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凡人の叔父は独白する


「私が爵位を失う直前、陛下と妃殿下と内密に話すことになった。最初はどういうことかはわからなかったが、二人からクリスハルトが私の命を助けるよう懇願したということを聞いたよ。そこで私は後悔したよ。どうしてお前をもっと面倒見てやらなかったのか、とな」


 自嘲するように叔父は話した。

 どうやら叔父はクリスハルトより前に国王夫妻と面識があったようだ。


「父上からお前のことを託された時、私はどう向き合えばいいのかわからなかった。陛下の血を引いていることもそうだったが、あのメリッサが命を懸けて産んだ子供であるお前に対して、私にできることがあるのかと心配になってしまったんだ」

「なんで?」


 叔父の言葉にクリスハルトは純粋に疑問に思った。

 王族の血を引いているクリスハルトに対して、どう接すればいいのかが分からないのは理解できる。

 しかし、叔父はそれよりもクリスハルトの母親であるメリッサの子供であることの方が接し方が分からない理由のようだった。

 だからこそ、疑問に思ったのだ。

 そんなクリスハルトの疑問に叔父は答える。


「リーヴァ子爵家の人間がどう呼ばれているのか、知っているか?」

「【智のリーヴァ】──天才を多く輩出しているから、知っている人間はそう呼んでいるんですよね?」

「ああ、その通りだ。父上とメリッサはまさにその通りの天才だった。しかし、私は違った」

「え? 叔父さんも学院を首席で卒業したんですよね?」


 叔父の言葉にクリスハルトは驚く。

 直接聞いたことはなかった。

 しかし、いろんなことを調べていくうちに王立学院の主席卒業した生徒たちについてみることがあった。

 祖父や母親の名前はすぐに見つけることができたし、母親の何代か前に主席卒業したのが叔父であった。

 だからこそ、クリスハルトは叔父も天才であると思ったのだが……


「私は天才ではなかった。主席卒業も血の滲むような努力をして、ようやく手にしたんだよ」

「努力をして結果を出したのなら、それだけで十分凄いと思うけど……」

「だが、私がそんな努力をして得たものをメリッサがあっさりと取ってしまったらどう思う?」

「……」


 クリスハルトは叔父の話を聞き、思わず同情してしまった。

 クリスハルトも天才側の人間である。

 しかし、状況を考えれば、その人物の気持ちを推測することはできる。

 クリスハルトが察したことに気が付いたのか、叔父は話を続ける。


「まあ、そのことについてメリッサに対して敵意を抱くようなことはしていなかった。しかし、同時にメリッサに対してどう反応すればいいのかわからなかった」

「どうして?」

「妹の方が圧倒的に優秀なんだぞ? 別に偉そうにするつもりなど毛頭なかったが、兄としてどう接すればいいのかもわからなかった」

「……なるほど」

「だからこそ、私は別の場所に就職し、リーヴァ子爵家を離れていた。跡継ぎは私しかいなかったから、他の場所で見識を深めてくるというそれっぽい理由をつけてな」

「……」


 叔父の話を聞き、クリスハルトは何とも言えなくなってしまう。

 彼は相当つらかったのだろう。

 だからこそ、離れてしまったのだ。


「そんな私の元に父上が亡くなる直前に会いに来た」

「え?」


 ここでまさか祖父のことが出てくるとはクリスハルトは思っていなかった。

 いや、今までの話にも出てきた。

 しかし、叔父に会いに行っているとは思ってもみなかった。


「メリッサがすでに亡くなっており、忘れ形見であるクリスハルトがいること。クリスハルトが陛下の血を引いていること。そして、自分の死期が近いから、私に託したいことを伝えに来たようだ」

「そんなことをしていたんだ」


 叔父の話を聞き、クリスハルトは祖父の死の直前を思い出す。

 たしかに、祖父はある程度の期間、リーヴァ子爵領を空けていた。

 まさか叔父のところを訪ねているとは思ってもみなかった。


「父上の姿を見て、私は混乱したよ。天才で圧倒的な存在だと思っていた父上が凡人である私に対して頼み込んでいたのだ。病魔に蝕まれ、衰弱しきった体を支えたことで私は今までの間違いに気づいたよ」

「……それはよかった」


 叔父が祖父と母親に対して考えを改めてくれたことに、クリスハルトは安心した。

 やはり家族は仲良くした方が良い事は身に染みて理解しているからである。


「クリスハルトを引き取った後、父上の遺言通りにしっかりと世話しようと思った。しかし、今まで領主としての仕事をまったく勉強してこなかった私にとって、いきなり引継ぎをされた仕事はあまりにも厳しすぎた。天才である父上が長年こなしてきた仕事なのだから、領主になりたての私にどうこうできるものでもなかったわけだがな」

