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公爵令嬢は追い詰める


「では、まず俺がその第一王子だったと仮定するとして、そんな人物がどうしてこんなところにいるのですか? 他国の、平民たちが集う酒場でね」


 青年は余裕の表情を浮かべる。

 といっても、本心から余裕があるのかはわからない。

 あくまで表面上は、である。


「クリスハルト様はサンライズ王国の王立学院の卒業パーティーで盛大に大失態を起こしました。私との婚約破棄を宣言し、低位貴族の女性に愛を囁きました」

「おや、それはとんでもない人間ですね」

「しかし、覚悟もあったようです」

「覚悟ですか?」

「ええ。公爵令嬢である私と婚約破棄をし、男爵令嬢と結婚しようとしたのです。当然、王子としての身分すらも捨てるつもりだったのでしょう」

「なるほど……行動は無謀ではあったが、彼なりの信念に基づいての行動だった、と」


 レベッカの説明に青年は納得したような反応を示す。

 しかし、周囲は首を傾げる。

 彼女の説明を聞く限り、どうして婚約破棄をされたはずの彼女が婚約者としてさがしているのか、と。


「まあ、その男爵令嬢には恋仲の男性がおり、クリスハルト様は大衆の前で盛大にフラれましたが……そして、結果として身分も失うこととなりました」

「ほう?」

「そのまま人生に嫌気がさしたのか、崖の上から一人で身投げをしてしまったようです。崖の上にはクリスハルト様のものらしき装飾品、崖の下にあった川から続く下流にはクリスハルト様のものらしき服の破片が流れ着きました」

「愛も身分も失った男がそのまま命を失ったというわけですね。可哀そうに」


 レベッカの説明を聞いた青年は大げさに嘘泣きをする。

 ふざけているようにしか見えない。

 しかし、府避けることができるほど余裕があるようにも見える。


「ですが、その第一王子が死んだのであれば、私とは別人でしょう。他人の空似、と言う奴ですね」


 青年ははっきりと告げる。

 レベッカの説明の通りであれば、件の第一王子はすでにこの世にいないということだ。

 ならば、自分ではない、という理屈なわけだ。

 しかし、そんな彼の言葉にレベッカは首を振る。


「いいえ。今までの話はあくまでもその事件の表面を語っただけです」

「というと?」


 青年が少し体を強張らせる。

 少し余裕がなくなったようにも見える。


「まず、クリスハルト様が男爵令嬢に告白したという話ですが、それはすべて偽装でした」

「偽装? 大衆の面前で婚約破棄をして、そのまま愛の告白をしたのでしょう? 明らかに本気だと思いますけど?」

「行動で見れば、そうでしょうね。ですが、クリスハルト様はフラれることは分かっていたのですよ。なぜなら、男爵令嬢と彼女の恋人との恋の手助けをしたのはクリスハルト様なのですから」

「それはおかしな話では? 結果として、その第一王子は身分を失ったのであれば、彼はすべてを失ったということでしょう? そんな行動をする意味が分からない」


 説明を聞いた青年は反論をする。

 その表情には先ほどまでの余裕がない。

 彼女の言葉を否定しようと必死になっているようだった。


「失うことが目的だったのですよ」

「失うことが目的?」

「はい。彼は第一王子ではありますが、陛下と城勤めの使用人──しかも、王妃直属のメイドとの間に産まれた【不義の子】だったのですよ」

「……」


 いきなりの暴露に青年は黙り込む。

 しかし、それと対照的に周囲はざわざわと騒ぎ出す。

 いくら他国とはいえ、王族のスキャンダルを聞けば、そんな反応になるのは当然であろう。


「ちなみに言わせてもらうと、陛下にもそのメイドにも状況的に非はありませんでした。そして、すべての話を聞いたうえで王妃様はメイドを許したそうです。ですが、メイドの彼女は王妃様を裏切ってしまったという罪の意識から職を辞したそうです」

「まあ、当然の行動でしょうね」

「ですが、彼女はすでに身籠ってしまいました。実家に戻った後にクリスハルト様を出産することになり、そのまま命を落とすこととなってしまいました」

「……」


 説明を聞いた青年は黙り込む。

 不義や人の死などの話を聞けば、先ほどのように笑みを浮かべるわけにもいかない。

 まあ、彼にはそれ以外の理由もあるのかもしれないが……


「それから数年して、偶然の出会いによりクリスハルト様は王族として引き取られることになりました。しかし、初めての顔合わせで王妃様からかけられた言葉にクリスハルト様は自分の存在が認められないものだと思ったようです」

