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放蕩王子は自身のミスを説明される


「……視線が痛いな」


 クリスハルトは思わず呟いてしまった。

 周囲から数多くの視線を向けられてしまっているからである。

 現在、彼はサンライズ王国の城に帰ってきていた。

 あれだけの問題を起こしたのだから、そんな彼に視線が集中するのは当然と言えよう。


「別に悪意にさらされていないのですから、大丈夫でしょう?」


 だが、そんなクリスハルトの言葉にレベッカはそんなことを言う。

 クリスハルトは思わず質問する。


「それは気になっていたな。あれだけのことをしたのに、どうして俺にこんな視線を向けているんだ? いや、むしろ前より好意的というか……」

「クリスハルト様がなぜあのようなことをしたのか、それをきちんと説明したからですね。いかにクリスハルト様がこの国のためを思っていたのか、について」

「……わからないでもないが、それでこんな風になるか?」


 レベッカの説明に納得しつつも、クリスハルトはいまいち納得できなかった。

 たしかに自分の行動はこの国のためを思ってであったし、それを聞いて好意的に見てくれる人もいるだろうとは思う。

 しかし、全員がそうではないとも考えていた。


「それについてはクリスハルト様のミスですね」

「俺のミス?」


 突然の言葉に思わず聞き返してしまう。

 自分がミスをしていたとは思わなかったからだ。

 疑問に思うクリスハルトにレベッカは説明する。


「クリスハルト様は今回の一件で協力者がいたでしょう?」

「ああ、そうだな。流石に俺一人であんな大それたことはできないからな」

「その協力者が問題だったんですよ」

「問題? 協力者がいないとできなかったのにか?」

「いえ、そういうことじゃないですよ。クリスハルト様が今回の行動を起こすうえで協力者は必須だったでしょう」

「だったら、何がミスなんだ?」


 クリスハルトは珍しく理解できていなかった。

 協力者に裏切られたとでもいうつもりだろうか?

 だが、クリスハルトには裏切られるようなへまをしたつもりはなかった。

 たしかに無理矢理協力させた節はあるが、それでも相手に利があるようにも行動していたのだ。

 むしろ感謝されると思っていたのだが……


「協力者のために行動しすぎた点ですかね?」

「なんだそれは?」


 クリスハルトはさらに首を傾げる。

 それのどこが問題だったのだろうか、彼には全くわからなかった。

 疑問に思う彼にレベッカは小さく笑う。


「クリスハルト様は優しすぎました。第一王子の権力があれば、協力者を無理矢理権力で従えることもできていたはずです。ですが、決してそんなことをしなかった」

「当たり前だろう。そんなことをすれば、裏切られる可能性もあったからな」


 レベッカの言葉にクリスハルトは答える。

 彼としては当たり前のことであった。

 いくら権力があったとしても、それで無理矢理従えようものならいくら身分が下だとしても反発される可能性があった。

 その可能性をできる限り下げるためにも、協力者の利益になるように行動したのだ。


「それがミスですよ」

「何?」

「協力者たちはクリスハルト様の希望に沿うために行動していました。それはクリスハルト様の希望を叶えるため──幸せになってもらうためです」

「そうだな。だが、それがどうしてミスなんだ?」

「これはあくまでもクリスハルト様が考えていた現状における幸せだからですよ」

「どういうことだ?」


 レベッカの説明にクリスハルトは首を傾げる。

 やはりまだわからなかった。

 理解できないクリスハルトを見て、レベッカは少し嬉しそうにする。

 天才の彼が分からないことを説明する、その状況に何らかの快楽を感じているのかもしれない。

 もう少しこの愉悦を感じていたい所であろうが、流石にこのままの状況は良くないのでレベッカは説明を続ける。


「根本から覆したんですよ」

「根本?」

「クリスハルト様はクリスティーナ様に嫌われている、一つ下に第二王子であるハルシオン様がいる──この二つから自分が邪魔な存在だと思われていました。ですが、これはクリスハルト様の勘違いです」

