遺跡の魔獣
俺の提案した行き先は、レストスの遺跡と言う廃墟だった。
即座に調べたサリシュに、その遺跡についてダメ出しを食らったんだけど……。
勿論、何の理由もなしにこんな場所を提案したりしないよな。
俺がこの場で言い放った台詞によって、全員が言葉を無くし俺の方を見つめて固まっている。まぁ、そりゃあそうかもな。
「……聞こえへんかったん? 『レストスの遺跡』には、目ぼしいもんなんて無いってここには書いてあんねんで?」
「実際、あそこへ行こうってやつぁ、聞いた事も無いからねぇ」
「しかも、待っているのはアンデッドの大群だぞ」
割と長い沈黙の後で、サリシュがさっきと同じ事を口にし、グローイヤが遺跡に関して耳にした話を披露し、シラヌスは現実的に厄介な部分を告げて来た。彼女たちの話を聞くだけで、目的地をそこにしようって奴はいないだろうな。
レストスの遺跡は、ここから3日の距離にある。しかも「スィスィア龍山」の麓に沿って「タルバの森」を進まなきゃいけない。しかも行きついた先は、アンデッドだらけの廃墟で、そこには特に何もないときていた。普通で考えれば、そんな場所に好んで行こうなんて酔狂な輩はいないだろうな。
「実は親父の持っていた書物で見た事があるんだ。あの遺跡には……隠し階段があるってな」
「なっ⁉」
「そ……それは本当なのかよっ⁉」
「……でも、そんな噂なんて……少しも……」
「本当ならば、行く価値も十分にあるのだろうが……」
「あ、すみませぇん。お代わりくださぁい」
俺の話でマリーシェは絶句、セリルとバーバラは信じられないって顔をしているが、カミーラは妙に納得した雰囲気だ。ディディはまぁ……平常運転だな。
「その、アレクの御父君の持っていた書物ってぇ、信憑性はあるのかしらぁ?」
ここでスークァヌが、この話での問題点を指摘した。確かに「らしい」って理由だけで行くには難易度も高く、そして移動距離もある。
「そこは間違いないだろうな。その書物ってのは、俺の親父の冒険記録なんだから」
「ふぅん、なるほどなぁ」
ここで俺がとっておきの設定を口にすれば、ヨウが即座に納得した声を出した。俺の作り出した設定に疑問を持っていないってのもあるんだろうけど、何よりも「体験談」ってのには妙な説得力があるからな。
「でもそれじゃあ、未踏のダンジョンってわけじゃあ……」
「……ああ、そうだな。貴重なお宝の類はもしかすると……期待出来ないかも知れないな」
マリーシェが少し残念そうな言葉を口にすれば、俺がそれを補足したんだが……それは嘘だ。「レストスの遺跡」の隠し階段に関しては、現時点では未発見で誰も入った事が無いだろうな。
何故ならそこを最初に踏破したのは、前世では5年後の俺たちなんだから。だから当然、そこにあるお宝は手付かずの筈だ。でもまぁそれは、今ここで言う必要はないな。
今言うべきは……。
「そしてそこには『石化鳥ペードラ・ラバス』が生息しているみたいなんだ」
「……なんやて⁉」
「ペ……ペードラ・ラバスだと⁉」
よく勉強しているんだろう、サリシュとシラヌスが、殆ど同時に声を上げて絶句している。そりゃあ、その魔物の事を知っていればそんな反応になるよなぁ。
「サ……サリシュ? その……石化鳥って言うのは……?」
「おい、シラヌス。そのペードラ……ってなんなんだい?」
マリーシェがサリシュに、そしてグローイヤはシラヌスに問いかけていた。俺たちレベルの冒険者なら、これが普通の反応だろう。
見れば、カミーラやバーバラにセリル、ヨウにスークァヌもこの2人と同じような顔をしている。……ディディだけは、この話に参加していないけどな。
「石化鳥ペードラ・ラバスゆぅんは、ギルドでLv25以上に認定してる大型の魔獣やで。でもウチの見解やと、Lv25ってゆぅんは低い評価やな」
マリーシェの質問に答える形で、サリシュがこの場の全員に説明する。
「うむ。巨大な雄鶏の姿に、首と尾は大蛇のもの。空を飛ぶ事も出来、何よりも体力が異常に高いとの事だ」
それを引き継ぐ形で、シラヌスが詳細を話した。
「なるほど……。蛇の特性を持つ巨獣という事は、大きさに似合わぬ素早さを持っているという事だろうか?」
