいだ。
「ないの? いいなぁ。私はすぐ風邪を引いてしまうから。コレットみたいに元気なのが羨ましいな」
そう言うと、コレットは驚いた顔をしていた。
「羨ましいなんて、初めて言われたわ。お兄様が風邪を引いた時に言っていたの。馬鹿は風邪引かないって。私は馬鹿だから風邪を引かないんだって」
「ええっ!? 初めて聞いたわ。きっと、自分だけ風邪を引いて悔しかったのよ」
「ふふっ、そうかもしれないわ。お兄様、負けず嫌いだから。……ねぇ、元気も風邪みたいに移るかしら? 私の元気が、フィリエルに移るといいな」
にっこりと微笑んで不思議なことを言うコレットに、私は心がほっこりと温かくなるのを感じた。
「うん……。移るといいな」
風邪なんかどこかへ行ってしまったみたいに身体がフワフワ軽くなっていく。
本当にコレットの元気が移ったのかもしれない。
それから、私はコレットのお兄様の訓練の後に、彼女とお茶会をする約束をした。
コレットはいつもキールス家の料理人が作った焼き菓子を持ってきてくれて、私は色々な種類の紅茶を用意した。
二人でその菓子と紅茶を飲んで、どの紅茶が菓子に合うか飲み比べる遊びをしていた。
私は、風邪を引くことも、ベッドで寝込むことも減っていった。コレットに会いたいから、風邪なんて引いてられないって思っていたからかもしれないけれど、私は、コレットが私の元気の源だって思っていた。
そしてしばらく経った頃、ガスパルもお茶会に参加するようになっていた。確か、訓練でボロボロになったガスパルを心配して、コレットが気分転換できるようにと連れてきてくれたのだ。
「とても……楽しい時間でした」
「そうか。君達は、本当に仲が良いのだね。留学先でも心強いな」
「えっ? 留学先ですか?」
「あ、まだ不確定ではあるが──」
ヴェルネル先生が何か言いかけたとき、扉がノックされ、コレットの声が響いた。
「ヴェルネル先生、コレットです」
ヴェルネル先生は、私へ目配せした後、コレットの声に応えた。
「どうぞ」
「失礼します。あの、──あっ、フィリエル、こんなところにいたのね。会いたかったの」
私と目が合うと、コレットにしては珍しく落ち着かない様子でこちらへと駆け寄ってきた。
「コレット。慌ててどうしたの?」
「そ、それが、色々あったのだけれど……。そう、工房に行ったら、レ、レンリが」
今のコレットはさっきここへ来たばかりのときの私みたいだ。多分、ヴェルネル先生も同じことを思っているのか、口元を押さえて笑っている。
「二人は、上手くいっていたかしら?」
「えっ? なんだ、フィリエルも知っていたのね。でも、私も驚いたわ。まさか二人が婚約していたなんて」
「ん? そうだったのか?」
ヴェルネル先生は驚いてコレットに尋ねた。
さすがにヴェルネル先生も、そのことは知らなかったようだ。
まぁ、本人達すら何も知らなかったのだから当たり前だ。
この学園内では、手紙を最初に見た私が一番に知ったのではないだろうか。
「はい。レンリのお父様の窮地を助けてくださった商人の方が、ミミさんのお父様だったみたいです。ミミさんは何も知らなかったらしくて、二人で手紙を見て驚いているところに、私がお邪魔してしまって……」
コレットはヴェルネル先生に説明してくれたけれど、その顔はどんどん恥ずかしさからか、赤くなっていった。
やはり少し前の私を見ているみたいで、私まで恥ずかしくなってきてしまう。
でも、コレットはなぜ急いでいたのだろう。
色々あったと言っていたけれど……。
「それで、コレットはそんなに急いで何を伝えたかったの?」
「あ、それは……」
コレットは言いかけた言葉を濁した。
私の試験の結果は、個別の通知だったから、もしかしたら私の合否を案じて自分のことを伝えるのに躊躇ったのかもしれない。
「そうだわ。宮廷魔導師の二次試験合格おめでとう。私も留学の試験に受かったわ」
「良かった。おめでとうフィリエル」
コレットはホッとした様子で私をギュッと抱きしめてくれた。
「ありがとう。春から宮廷魔導師になるということは、やっとお兄様の隣に堂々と立てるのね」
「それが……私……」
コレットは急に顔を強ばらせた。
試験には受かったはずなのに、さっきから様子がおかしい。
「コレット、どうしたの?」
「きゅ、宮廷魔導師には、ならない、かもしれない。私……こ、近衛騎士の試験を受けられることになったの!!」
そう言ってコレットは、近衛騎士の試験要項と書かれた書類を私とヴェルネル先生に突き出した。
「こ、近衛騎士ですって!?」
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