004 懐かしい笑顔
エミルと一緒に教会へ毎日通うようになって、一週間が過ぎた。ここでの生活も大分慣れて来た私は、レンリに内緒で教会である事を始めていた。
「コレット先生! 出来たよ!」
エミル達が作ったのは木の剣である。
先日、騎士ごっこをしている子供達に枝で加勢したところ、剣を教えて欲しいと皆にせがまれたのだ。
因みに、シスターの許可は子供達が取ってくれた。
子供達は、この町やシスターを自分達で守りたいんだ、と懇願し、シスターを感動させていた。
それに、この国では女性も騎士になれるからか、私が枝を振り回していても、誰も変な目で見る人はいなかった。
でも、レンリには秘密にして欲しいとお願いした。
彼は私が元漁師のラッヘさんと川に釣りに行くことすら心配で反対していたから。
それをエミルも知っているので、一緒に皆に説明してくれていた。
教会の帰り道。
大事そうに木の剣を抱えてエミルは私に夢を語った。
「僕ね。父様や母様みたいな騎士になりたいんだ。きっとこの剣を見せたらね、母様も喜ぶと思うんだ。病気もどこかへ飛んでっちゃうかも!」
「そうね。きっとお母様、喜ぶわね」
「うんっ」
エミルの母親には一度だけ挨拶をしに行った。
エミルの瞳と似た髪色の、美人で優しそうな女性だった。
エミルの笑顔もそうだけれど、二人を見ていると、とても懐かしい気持ちになる。
幼い頃は、こうして笑顔を向けてくれる人が周りにいたからだろうか。
「コレット先生、どうしたの?」
「え? ごめんなさい。少しボーッとしていたみたい」
「謝らないで。ボク、先生が心配だっただけだから。ねぇ。先生は、ずっとボクのお隣さんでいてくれる?」
「それは……」
資金が貯まれば町を離れるつもりでいる。
でも、もっとこの町で、ここで生きる人達の助けになりたいし、いただいた優しさを返したい気持ちもある。
「いなくなっちゃうんだ。そうだよね。……でも、急にいなくなったりしないでね!」
エミルの父親は、二年前に兵役中の事故で亡くなったそうだ。それは突然で、しばらくの間エミルはその事実を理解できずに父の帰りを待っていたらしい。
そんな想いはさせたくない。
「ええ。勿論よ。それに、まだまだここでしたいことも沢山あるから、心配しないでね」
「うん!」
エミルは嬉しそうに大きく頷いていた。
◇◇
部屋に戻るとレンリが窓から空へと白い鳩を飛ばしていた。
「レンリ?」
「ああ。おかえりなさい。あの子は兄の伝書鳩で、手紙を届けに来てくれたんです」
そういえば、落ち着く場所が決まったから兄に手紙を書くと言っていた。その返事が届いたのだ。
「そう。実家の方は平気なの?」
「だから、大丈夫ですって。そんなに心配しないでください」
そう言ってレンリは手にしていた手紙を胸ポケットに押し込んだ。何となく笑顔がぎこちないけれど、それを尋ねる前に話題をすり変えられた。
「さて、夕食にしますか?」
レンリの仕事の前に、私達は夕食をいただく。
そろそろ仕度を始めないと仕事に遅れてしまう。
ほとんどすれ違い生活だけれど、朝と夜は一緒に食べようと決めていた。
「ええ。今日はね。教会でパンとミルクとリンゴをいただきました」
「僕はラッヘさんと川で魚を釣ってきました」
こうして毎日、互いの収穫品を出しあって、二人で食堂の厨房を借りて夕食を作っている。
二人で、と言っても夕食の時間は大抵被るので、ラッヘさんやミリアさんとエミルと、皆でワイワイ作って、それから皆で一緒に夕食をいただいている。
「コレット。僕はそろそろ行きます。皆さんも、また明日」
食事を終え、仕事へ向かうレンリを見送ると、エミルは私に尋ねた。
「何か困ったことでもあったの?」
「え?」
「だって、レンリ先生、いつもよりボケってしてたし、食事も少なくしてたし」
「私も、何があったのかまだ聞けていなくて……」
「そっか。ボクに出来ることがあったら言ってね」
エミルだけでなく、他の皆も気づいていたらしく、何でも頼ってくれて良いよと声をかけてくれた。
レンリの家族の事だったら、あまり深く聞いてはいけない気がするけれど、私のせいで何か問題が起きている可能性だってあり得る。
明日、それとなく聞いてみることにした。




