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服の下を透視する能力を得たら、あなたは何をしますか?  作者: メモ帳ぱんだ


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第25話 過去編2 監禁

 また、悪夢を見ている。

 俺の呪いが発症した、あの頃の夢だ。


 警察を名乗る怪物たちに襲われ、気がつくと、俺はベッドに寝かされていた。

 両手足は、真っ白なベルトでがっちりと固定されている。

 

 天井だけがやけに近く感じた。

 どれくらいの時間が経ったのか分からない。

 永遠のようにも感じたし、ほんの一瞬だったような気もする。


 真っ赤な化け物が、近づいてくる。

 一日に、何度も何度もだ。

 俺は手首くらいしか動かせず、反撃することも、逃げることもできなかった。

 怪物が近づくたび、俺は悲鳴を上げていた。


 だが、数日が経つと、気づいた。

 こいつらは、俺を攻撃してこない。


 怪物たちは、女の人の声で、毎日いろいろなことを話しかけてきた。

 返事をしてもしなくても、関係なく話しかけてくる。


「日野くん、今日の調子はどう?」

「本当は拘束、外してあげたいんだけどね。まだドクターの許可が出てなくて」

「日野くん、カッコいいからナースステーションで人気者なんだよ」


 最初のうちは、怪物の言葉なんて聞くものかと、徹底的に無視していた。

 だが、試しに返事をしてみると、会話が成立することに気づいた。


「ここってどこなんですか?」


「ここは病院よ。君はしばらく入院が必要と判断されたの」


 俺はようやく気づいた。

 この人たちが真っ赤な化け物に見えているだけで、実際には彼女たちは人間なのだ。

 俺の世話をしてくれている、看護師さんなのだと。

 

 看護師と話す中で知ったことだが、ここは精神病院の閉鎖病棟だった。

 重い症状を抱えた患者が集められる場所らしい。

 

 お願いすると、怪物――いや、看護師さんはテレビをつけてくれた。

 ニュース番組の中では、いつも通りの服を着た人たちが、当たり前の顔で喋っている。

 テレビの中の人と同じように、俺自身は普通に服を着ている。

 だが、他人だけが筋肉の塊に見えた。

 

 俺が中学生だったせいもあってか、周りはとても優しかった。

 拘束されたままの俺のもとに、看護師が順番にやってきて、話し相手になってくれた。


「日野くん、すごく強いのね。ここに来る前に、警察官を十一人倒したって聞いたわ」


 その言葉を聞いた瞬間、後悔が胸を締めつけた。

 俺が倒したのは、職務に忠実だっただけの警察官たちだ。

 急所に突きを入れまくったから、一週間は動けなかっただろう。

 ……本当に、申し訳なかった。


 入院の経緯から、俺は要注意患者として扱われているらしい。

 症状が落ち着いても、しばらくは身体拘束を続ける方針だと聞いた。

 まあ、妥当だろう。

 本気で暴れたら、病院中の職員を制圧できてしまうかもしれない。


 ただ、未成年を長期間拘束することに、看護師たちが医師へ強く抗議してくれていたらしい。

 そのおかげで、早期に拘束が解ける可能性もある、と後から聞かされた。


 ある日、枕元に来た医師と話をした。


「なるほど。他人が、全員真っ赤な化け物に見える、と」


 私もそう見えますか、と聞かれて、俺は頷いた。


 ここでの生活は、ひたすら退屈だった。

 手足は拘束され、正体不明の薬を、点滴で体の中に入れられる。


 一週間ほど経った頃だろうか。

 突然、拘束が解かれた。

 病室内限定だが、自由に歩けるようになった。


「君の拘束を解けという看護師たちの抗議が、あまりにもしつこくてね」


 医師は、少し疲れた顔でそう言ったあと、俺に質問してきた。


「君は、どうやって彼女たちを懐柔したんだい?」


「さあ……普通に話していただけだと思いますけど」


「そのスキル、私にも分けてほしいよ。

 看護師たちとのやり取りは、本当にストレスでね」


 拘束が外れてからは、点滴もなくなり、食事も自分で取れるようになった。

 トイレも一人で行ける。


 病室のドアは鉄格子で、中からは開かない。

 本来は相部屋らしいが、今は俺一人だった。

 看護師が入ってくるときは必ず二人組で、片方は外で待機している。


 まだ、危険人物扱いなのだろう。


 それでも、意外と病院生活は快適だった。


 暇なので、看護師さんを観察する。

 自分の体は普通に見えるのに、他人だけが筋肉の塊に見える。

 なぜだろう。


 集中すると、筋肉の奥に、別のものが見えることに気づいた。

 腹の奥には膜のようなものがあり、その向こうに大きな臓器が見える。

 胸の奥には……心臓?

 皮膚の下が、透けて見えているのかもしれない。


 やがて、決められた時間だけ病棟内を歩けるようになった。ありがたいことだ。

 そのときは必ず、筋肉の発達した大柄な男性看護師が付き添う。

 その人が付き添うときだけ、部屋の外に出られた。

 それが、俺が外に出る条件なんだろう。もし、俺が暴れても制圧できる人が同伴すること。


 だが、歩き方を見る限り、この男性看護師は武道経験はなさそうだ。

 ……たぶん、簡単に倒せてしまう。

 もちろん、そんなことは口にしない。

 わざわざ、部屋の中に逆戻りになるようなことを言うことはない。


 この病棟は、女性患者が多かった。

 若い男は、俺くらいしかいないので、共用ラウンジでは妙に目立っていた。


「日野くん、お菓子食べる?」

「彼女いるの?」

「剣道、強いんだって?」


 筋肉人間に囲まれて、ちやほやされても正直あまり嬉しくはない。


 同年代で仲のいい女の子の友達もできた。

 その子は筋肉も脂肪もほとんどない子で、拒食症だと言っていた。

 

 他にも壁に向かって話し続ける人、部屋から出てこない人、物を盗んで回る人。

 いろんな人がいた。

 それでも、話してみると、案外みんな普通だった。


 閉鎖病棟は怖い場所だと思っていたが、実際は、優しい世界だった。


 俺が病棟を出られたのは、二か月後だ。

 定期的な通院を条件に、日常に戻ることを許された。


 病院の外の空気は、驚くほど美味しかった。

 道行く筋肉人間が目に入ることを除けば。


 外の世界は、病院よりずっと厳しかった。

 俺を待っていたのは、腫れ物に触るような扱いだった。

 両親も、元友人も、必要以上に話しかけてこない。


 クラスメイトは俺を避け、新しい友達も作れなかった。

 筋肉人間の区別がつかず、他人に声をかけることすらできなかった。


 ……そして、俺は逃げるように、寮のある高校へ進学し、地元を離れた。

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