「……そうだな」

「先ほどの二つの考えから考えれば、クリスハルト様の幸せは王族を辞めて、他国で自由気ままに過ごすことだったでしょう。しかし、その考えが勘違いだったとしたら?」

「……俺の幸せの条件が変わるというわけか?」

「はい、そういうことです」


 ようやく理解できたクリスハルトの答えにレベッカは頷く。

 流石にここまで説明すれば、クリスハルトは答えを導くことができた。

 しかし、ここでさらに疑問が生じる。


「だが、協力者はそう簡単に裏切るようなやつを選んだつもりはないんだが……」


 クリスハルトは協力してくれた人物たちの顔を思い浮かべる。

 多少の問題はあるかもしれないが、決して悪い人間ではない。

 むしろかなり良い人間だったようにクリスハルトは思っていた。

 そして、そんな彼らだからこそ、クリスハルトを裏切るようなことをするとは思えなかったのだが……


「協力者たちを私に近づけたのもミスですね」

「近づけたことがか?」

「はい。作戦のために必要なことだったとはいえ、協力者は少なくない時間を私と過ごすことになりました。当然、それだけの時間を共に過ごせば、私がどのような事を考えているのか、なんとなくわかるようになるでしょう」

「側近だとしても、人の気持ちをわかる奴の方が少ないと思うが?」

「それはあくまでも権力や財力に寄ってきた方たちだからでしょう。その為人を見ていないのだから、わからなくて当然です」

「まあ、そう考えるのなら、あの二人は問題ないか」

「正確に言うと、セシリアさんの方ですかね。同じ女性だからこそ、私の本当の気持ちを理解してくれたようです」

「……そうか」


 クリスハルトはどう反応していいのかわからなかった。

 同性だからという理由でセシリアがレベッカの気持ちに寄り添えたことは理解できた。

 だが、クリスハルトは二人セットで考えていたので、そこからはじかれたフィルが少し可哀そうだと思ってしまったわけだ。


「もちろん、クラウド商会の彼も良い人ですね。私の気持ちを察することはできなかったようですが、愛する人を守ろうとする姿には感銘を受けました」

「……権力で脅したのか?」

「そんなことをするつもりはありませんでしたよ。捕まえたときには多少の手荒い真似はしましたが、決して怪我をさせていませんし」

「こっちがそのつもりでも、向こうが恐怖を感じることもあるだろうに」

「それは否定するつもりはありませんよ。ですが、セシリアさんの方は私も気持ちを察したうえで、クリスハルト様のことを話そうとしてくれました。まあ、その前にフィルさんがいろいろと暴露してしまったわけですが……」

「……」


 クリスハルトはあとでフィルに説教することを決めた。

 セシリアの方はレベッカの気持ちを考えた上で話そうとしたのだろうが、フィルの方はそんなことを関係なしに暴露したようなものだからである。

 セシリアが危ないと思ったからかもしれないが……


「とりあえず、クリスハルト様の本心については協力者の方たちが話してくださいました。それを国中に知らせただけですよ」

「……それだけで信じるのか? おそらく王族からの発表だろうけど、それはあくまで王族の評判を下げないようにしたことだと思われそうだが……」

「それについては、クリスハルト様の出生を同時に発表しました」

「なに?」


 クリスハルトは驚く。

 クリスハルトの出生は王族のスキャンダル──完全に評判を下げるものだからである。


「どうしてクリスハルト様が今回のようなことをしたのかを納得してもらうため、信憑性を高めようとしたんですよ」

「……そんなことをして無事に済むのか?」


 レベッカの説明に納得しつつ、クリスハルトは不安に思う。

 いくら最高権力者とはいえ、スキャンダルを告白したらただで済むとは思えない。

 かなり不安に思ったのだが……


「それはご本人たちからお聞きください」

「ん?」


 レベッカは廊下の先を指した。

 そちらへ振り向くと、一組の男女が歩いてきていた。

 そして、クリスハルトの存在に気づくと、女性の方が勢いよく駆けだした。






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