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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

極悪令嬢リリアーヌと名無し令嬢の共犯契約 ―断罪の台本は書き換えられる―

作者: いそじま

連載を開始しました!

タイトルは変わって 「極悪令嬢は聖女を殺す」 です。

短編を読んでくださった方でも楽しめる仕掛けを用意しました。

もちろん初めての方も大歓迎、ぜひお読みください!

 王子の声が響いた瞬間、宮廷の空気は氷のように張りつめた。


「公爵令嬢リリアーヌ・ド・ヴェルヌイユ。――君との婚約は破棄する」


 その声は凛としていて、観衆が待ち望んだ舞台の台詞そのものだった。

 金色のシャンデリアが揺れ、光が絹のドレスを刺す。祝祭の香水は甘く重く、けれどその下で誰もが知っていた。

 これは処刑だ、と。


 リリアーヌ様は一拍遅れて目を伏せ、手にした扇を震わせ、涙を落とした。

 舞台装置のように美しい。

 王子の腕に寄り添う聖女セラフィーヌは、勝ち誇ったように唇を吊り上げ、周囲の令嬢たちは侮蔑と憐憫をないまぜにした視線を投げている。

 正義と愛の物語は、ここで幕を開けた。


 ……少なくとも、表向きには。


(これが……断罪イベント。ゲーム通りだ。でも、このままじゃ――)


 私は口の中が乾くのを感じながら、必死に呼吸を整えた。

 私の名はノエル・ラングロワ。男爵家の三女。

 誰も覚えていない取るに足らないモブ令嬢。

 けれど前世の私は、高科柚。あの乙女ゲームを隅々までプレイした、ただの学生だった。


 私は知っている。

 このイベントの結末が、リリアーヌ様の“死”であることを。

 そしてその炎は、取り巻きにまで燃え移り、私も灰になる未来を。


(……違う。これはゲームじゃない。現実だ。推しが死ぬなんて、許せない)


 推し。そう、私はリリアーヌ様を推していた。

 恋じゃない。彼女は王太子の婚約者であり、聖女と比べられる宿命を背負った悪役令嬢だった。

 悪役で、嫌われ役で、最後には必ず破滅する――それなのに、彼女だけが誰よりも気丈に振る舞い、筋を通して立ち向かっていた。

 初めて彼女を見た時、圧倒的なビジュアルに惹かれた。氷のように冷たく美しいその姿は、攻略対象よ りもよほど魅力的だった。

 だが――そんな彼女を取り巻く物語は最悪だった。特に断罪イベントがひどかった。

 そもそも悪役令嬢たちは、自分からいじめを仕掛けることはない。

 それなのに世間知らずのヒロインは、わざわざ彼女たちの神経を逆なでし、怒られに行っているかのようだった。

 そして――都合よく現れる攻略対象たち。今まで絶対に見ていたはずなのに、まるでピンチを待ち構えていたかのようなタイミングで助けに入る。


 断罪イベントでは、プレイヤーとしてはそこまでヘイトがたまっていない悪役令嬢たちが、むごたらしいほど悲惨な報復を受ける。そのシーンは恋愛パート並みに多く用意されていた。

 私たちマニア以外、最後までやりきった者は少ない。そんな糞ゲーだった。

 けれど今、リリアーヌは――その汚れた筋書きに押し流され、殺されようとしている。

(助けなきゃ。私の手で、あの未来を壊すしかない)


 決意は早かった。

 音楽も舞も、笑い声も、すべてを置き去りにして私は駆け出した。


 長い回廊は冷え切っている。

 灯りは十分なのに、進むほどに闇が濃くなる錯覚に襲われる。

 靴音が石床に反響して、まるで追われているみたいに背中を叩いた。


 ――ドアの前に立ったとき、鼓動はすでに耳の奥で爆ぜていた。


 ノックも忘れて扉を開け放った。


薔薇の香水は消えていた。

 代わりに鼻を刺したのは、煙と酒――火薬に近い刺激。


 リリアーヌ様は窓辺に腰掛け、長い足を組み、バーボンのグラスを弄んでいた。

 赤い唇は艶やかに歪み、指先にはシガーの火が揺れている。

 さっきまで涙に濡れていたはずの頬は、もう乾いていて、光沢すらあった。


「ふふ……はははは。こんなに思い通りに進むなんて」


 高笑いが、夜の闇を震わせる。

 その音に私は立ち尽くした。


(……こんなシーン、ゲームにはなかった)