「それは……」

「結果として、当時の妻にクリスハルトを任せるしかなかった。しかし、あのようなことになってしまったわけで……いや、それで良かったのかもしれないな」

「どうして?」


 クリスハルトは叔父に問いかける。

 おそらく、クリスハルトが虐待に耐えかねて逃げ出し、いろいろあった末に王族として引き取られることになったことを言っているのだろう。

 たしかに王族になることは幸せにつながる可能性は高いであろうが、だからといってそちらの方が良かったというのはおかしな話であると思う。

 そんなクリスハルトの疑問に叔父は答える。


「おそらく、私がうまく仕事をこなして、お前をしっかり面倒と見ようとしたとして、妻と息子の悪行を止めることはできなかっただろう。性格の悪いあいつらのことだから、私の気付かないように虐待やいじめを続けていただろう」

「……」


 叔父の言葉にクリスハルトは黙り込むが、心の中で納得していた。

 あの二人の性格の悪さは直接被害を受けてきたクリスハルトだから理解できる。

 あの状況ではたとえ叔父がいたとしても、虐待やいじめが亡くならなかったと思う。

 そう考えると、クリスハルトは王族として引き取られた方が幸せだったのかもしれない。


「お前は幼いながらに私のそんな状況を察し、頼んでくれたのだろう? 爵位剥奪は免れなかったのかもしれないが、元々私に領主としての素質はなかった。命を助けてもらっただけで十分だった」

「叔父さん……」


 叔父の言葉を聞き、クリスハルトは自分の考えが間違っていなかったことを理解した。

 あの時、数えるほどしか会ったことのなかった叔父に対して助けを求められなかった。

 しかし、自分の唯一の血縁だと思っていた叔父がいなくなることを恐れ、どうにかして助かってもらいたかったのだ。


「その話を聞いたあと、陛下と妃殿下は私に対して提案をしてくれた。爵位を失ったとしても、クリスハルトとハルシオン殿下の家庭教師にならないか、とな」

「え? なんで?」


 いきなりの展開にクリスハルトは驚いた。

 もちろん、叔父に勉強を教わったことはないので、その提案が通らなかったことは理解している。

 しかし、まさかそんな話になっているとは思っていなかった。


「たとえ凡人だとしても、王立学院の主席卒業は伊達じゃないんだぞ? いや、むしろ凡人であることの方がこの場合は役に立ったというべきかな」

「どういうこと?」

「頭の良さだけで言うなら、陛下や妃殿下も申し分ない。しかし、二人は普段の政務がある上、天才でもあった。でき過ぎるが故に、できない人間がどうしてできないのかがわからないんだ。そういう意味で凡人の私に白羽の矢がたったわけだ」

「なるほど」


 叔父の話にクリスハルトは納得した。

 たしかに理屈は通っていると思ったのだ。

 そして、陛下と妃殿下の考えはなんとなく理解できた。


「だが、私は断った。おそらく二人は私とクリスハルトとの仲を取り戻す機会を作ってくれようとしたのだが、その時の私にはお前に合わせる顔がなかった。だからこそ、爵位を失って、そのまま平民として市井で生きていくことを決めた」

「……わからないでもないか」

「そんな私の決断を二人は尊重してくれた。そして、私や父上、メリッサの代わりにしっかりとクリスハルトを育てることを約束してくれたよ。まあ、上手くはいかなかったようではあるが、約束を守ってくれようとしたことは理解できたよ」

「どうしてそんなことがわかるの?」

「それはもちろん、お前が自分ですべてを捨てようとしたことからわかるさ。お前は勘違いしていたようだが、本来であれば【放蕩王子】と呼ばれるほど酷い生活を送るようなら、廃嫡されていたっておかしくはなかった。だが、陛下も妃殿下もそれをしなかった」

「……」


 叔父の言葉にクリスハルトは納得するしかなかった。

 たしかにその通りかもしれない。

 自分を廃嫡する話が一向に上がらなかったからこそ、クリスハルトは自分で廃嫡されるという荒業に出たのだ。


「そして、それはこちらのお嬢さんの言葉でようやく確信を得た。二人は私との約束を守ってくれようとした、とな」

「……そうかもね」


 クリスハルトは少し照れくさい気持ちになった。

 自分も愛されていることを理解して嬉しく思う反面、この年になって親の愛に気づくのは気恥ずかしかった。

 そんなクリスハルトに叔父は告げる。


「今のお前だったら、素直に陛下と妃殿下に接することはできるだろう。王族に戻ることはできないかもしれないが、悪いようにはしないと思うぞ。それにお前のことをこんなに愛し、迎えに来てくれる人たちがいるんだ。しっかりと大事にしろよ」

「叔父さん」


 笑顔で告げる叔父にクリスハルトは勘違いする。

 王族の立場を捨てたクリスハルトを拾い、仕事をくれたのは叔父だった。

 今まで生きてこれたのも叔父のおかげも大きい。

 だからこそ、感謝しているのだ。


「ああ、それと城に行くのであれば、図書室の──」

「お話の途中ですが、一つよろしいですか?」

「「ん?」」


 叔父が最後に何か言おうとした瞬間、それをレベッカが遮った。






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