放蕩王子は男爵となることが決定する
「クリスハルト、伝えておくべきことがある」
「なんですか?」
クリスティーナの言葉を受け止めたクリスハルトに国王が話しかける。
まさかこのタイミングで話しかけてくるとは思わなかった。
いや、このタイミングだからかもしれない。
二人の間にあるながねんのわだかまりがようやく解けたのだ。
今こそ伝えるべきだと思ったのだろう。
「今回の一件でお前の王族としての地位を剥奪することになる」
「まあ、そうでしょうね」
国王の言葉にクリスハルトは頷く。
それは最初からわかり切っていたことである。
事件の際に使った国王の命令書はクリスハルトが偽造したものである。
当然、それ自身には効果がないため、クリスハルトの王族としての地位はまだ残っていることがある。
しかし、これほどの大事件を起こしている以上、何らかの処分がないとおかしい。
それが地位の剥奪である。
「今回の一件、すべての責任がお前にあるわけではない。むしろ、国を一つにまとめてくれようとしたことについて、情状酌量をしても良いのではないかという者も現れたぐらいだ」
「……俺を派閥の神輿にしようとする連中ですかね?」
「否定はしないが、好意は素直に受け止めておけ。まあ、下心はあるかもしれないが、純粋にお前の考えを肯定する人間もいたということだ」
「……」
国王の言葉にクリスハルトは黙ってしまう。
自分にすり寄ってくる人間には何らかの下心があると思ってしまう癖がついてしまっている。
第一王子という立場だからこそ、それはしかたがないことかもしれない。
だが、国王の言いうような考え方を今後はしなければいけないとも思った。
「とりあえず、お前には男爵の地位を与え、領地を運営してもらうことにする」
「わかりました」
国王の言葉にクリスハルトは頭を下げる。
王族である立場を捨て、クリスハルトは平民になっていたのだ。
たとえ男爵とはいえ、貴族であることはかなり温情と言えるだろう。
しかし、その後の言葉に驚かされることになる。
「お前に運営してもらうのはこの領地だ。元々は王家の直轄領ではあるが、王都から少し距離があるためにあまり評判の良くない場所だ。運営する者にとっては、な」
「俺が男爵になるのがちょうど良かった、ということですか?」
「安心しろ。あくまで評判が悪いのは場所だけであって、領地や領民には何の問題もない。むしろ、お前が男爵として領地運営をすることを報告したら、領民は喜んでくれているそうだ」
「なんで?」
国王の言葉にクリスハルトは首を傾げる。
どうしてクリスハルトが男爵として領地運営をすることに対し、そこの領民は喜ぶことがあるのだろうか?
貴族の中には悪い領主もおり、領民に対して圧政をする者もいる。
そういう奴と比較すれば、クリスハルトはかなりましな領主になるだろう。
しかし、まだクリスハルトは領主にもなっていない。。
その状況でどうして喜ぶのだろうか?
「お前が担当する領地はここだ」
「えっ!?」
国王は一枚の紙を取り出した。
それはこの国の地図であった。
その一部だけ赤く囲まれていた。
おそらく、そこがクリスハルトの治める領地を示しているのだろう。
その場所を見た瞬間、クリスハルトは驚きに目を見開いた。
もう二度と行くことはない、そう思っていた場所だったからだ。
「クリスハルト、お前はリーヴァ男爵として領民たちを幸せにしなさい。それがお前の役目だ」
「はい……わかりました」
国王の恩情にクリスハルトは感謝した。
クリスハルトに対して、他の領地も候補にあったはずだ。
当然、より良い条件のものだってあったはずだ。
しかし、クリスハルトはより良い条件には興味はなかった。
治めろと言われれば、どこだって治めるつもりだった。
しかし、そこだけは特別だった。
なぜなら、そこは彼が生まれ育った場所──故郷と呼べる場所だったからである。
「ああ、それともう一つあるな」
「何ですか?」
「今回の一件でな、私も国王の座をハルシオンに譲ろうと思ってな」
「なっ!?」
国王の言葉にクリスハルトは驚いてしまう。
一国の王が引退しようとしているのだから、その反応も当然だろう。
しかし、クリスハルトはそれ以外にも理由があった。
「俺のせいですか?」
クリスハルトは思わずそう聞いてしまった。
国王が引退を決意したのは、クリスハルトの起こした事件のせいだろう。
こんな事件を起こしてしまった原因の一端は国王にあるのは間違いない。
だが、事件を起こしたのはクリスハルト自身だ。
その責任を国王がとる必要はないと思っているのだが……
「勘違いはしてほしくないのだが、今回の事件を理由に国王の座を譲るわけじゃない。まあ、きっかけになったのは間違いないがな」
「じゃあ、何が理由で?」
「お前が私の子供だからだよ」
「? じゃあ、俺のせいでは?」
国王の言葉にクリスハルトは首を傾げる。
クリスハルトが原因であることには変わりないように聞こえたからだ。
しかし、国王は首を横に振る。
「別にお前が生まれたことを責めているわけではない。そのことを批判するような人間は親としては失格だ」
「まあ、そうでしょうね」
「私が言いたいのは、ようやくお前の父親としての覚悟を決めることができたというわけだ」
「どういうことですか?」
国王の言いたいことがまだわからない。
元々、彼はクリスハルトの父親であろう。
それは血のつながりがある以上は変わらないことではあるが……
「正直、クリスハルトのことを知った後、私はお前に対して父親らしいことをしてやれなかった。自分の子供であることは認めたがな」
「そんなことは……」
「いや、事実だ。お前に生活で困窮させるようなことはなかったが、私がしていたことはそれぐらいだ。クリスティーナとお前とのことは私も間に入るべきだった。そうすれば、こんなことにはならなかったよ」
「それは……」
父親の言葉にクリスハルトは反論しようとするが、それはできなかった。
反論する材料がなかったからである。
「クリスティーナは私の妻であり、クリスハルトは私の息子だ。その二人が困っているのであれば、両方につながりのある私がどうにかしようとするべきだった。しかし、私にはその覚悟がなかった。そもそもの原因を作ったのは私だったのにな」
「……」
クリスハルトは何も言えなかった。
たしかに、その原因を作ったのは父親である彼であろう。
しかし、そのことについて、クリスハルトは非難するつもりはない。
当時の状況を知る限り、国王はかなり追い詰められている状況だったからである。
その末で酒におぼれてしまい、記憶が混濁した状態でメリッサとの関係ができてしまったのだ。
もちろん、それ自体は問題であろう。
だが、その問題をどうするかは当事者たちだけである。
結果として、当事者たちで問題は解決しているので、クリスハルトがどうこう言うことはないのだ。
「というわけで、私はお前の父親として、今まですることができなかった分を取り戻そうと思う」
「覚悟は立派ですけど、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「いや、ハルシオンがです」
父親の言葉にクリスハルトは腹違いの弟の顔を思い出す。
父親が兄の方にかかりっきりになることを弟はどういう風に思うだろうか?
そのことを考えると、少し心配になってしまったのだ。
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