 胸がざわめいた。

 恐怖と、興奮と、推しの“裏イベント”を引き当てたような昂揚と。


 でも、目が離せなかった。

 推しは今、泣き崩れるヒロインでもなければ、哀れな敗者でもなかった。

 誰よりも優雅に、誰よりも残酷に、この世界を見下ろしていた。


「……リ、リリアーヌ様?」


 声が震えた。

 けれど彼女は私を一瞥するだけで、氷を口に含んで笑った。


 その笑みは、失恋を紛らわすものじゃない。

 獲得したものを確認する笑みだった。


「婚約破棄で、ようやく王家の鎖が外れたわ」

琥珀の液体を傾け、唇を濡らす。

「これまでは王太子の婚約者として、表も裏も思うように動けなかった。だが、今は違う。……この国の裏側を、わたくしの手で支配できる」


 ぞくり、と背筋が粟立った。

 彼女は、表の舞台から追われたのではない。

 裏の舞台に立つ資格を得たのだ。


 涙に濡れ、扇で顔を隠していた“舞踏会の令嬢”の姿は、どこにもなかった。

 代わりにそこにいたのは――敗北を演じた直後とは思えない、獲物を前に嗤う猛禽だった。


 彼女はグラスを揺らし、淡々と告げる。

「腐った秩序を裏から掴み、この国をわたくしの思い通りに変えてみせる。王子も聖女も、ただの飾り役」

 ――計画通り。わざと嫌われ役を演じ、王子に捨てさせたのだ。


 その言葉に、背筋が粟立った。

 ゲームでは泣き崩れ、取り巻きに見捨てられるシーンしかなかった。

 それなのに今、私の推しは、世界を掌に収める野望を当然のように語っている。


(……こんなシーン、ゲームにはなかった。これは――現実なのだ)


 血の気が引くのと同時に、胸の奥が熱くなる。

 彼女の辿る未来は、美しくも残酷だ。

 取り巻きは処刑され、彼女も断罪されて殺される。私も巻き添えで終わる。

 そう――私が何もしなければ。


「謝れば……まだ取り返しは――」


「興味ないわ。頭を下げて許しを乞うなんて、わたくしの選択肢にはない」

 リリアーヌ様は切り捨てる。

 視線は私を見ていない。退屈そうに、酒を舐めるだけ。

「早くお引き取り願えるかしら。見ての通り傷心中よ。……ふふ」


 私は息を詰めた。

 このままでは、話を聞いてもらえない。

 ――仕方がない。


「……わ、わたしには前世の記憶があります。この世界は“ゲーム”で、未来を知っているんです!」


 一瞬、彼女の眉がわずかに動いた。

 けれど、次の瞬間にはまた冷笑に戻る。


「未来? くだらないわ」

 シガーの煙が薄く流れる。「そんな幻で、わたくしの野望が揺らぐと思う?」


「でも! その未来では――みんなが不幸になるんです!」

 声が裏返る。

「リリアーヌ様も殺されて、そして――ヴァルハルト帝国との戦争が起きて、この国は……」


 剣でも短剣でもない。金属の硬さ、油の匂い、火薬の残り香。

 この世界に存在するはずのない“銃口”が、こめかみに突きつけられていた。


 銃口は、ただの脅しじゃない。

 この世界の誰も知らない“道具”を向けられている時点で、威嚇の意味を持たない。

 これは――ただいつでも殺せる位置に据えているだけ。

 リリアーヌ様の目を見た瞬間、直感した。命の選別は、もう彼女の指先に委ねられている。


「あら♡」

 リリアーヌ様の唇が艶やかに歪む。

「わたくしのお手製の魔具よ。普通なら“なんですの、それ?”で終わるのに……あなた、ずいぶん怯えた顔をしているわね。ふふ……可笑しい」


 背筋を冷たいものが這い上がった。

 これは、質問に対して間違った答えをすれば死ぬ――そう直感した。


「ヴァルハルト帝国との関係は良好よ」

 彼女は甘く囁くように言った。「なぜ、戦争が起きるのかしら?」


 喉が裂けそうになった。

 答えなければ死。答えても死。

 頭の奥で冷たい汗が滝のように流れる。


「…………」


 引き金の金属が、かちゃりと音を立てた。


「そ、そ、それは――!」

息が千切れる。「あなたが……内通しているからです!」


(そうだ。彼女は本当に裏で帝国と繋がっていた。良好な関係を築くと同時に腐敗した王国を壊すために――必要悪として。

 だが断罪のシナリオでは、それは“裏切り”としてしか扱われなかった。

 彼女が殺されれば、均衡は崩れる。国は戦争に沈み、数え切れない命が失われる未来が待っている――私を含めて)