ここまで聞いて、カミーラが気付いた事を口にする。そこには、サリシュのいうギルドの評価が低いと言う話から、何か特徴があるのだろうと推察している節が伺えた。
「……いや、動きはそれほど速くないって話なんやけど」
「そうだな。出現場所と、複数の吐息が非常に厄介な魔物なのだ」
そんなカミーラの疑問に、今度は2人して説明する。サリシュとシラヌスは、本当に博学だな。
「ブレスって……毒とか酸とかか?」
「麻痺や……睡眠と言う事も……考えられるわね」
「出現場所が厄介って事は、やっぱり狭い洞窟って事だよなぁ?」
「吸い込んだ吐息が危険と言うならぁ、屋外以外なら全て危険よぅ?」
2人の話に、セリルとバーバラがブレスについて、そしてヨウとスークァヌが出現場所について見解を口にした。うん、確かにこの回答も間違いじゃあないんだけどな。
「……みんな、思い出してや。この魔獣は『石化鳥』なんやでぇ」
「その名の通り、石化のブレスを使う。だから余計に厄介なのだ」
そして、やはりサリシュとシラヌスが正解を語った。その余りの真実に、一瞬その場の空気が固まっちまったんだけど。
「せ……石化っ⁉」
「石化って、石になるって事だよな⁉ 石になっちまったら、どうなるんだ?」
ヨウとセリルが、慌てたように疑問を言い出した。もっともその様子は、どちらかと言えば慌てて口走ったみたいだけどな。
これまでの俺たちの冒険で、敵を石化する能力を持つ魔物には出会った事が無い。いずれは出会う事になるのだろうが、やはり突然告げられれば驚いちまうだろうな。まぁ、いきなり出会う事を考えれば、対処を考えられるだけマシなんだけど。
「毒なら毒消し、麻痺にはアムレート薬で対処できるだろ。睡眠は叩き起こせば良いし、外傷は回復魔法やポーションで治るからねぇ」
直接ではないが、グローイヤは前衛らしく分かる範囲で答えて来た。
前衛職は、常に回復方法を念頭に置き回復手段を備えている。いつでも後衛からの補助が期待できる訳じゃあ無いからな。
そんなグローイヤでも、すぐに石化に対する方法は思い浮かばなかったみたいだな。
「石化には、教会で手に入る聖水が効果的やし現実的やなぁ」
「魔法ならば、修道女の使う石化解除が有効だろう」
それについても、サリシュとシラヌスが明確な答えを告げた。無効化する手段が現状では無い以上、回復手段は彼女たちの答えが最適解だな。
「……それなら、その準備を万全に行えば……問題ないという事?」
「……ふむ。戦闘中という事も考えれば、必ずしも大丈夫とは言い難いだろうが、とりあえず備えにはなるだろうな」
耳にした対応策に、バーバラとカミーラがそれぞれの意見を言い合っている。これはカミーラの言う通り、戦闘中に石化されれば、その度合いにもよるんだが対処できない場合もある。何よりも……。
「石化させられた部分はとても脆いんだ。そこを攻撃されれば簡単に砕けるし、万一砕けちまったら、そこを回復させるには一度石化を解除して、更に復元可能な高位の回復手段が必要だからな」
引き継いだ俺の説明を聞いて、全員が言葉を失っていた。誰かが息を呑み、ゴクリと言う音が妙に大きく聞こえた。
「そして、ペードラ・ラバスが好んで住む場所ってのは、上方の開けた狭く暗い空間だ。朽ちた巨木の内側に出来た洞の中だったり、上空が吹き抜けの洞口だったりな」
石化鳥はそれを知っているのか、それとも本能なのか、自分の能力が最も活きる場所を住処としている。これが、このペードラ・ラバスがLv25に認定されている理由であり、サリシュがそれでも低いと言った理由でもあった。
静まり返っていた場だが、真っ先に声を発したのはカミーラだった。それを聞いて、他のみんなも思考を再開する。
「……ふむ。石化対策は聖水とディディの魔法に期待するとして……」
「……ふぇ?」
そしていきなり話を振られたディディは、とんでもなく間抜けな声を上げて驚いていた。まぁ、彼女は食う事に夢中で殆ど会話に入って来ていなかったから当然なんだが……もう少し会話にも興味を持ってもらいたいものだよなぁ。
目的は石化鳥。でもその怪物は、非常に厄介な石化の能力を持っている。
対応策は幾つかあるが、今の俺たちに対処可能かは……未知数だな。
でも俺は、このメンバーなら何とかなるんじゃないかと考えていた。