 断罪のシーンでリリアーヌ様は笑っていた。

 ヒロイン視点のゲームでは、権力欲に敗れた哀れな女の“負け犬の遠吠え”に見えただろう。

 でも私には違って見えた。

 あれは――腐った王国をぶっ壊すための宣言だった。

 静寂が落ちる。

 秘密を言い当てられても、彼女の瞳には揺らぎはなかった。

 ただ、赤い唇が艶やかに弧を描く。

「……面白い子♡」


 銃口はこめかみに据えられたまま。

 琥珀色の液体がグラスの内側を滑り、氷が小さく音を立てるたびに、心臓がひとつ潰れる気がした。


「……さあ、続きを」

 リリアーヌ様の声は低く甘い。けれど耳の奥で刺さる。

「あなたが見た“未来”を一つ残らず話して」


「は、はい……」

 舌が重い。けれど、答えなければ死。


「最初は……ミランダ嬢です。商人から成り上がった富豪の娘。罪状は“ポーション製法の特許の不正利用”。王城の広間で告発され、爵位と資産を剥奪され、国外追放に……」


「特許?」

 リリアーヌ様の目が細く光る。


「……はい。ポーションの調合法は、元は彼女の家が発見し、王国に登録されていたものです。特許を持つ家系で、代々それで財を築いてきました」


「なら、話は早いわね」

 リリアーヌ様はグラスを揺らす。

「――王家が欲しがったのよ。表向きは“民のための安定供給”なんて美名を掲げて、実際には戦費に流す。だから濡れ衣を着せた。……罪名なんて後からどうにでもなる」


 シガーの煙が甘くも苦く漂う。

「“悪徳商人”の烙印を押せば、人々は喝采をあげる。王家は痛まず、特許は手に入る。――わたくしにとっては、下らない茶番ね」


 私は息を呑んだ。

(そうか……ゲームで“追放イベント”として簡単に流されたのは、実際は経済権益の簒奪だったんだ……!)


「次は……伯爵令嬢エマです。大聖堂の祭礼の日、王家の秘宝を窃盗した罪で投獄されます。証拠は……宝飾箱の破片と、彼女の持ち物から見つかった偽造の鍵」


「おかしいわ」

 リリアーヌ様の目が細く光った。

「伯爵令嬢風情が秘宝の管理区画に近づけるはずがない。展示の夜でも、近衛と神官の二重の監視がある。どうやって盗むというのかしら?」


「……ゲームでは、彼女が盗んだことになって……」


「いいえ。盗まれたのではなく、傷つけられたのよ」

 リリアーヌ様はシガーをくゆらせ、唇を艶やかに歪めた。

「本当は――王家の誰か。無能王子か、気まぐれな王女か。あるいは教会の人間が祭礼の席で酔った勢いで、秘宝に触れて傷をつけた」


 息を呑んだ。

「……っ!」


「けれど、それを表沙汰にすれば王家や教会の威信は地に落ちる。だからこそ“都合のいい悪役”が必要だった」

 琥珀のグラスが、闇の中で鈍く光る。

「エマ嬢に濡れ衣を着せれば、責任は回避できる。“伯爵令嬢ごときが盗んだ”――そう仕立て上げれば、人々はすぐ信じる」


 私は胃が冷たくなるのを感じた。

(そうか……ゲームで“エマが秘宝を盗む”とだけ処理されていたのは、実際は王家の醜聞の隠蔽だったんだ……!)


「最後は――狩猟祭」

リリアーヌ様は銃口を据えたまま、淡々と続けた。「銀鹿の森で行う聖女の奇跡。ここで騒擾が起きるのね?」


「……はい。魔獣が乱入して、混乱の中で貴女が聖女襲撃の犯人に仕立て上げられる。証拠は――侍女の衣の切れ端と、貴女がいつも纏う香の匂い」


「ええ、仕立て上げる側から見れば極めて合理的だわ」

彼女はグラスを置き、指先で氷を転がす。澄んだ音が、私の心拍を数えるみたいに鳴った。

「“信仰の危機”は、ひとりの悪で終わらせるのが都合がいいから」

(つまり……リリアーヌ様は、最後に殺される)


私の喉が鳴る。「……そんな理由で……」


「順番に説明するわ。三つよ」

リリアーヌ様の声は甘いのに、刃の背のように冷たい。


 教会の威信の保全

 「聖女が傷つく、あるいは奇跡が滞る――原因不明のままなら、『神は本当にいるのか』『聖女は偽物か』という疑念が民に広がる。疑念は寄進を細らせ、巡礼を痩せさせ、教会権威を腐らせる。ゆえに、理解しやすい犯人を用意して説明に置き換える必要がある」


 王権の政治的利用

 「王家は教会の“神話”に国を乗せている。信仰の動揺は徴税と治安を直撃する。だから王家は教会と歩調を合わせて『悪を捕らえた』という勧善懲悪の筋を、すぐに示したい。法理は遅い、感情は速い。ならば“感情の法廷”で勝つほうがいい」


 スケープゴートの選定

 「誰を“悪”にするか。――今、婚約破棄で世論のヘイトを集めている私。身分は高いから見世物として映える、しかも“嫉妬深い悪役令嬢”という物語の記号が観衆に通じやすい。動機がありそうに見える、香と衣で視覚と嗅覚の証拠も盛れる。私以上に相応しい羊は他にいない」


(……そうか。群衆が理解できる“筋”に合わせて、私のリリアーヌ様が選ばれている)


「だから、濡れ衣を着せる相手はわたくし」

彼女は結論だけ、軽く言った。「聖女の純潔は守られねばならない。疑いは悪役に集約され、礼拝堂での特別法廷で劇の幕は下りる。速く、派手に、簡単に」


私は唇を噛んだ。

(ゲームでは“イベント”の一枚絵で終わった。現実の裏では教会の収支と王家の統治、群衆心理が線で繋がっている……!)


リリアーヌ様は続ける。

「段取りも読める。――魔獣の乱入は呪具で誘導。侍女の衣は事前に色を把握して切れ端を撒く。香は風向きを計算して拡散させれば、“嗅いだ者たち”が証人になる。最後に枢機卿が特別裁きを宣し、情緒を煽って押し切る」


「……っ」

吐き気に似た寒気が背骨を下りた。汚らしい。けど、理屈は恐ろしいほど整っている。


(ゲームでは「悪役令嬢の卑劣な罠」とだけ表示されたイベント。たった一言で済まされた“悪行”が、今こうして血の通った謀略に姿を変えていく)


 理解するしかなかった。

 醜悪なる策謀――矮小なシナリオは、現実では血の匂いを伴う謀略に変わっていた。


(今、目の前で“イベントの裏側”が現実の操作手順になっていく。私が知っているのは表の台詞。彼女は裏の段取りを足して、勝てる脚本に書き換える)


三つの事件を必死に繋ぎ合わせながら、私は唇を震わせた。


「……おかしい。全部……全部が、聖女にとって都合のいい結末になっているんです」


 リリアーヌ様が片眉を上げる。私は続けた。


「ミランダ嬢……彼女の家はポーション特許で財を築いて、贅沢に暮らしていました。でも、教会育ちのセラフィーヌは質素倹約を強いられていて、いつも**“俗物”と笑われていた**。私怨があった……」


「なるほど」

 リリアーヌ様の唇が愉快そうに歪む。


「エマ嬢は……平民を見下していました。聖女も出自こそ聖なるものとされているけれど、実際には平民寄り。……エマの侮蔑は、セラフィーヌ自身にも向けられていたはずです」


「ふふ。あの子にすれば、虐げられてきた自分を映す鏡だったのね」


「そして……あなた、リリアーヌ様。彼女にとって“最大の嫌がらせの首謀者”。ゲームでは、ただ“悪役が成敗される”というご都合主義の筋書きに見えていた。でも――」


 吐き出す息が凍りついた。背中を冷たい汗が流れる。

「でも実際は……聖女セラフィーヌ自身が仕組んでいたんです!」


 言い切った瞬間、こめかみに冷たい音がした。


 ――かちゃり。


 金属が噛み合う乾いた音。

 世界の色が一瞬で剥ぎ取られ、喉から息が漏れる。


「……私が、聖女(バカ女)に嵌められるとでも?」

 リリアーヌ様の声は甘やかに微笑んで、同時に鋼鉄の冷たさを孕んでいた。

「無能王子に婚約を解消してもらうためだったけど――少し、可愛がりすぎたかしら」


「ひっ……す、すみません!」

 膝が勝手に折れそうになる。心臓が耳の奥で破裂しそうだ。


 だが次の瞬間、彼女はふっと銃口を離した。

 唇がゆるやかに弧を描く。


「まあいいわ」

 琥珀のグラスを傾け、ゆっくりと息を吐く。「あのバカ女が何かしらに関わっているのは、間違いないでしょう」


 視線が、私を貫く。

 月光を飲み込んだ瞳が、淡く光った。


「――合格よ」


 喉が詰まった。

 安堵と恐怖が同時に押し寄せ、足もとから全身を揺さぶる。


「あなた、なかなか面白い。使えるかもしれない」

 彼女は銃をテーブルに置き、代わりにグラスを差し出した。

「……聖女の最期を、その目で確かめたくはない?。今日から――共犯者ファミリーよ」


 グラスの縁に触れた瞬間、ぞっとするほど冷静な自分がいた。

(そうだ。これが私の推し。筋を通す悪役。ならば、私も――)


「……はい。光栄です、リリアーヌ様」


 澄んだ一音が、グラス同士の衝突で生まれる。

 祝福ではなく、**契約コントラット**の音。

 後悔はした。だが同時に、こんな結末をどこかで待ち望んでいた自分に気づいてしまった。

 最初は、彼女を助けたいだけだった。

 その次は、ただ命乞いをしただけだった。

 今は――違う。

 ただ、心酔するだけだった。


 数日後。リリアーヌ様からの招待状を手に、私は公爵家の屋敷を訪れていた。

 広間を抜け、侍女に案内されるまま奥へと進む。開かれた扉の向こう――そこには、しおらしく椅子に腰かけ、メイドたちに囲まれ慰められているリリアーヌ様の姿があった。


「お嬢様、どうかお気を落とさず……」

「婚約破棄だなんて、あまりにひどい仕打ちですわ……」


 めそめそと涙を浮かべ、可憐に儚げに肩を震わせる姿は、舞踏会で断罪されたあの日の続きのようだ。

 ――だが私は、もう知っている。この涙が“芝居”でしかないことを。


「お客様がいらっしゃいました」


 メイドが私を告げると、リリアーヌ様ははっと顔を上げ、わずかに潤んだ瞳でこちらを見た。


「まあ……ノエル。私のことを心配して来てくれたのね。ありがとう」

「いえ……」


「二人にしてちょうだい」


 メイドたちは静かに頭を下げ、部屋を退出する。

 扉が閉まった途端、リリアーヌ様は小さく鼻をすすると――


「しくしく……」


 演技を続けた。


「……いつまでやってるんですか」

 思わず呆れが口をついた。


「……ノリが悪いのね、あなた」

 途端に涙は消え、ふてくされたように唇を尖らせる。

 次の瞬間、シガーケースを取り出し、赤い火を灯す。紫煙が部屋を満たした。


「……で、危機を回避する方法は考えてきた?」

 リリアーヌ様が煙を吐きながら、当然のように問いかける。


「そりゃ……今からでも謝ればいいんじゃないですか?」

 言った瞬間、自分でも虚しいと分かっていた。

 共犯の契約を交わしたのに、まだ後悔が尾を引いていた。


「謝罪?」

 彼女は目を細め、薄く笑った。

「無駄よ。聖女ひとりに、わたくしを陥れる力はない。背後に仕組む者がいる。王家か、教会か――あるいは両方……はたまた得体のしれない何か……」


私の喉が鳴った。

「……じゃあ、聖女は……ただの駒?」


「ええ。でも、その駒を倒せば盤面は乱れる。黒幕の筋書きは狂い、王国の均衡は一度崩れる。そこに私が介入する余地が生まれるの」

グラスを置き、彼女は冷ややかに告げた。

「だから聖女を殺すのよ。――確実にね」


 煙が、甘やかに、けれど冷たく漂う。

 その言葉は重く、揺るぎなく、舞台の台詞のように響いた。


(……やっぱり、違う。この人はゲームの“悪役令嬢”なんかじゃない)

 胸の奥が震えた。

 私の前にいるのは、悪役どころか――極悪令嬢だ。


 前世では日本で平凡に暮らしていた。学校に通い、バイトをして、ゲームに夢中になって。そんな日々から遠く離れたこの世界で、私は今、殺人計画の会議に参加している。


 拒絶すべきだ。協力なんかしたくない。……はずなのに。


(契約だから。私は“ファミリー”だから。仕方なく従うだけ……)


 自分にそう言い聞かせる。だが、胸の奥でぞくりとした。

 推しと歩んでいるからか。

 それとも、破滅を望む自分の本性なのか。

 答えは分からない。ただ、抗えない昂揚がそこにあった。


(……やっぱり、この人なら、この腐った世界を変えられるかもしれない)


 私はゆっくりとうなずいた。

 シガーの煙の向こう、リリアーヌ様の唇が冷たく艶やかに歪んだ。


 リリアーヌ様の執務室。重厚な机の上には書簡や地図が乱雑に広げられ、燭台の炎が紙の端を金色に照らしていた。

 バーボンのグラスとシガーの煙が甘く渦巻き、その向こうで彼女の瞳が冷たく光る。

 言葉があまりにも冷たくて、美しい。背筋がぞくりと粟立った。


厚いカーテンで閉ざされた執務室。机の上には王都の地図、大聖堂の見取り図、そして処刑台の配置を描いた羊皮紙が並んでいる。

 燭台の炎が紙の端を赤く照らし、リリアーヌ様の横顔に影を落としていた。


「――聖女セラフィーヌは、断罪に必ず現れる。次の断罪にも必ずね」

 彼女はバーボンのグラスを弄びながら言った。

「群衆の前で“正義の証人”を演じるために。エマ嬢が罪を告げられ、群衆がどよめくその瞬間……あの女は姿を現し、慈悲深げに祈る」


 私は喉を鳴らした。

「……そうです。ゲームでも、彼女は断罪の場に必ずいて……正義の言葉を口にしていました」


「だからこそ、そこを狩場にする」

リリアーヌ様の瞳が、冷たい光を帯びた。


「けれど……」私はおそるおそる口を開いた。

「そんな公開の場で殺したら、すぐに犯人だって――」


「見つからないわ」

 紫煙とともに吐き出された声は、揺るぎもしない。

「――神罰に見せかけるから」


 ぞくり、と背筋が粟立った。


「方法は三段構えよ」

 彼女は机上の図面を叩き、指を折って数える。


「ひとつめは――毒杯」

 燭台の炎が揺れ、彼女の唇を艶やかに縁取った。

「断罪の儀式の後、聖女は“慈悲の杯”を口にする。毒を仕込むのはその瞬間。痙攣し、呼吸を失い、倒れる。群衆には“神罰”としか映らない」


 息が詰まる。恐怖と同時に、理屈の冷徹さに震えた。


「ふたつめは――狙撃」

 机の引き出しから現れた黒光りする異物。銃。

「大聖堂のステンドグラスの上、装飾の陰に死角がある。魔具で音は消える。撃ち抜かれた額は“神の雷”に過ぎない」


 寒気が這い上がる。ゲームのスチルでは絶対描かれない現実が、今、机の上に置かれている。


「みっつめは――刃」

 銃を置き、短剣の形を指で描く。

「群衆に紛れ込ませた侍女の替え玉。心臓を突く。倒れた瞬間の叫び声も、また“神罰”に変わる」


 紫煙が燭台の炎を曇らせ、氷がグラスの底で転がる。

「三つの罠を張れば、必ず仕留められる。しかも、犯人はどこにもいない」


「……証拠は?」気づけば声が震えていた。

「誰かに罪をなすりつけるのですか?」


「いいえ」

 彼女の瞳が鋼のように光る。

「――誰にも罪は着せない。証拠はすべて消す。残るのは、聖女が“神に見放されて死んだ”という事実だけ」


 心臓が跳ねた。

 (……そうか。普通なら替え玉を立て、濡れ衣を着せる。それが現実の常套手段。

 だが彼女は違う。姑息な策など必要としない。悪を悪のまま成し遂げる。

 だから恐ろしく、だから――美しい)


「ノエル」

 リリアーヌ様はグラスを傾け、視線を私に投げた。

「あなたは“補助”を任される。毒を仕込む、狙撃の合図を送る、群衆の中で刺客を動かす。――わたくしの筋を通すための駒になりなさい」


「……はい」

 声が震えた。

 拒むべきだった。でも、胸の奥ではぞくぞくするような昂揚が湧き上がっていた。


(やっぱり、この人なら……この腐った世界をひっくり返せるかもしれない)


 澄んだ音が響く。

 それは祝福ではなく、血塗られた**契約コントラット**の音だった。


エマ嬢断罪――実行の日


 鐘は、まだ冷たい朝の空に針を刺すみたいな音を落としていた。

 王都の大聖堂。その正面階段は、人で埋まっている。罵声、ざわめき、好奇の笑い。白い鳩が天蓋の梁から飛び立ち、誰かの歓声で散った。

 私は灰色の粗布の服に身を包み、奉仕女の列に混じって立っていた。袖口の内側、指輪の内面にひそませた細い針が、皮膚に冷たかった。


 講壇の前、伯爵令嬢エマが膝をつき、神官が罪状を読み上げる。

「王家の秘宝窃盗の罪――」

 群衆は待っていた台詞を得て、安堵したみたいにざわめく。

 私の視線は、別の一点を探していた。


 ――聖女セラフィーヌ。


 白いヴェールと金の飾帯。

 人々は彼女に手を伸ばし、涙ながらに赦しを乞う。聖女はただ頷き、祈る仕草を見せる。作り物の水面のように、すべてが整っている。


 視線を上げる。両側の回廊。

 黒いヴェールの女が、二階席の陰から私を見ていた。

 リリアーヌ様。

 ほんの指先の動き――手袋の縁を一度、触れる。合図。

 私は小さくうなずいた。


第一の手。毒。


 式次第の紙には、断罪のあと「慈悲の杯」が記されていた。聖女が口をつけ、群衆に回す儀式。

 私は奉仕女の列を離れ、酒器の置き場へ回った。銀の杯に赤い液体。掌に隠した小瓶を割り、内側に沿わせる。無色無臭の毒は音もなく溶けた。

(神に見放された者にだけ効く――そう宣伝すれば、民はもっと熱狂するだろう)


 だが、神官の声が式次第を切り替えた。

「本日は断食の誓いにより、杯は執り行わない」


 胸の奥で、何かが静かに折れた。

(予定を変えた? ――いや、誰かが変えさせた)

 汗ばんだ指先を隠し、私は柱の陰に退いた。上階の暗がり。リリアーヌ様は微動だにしない。ただ、視線だけが私を射抜いている。


 第二の手。狙撃。


 奉仕女の籠を肩にかけ直し、側廊の陰へ滑る。

 天を仰ぐ。ステンドグラスの裏、装飾の陰――昨夜の見取り図では死角だった。


 だが、そこには兵が二人。装飾に寄りかかるように立ち、視線は巡回より鋭い。

(……狙撃の死角まで押さえられている? 偶然じゃない)

 冷たい汗が背を伝う。


 第三の手。刃。


 侍女に化けた女が、聖具室の扉の前で足を止められた。

 追加された青い警備線。その向こうには告解司祭。そして、手に掲げられた燭台。


 聖なる炎が、袖口で青白く揺れた。

 禁呪に触れた証。


(……馬鹿な。あれは国宝級の魔具。国王が臨席する祭礼でもなければ、持ち出されるはずがない。なぜ今日ここに――?)


 露見した。女は舌を噛み切り、血の花を咲かせた。司祭の叫びに兵が殺到し、扉前の動線は封鎖された。

  ――すべての手が、折れた。


 胸の奥が凍りついた。

 逃げ場がない。どれだけ仕込んでも、誰かにすべて読まれている。

 リリアーヌ様の計画ですら砕かれるなら、私にできることなど何ひとつない。

 喉が締まり、視界が暗く沈んでいく。

(……終わった。もう、私も彼女も殺される)


 会場のざわめきが大聖堂を揺らす中、彼女は――

 

「ふふ……本当に、面白いわ♡」


 紅潮した頬。熱に濡れた瞳。

 淫靡な微笑のはずなのに、はしゃぐ少女のように無邪気だった。

 策を砕かれてなお喜びに打ち震える姿は、あまりに異常で――あまりに美しい。


(狂ってる。破滅すら愉しむなんて。

 けれど、だからこそ……私は抗えないほど惹かれてしまう)


 私は深く息を吸う。

 石と蝋の匂い。祈りの低い反響。遠くで誰かが泣いている。

 ここから先は、段取りがない。

(本来は、私が手を下すはずじゃなかった。だが、すべて潰された今――動けるのは私だけだ)


 講壇の上、エマが泣き崩れる。聖女はゆるやかに手を掲げ、群衆に慈悲を示す。

 私はその隙に、奉仕女の列から離れ、回廊の陰、聖具室へ通じる小さな扉に身を滑り込ませた。

 掌の指輪の針が、まだ冷たい。

 遅効でも速効でもない。一分。足りる。


 扉の向こうは短い廊下。石壁。燭台の火が低く揺れる。

 足音。

 白い布の擦れる音が近づいてくる。

 私は俯き、両手で布を抱える奉仕女の真似をした。


 セラフィーヌが見えた。

 近衛の肩越しに、白いヴェールが揺れる。

 司祭が付き添っている。

 ――二人は邪魔。


 私は廊下の途中で、あえて躓いた。

 手にしていた布を落とす。香の小瓶が床に転がり、金属と石が奏でるように澄んだ音を立てた。

 司祭の視線が、反射的に小瓶へ落ちる。

 その一瞬、セラフィーヌは私を見た。

 私は顔を上げ、怯えた奉仕女の芝居をした。


「も、申し訳ありません。聖女様のヴェールに、香を……整えに」


 司祭が手で制す。

「あとにしなさい。今は――」


「構わないわ」

 セラフィーヌは微笑んだ。

 柔らかな声。正義の証人の仮面。

「人々の前に出る前に、乱れは整えておきたいの」


 司祭が口をつぐむ。近衛は一歩、後ろに下がった。

 私は静かに近づき、セラフィーヌのヴェールの端を持ち上げる。

 白い喉。淡い脈。

 薬指の裏、指輪の内針が、肉に当たって震えた。


 私は息を殺し、ささやいた。

(震えていた。だが同時に、背筋を走るのは恐怖ではなく――昂ぶりだった)

「――あなたの台本はここで終わり」


 指先で軽く押し込む。

 布の陰で、かすかな抵抗が皮膚を裂いた。

 セラフィーヌの睫毛が一度、震える。

 眉根が寄り、目が私を見る。何かを理解し始める目。

 私はヴェールを整えながら、手のひらで口元を覆った。祈りの形。

 彼女の呼吸が浅くなる。喉の奥で掠れた音。

 一分。


  廊下の向こう、上階の回廊。

 黒いヴェールの女が、こちらを見ていた。

 その頬は紅潮し、肩は震えていた。

 笑いを堪えているのではない。歓喜が全身を突き上げ、溢れ出すのを止められないのだ。


「……あぁ、可愛い子♡」

 リリアーヌ様の唇が開き、笑い声が零れた。

 それは歓声であり、喘ぎであり、神への祈りのようにも聞こえた。

 少女のように無邪気で、女のように淫ら。

 狂気と喜悦のあわいで、彼女は舞うように身を震わせていた。


 私は見ていた。

(これだ……これが私の推し。悪を悪として貫き、破滅すらも愉しむ存在)


 胸が焼ける。

 恐怖はもうない。代わりに、ぞくりとする興奮が体を満たす。

 血に濡れた指先が冷たいのに、心臓は熱く脈打つ。


(もう後戻りできない。私は彼女と同じ側に堕ちた。

 ――これが、私の台本の始まりだ)


 セラフィーヌの膝が、落ちる。

 私は支え、祈りの姿勢のまま彼女を立たせ直した。

 司祭が怪訝そうに一歩寄る。

「聖女様?」


「……大丈夫よ」

 セラフィーヌは笑おうとした。顔色が、うすく剥がれていく。

 私は一礼し、道を開ける。

 白い影が、祭壇の明かりへ戻っていく。

 私の指先はまだ、冷たい。


 講壇の上――セラフィーヌが両手を掲げる。

 群衆のざわめきが、期待で膨らむ。

 その瞬間、彼女の指が硬直した。

 目が見開かれ、空を掴むみたいに指が震える。

 喉から音が漏れる。祈りではない音。

 膝が砕け、白が石の上に崩れた。


 ――悲鳴。

 鐘が、もう一度鳴ったのかと思った。石壁に反響する声。

 司祭が駆け寄り、王子が立ち上がる。

 群衆は、恐れと興奮で湧いた。

 誰も、犯人を見ない。

 誰も、犯人を知り得ない。


(神罰――)

 誰かがそう叫んだ。

 誰かが十字を切り、誰かがひざまずき、誰かが泣いた。


 私は奉仕女の列に戻り、灰色の布の陰で呼吸を整えた。

 胸の奥に、氷と火が同時に灯る。

 怖い。

 でも――気持ちいい。


 ふと顔を上げる。

 上階の回廊。黒いヴェールの女がこちらを見ていた。

 頬は紅潮し、目は歓喜で濡れていた。

 リリアーヌ様。唯一の目撃者。唯一の理解者。


(ああ……これで私は、選ばれた。推しじゃない。信仰じゃない。私は彼女と同じ側だ)


 灰色の布を握る指が震える。

 興奮で震えているのか、歓喜で震えているのか、もう分からない。

 ただ一つ分かる。

 もう二度と、元には戻れない。


 上を見た。

 回廊の影。黒いヴェールの女が、手袋の指先で一度だけ拍を刻んだ。

 歓喜の合図。

 それだけで足りた。


 儀式は中断された。

 枢機卿が、祈りを命じる。死の宣告は、言葉を慎重に選んで遅れて落ちた。

 王子の顔から血の気が引いている。

 エマの断罪は、雲散霧消した。彼女は訳もわからず立ち尽くし、手錠は外されないままだったが、誰も彼女を見ていない。

 舞台は、聖女の死だけで満たされていた。


 私は群衆の流れに混じって外へ出た。

 空気は冷え、陽はまだ低い。

 階段の脇、黒塗りの馬車が止まっている。

 扉がわずかに開き、白い手袋が招いた。

 私は滑り込む。扉が閉じ、外の喧騒が膜の向こうに遠ざかった。


 馬車の中は、煙と酒の匂い。

 リリアーヌが座っている。黒いヴェールの下、目が笑っていた。

 テーブルの上に小さなグラスが二つ。琥珀色。

 言葉は要らなかった。

 彼女は一つを私に差し出し、もう一つを自分で取った。


「見事よ、ノエル」

 グラスの縁が触れ合い、澄んだ一音が密室に咲いた。

「これで、世界がわたくしの望む筋書きに近づく」


 私はうなずいた。

 喉を落ちる酒は熱く、胃で氷になった。

 窓の外、鐘の音がまだ遠くで震えている。

 聖女セラフィーヌの死は、やがて神話になる。

 犯人のいない神罰。

 誰も疑わない。誰も届かない。

 ――唯一の目撃者だけが、真実を抱いている。


「怖かった?」

 彼女が問う。声に愉悦の影を隠さない。


「……少し」

 本当は、もっとだった。

 でもそれ以上に、胸の奥に広がる感覚に気づいてしまっていた。

 私は静かに笑う。自分でも驚くほど、冷たい笑いだった。


「でも、気持ちよかった」


 リリアーヌは満足げに目を細め、ヴェールの下で唇を弧にした。

 馬車は石畳を滑る。

 今日、正義は死んだ。

 明日、秩序が取り替えられる。

 そのための**契約コントラット**は、もう済んでいる。


 彼女がグラスを掲げる。

「――**共犯者ファミリー**へ」


 私は応じて掲げた。

 薄いガラスが、もう一度だけ鳴った。

 祝福ではない。誓いの音だった。


 窓の外、鐘の音がまだ遠くで震えている。

 正義は死んだ。秩序もやがて死ぬ。

 世界は書き換えられる。私と彼女の手で。

 ――その舞台を、誰かがすでに用意しているとも知らずに。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

タイトルにもある通り、この物語は「悪役令嬢=破滅」では終わらせません。


運命の“断罪イベント”を前に、ノエルは 「推しを救うためにヒロインを殺す」 という、乙女ゲームの王道から大きく逸脱した選択を取ります。

乙女ゲーム転生というおなじみのジャンルですが、あえて ハードボイルドでダークな共犯譚 として描いていきたいと思っています。


正義は常に正しいのか。悪役は本当に悪なのか。

そんな問いを物語の中で、少しずつ浮き彫りにできれば幸いです。


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― 新着の感想 ―
お世話になっております。拝読させていただきました。 おもしろかったです。★5入れさせていただきました。 リリアーヌ様、悪の華という感じでカッコイイですね。 転生者っぽいにおわせがあるので彼女の背景を…
Xの方から伺わせていただきました! 「皆さんご存知の」という前提で捲し立てられた物語という印象で、この話限りとして見た場合、盛り上げるための構成として欠けている部分は多いものの、ある程度長さのある物…
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