「……だから、自分で身分を失うように行動したというわけですね。理屈としては通っていますね」


 青年は納得したように頷く。

 ここには否定するようなことはなかったからである。

 しかし、そんな彼の心を揺るがすような説明をレベッカは続ける。


「しかし、それはクリスハルト様の勘違いでした」

「勘違い? 何がですか?」

「王妃様──クリスティーナ様はクリスハルト様のことを嫌ってはいませんでした。自分専属メイド──いえ、学院時代からの親友の忘れ形見として、母親代わりとなって大事に育てようと思ったそうです」

「……それはおかしな話では? その王妃様のかけた言葉により、子供だった第一王子は絶望したのでしょう?」

「王妃様は普段の気丈な姿とは裏腹に、本当はあがり症な一面を持っていました。そんな彼女が結果として喧嘩別れのような形となってしまった親友の忘れ形見と出会った時、平常心でいれると思いますか?」

「……難しいでしょうね」


 レベッカの質問に青年は答える。

 本当の話であるのなら、平常心でいるのが難しい事は流石に否定できなかった。


「その後、クリスティーナ様はどうにか関係を修復しようとしましたが、クリスハルト様は頑なに拒みました。正確に言うと、クリスティーナ様も上手く事を運ぶことができなかったのも原因でしょうね。しかし、もう一つ問題がありました」

「問題?」

「第二王子──ハルシオン様がいらっしゃったことです。彼はクリスティーナ様の実の子だったのです。クリスハルト様はクリスティーナ様が実の子を次期国王にするため、自分の存在が邪魔だと確信したみたいですね」

「……」


 反論はできなかった。

 いわゆるお家騒動らしい話である。

 平民だろうと、状況を聞けば理解することはできる。


「ずっとそう思い続けたクリスハルト様は自分の存在を消す方向で動きました。それが自身の身分を剥奪する陛下からの命令書の偽造です」

「偽造? どうしてそんなことをする必要が? 目的はどうであれ、実際に色々とやらかしてきているのであれば、普通に命令書が出ると思いますけど」

「陛下は素晴らしい人格者です。クリスハルト様の事情も、クリスティーナ様の気持ちもすべて考えたうえで、どうにか上手くいくように行動していました。そんな陛下がクリスハルト様の身分を剥奪するような命令書を出すはずがありませんよ。あと、偽造した命令書の出所がクリスハルト様であることはそれを当人から渡された協力者の方が吐いてくれましたよ」

「……ちっ」


 青年は小さく舌打ちをする。

 それはとても小さな音であり、ほとんどの者は気付かなかった。

 しかし、レベッカは軽く口角を上げる。

 どうやら彼女は気付いたようだ。


「その方は非常に真面目な方です。クリスハルト様が次期国王となればサンライズ王国が大変なことになると思い、ハルシオン様を支えるために行動しました。それを知っていたからこそ、クリスハルト様は彼を選んだのでしょうね」

「……真面目なら犯罪に加担するようなことをしないのでは?」

「それは真面目が故、ですね。今後の国が最も安定するために行動しないといけない、とクリスハルト様の口車に乗せられたようです」

「……思い込みですか」

「まあ、その結果がクリスハルト様を犠牲にしてしまったことによって罪悪感を抱き、精神的に病んでしまいましたが……今は領地で療養中です」

「……」


 青年は黙り込む。

 否定をすべき状況ではあるが、一人の人間が療養中という状況に今までのように冗談交じりで反論することはできなかった。

 その状況にレベッカはチャンスだと思ったのか、さらに続ける。


「ちなみに、件の男爵令嬢とその恋人も協力者であることはわかっていますよ。二人は現在、国家転覆をしようとした罪に問われています」

「……どうしてですか?」

「国の中枢にいる方々は「第一王子ともあろう方がこんな行動をするわけがない」と思っているわけです。つまり、クリスハルト様に教唆した人間がおり、それがこの二人だと考えているわけです」

「……そんなことできるわけではないでしょう。協力者になれたとしても、圧倒的に身分が下の二人が第一王子を教唆できるわけがない」


 レベッカの説明に青年は否定する。

 普通ならあり得ないだろう。

 しかし、それだけでは通らないのが貴族の世界なのだ。


「まあ、私もそう思いますが、クリスハルト様を擁立しようとしていた方々にとってはのっぴきならない事情なわけです。自分たちに責任が及ばないよう、この二人に責任を取ってもらおうと思ったようですね」

「……」


 青年の表情が険しくなる。

 このような話を聞かされ、気分が悪くなっているのだろう。

 しかし、青年は認めることはなかった。

 ここで認めてしまえば、今までの努力が無駄となってしまうと思っているのだろうか。

 何かしらの思いが彼を思いとどまらせていた。

 そんな彼の様子にレベッカはため息をつく。


「はぁ……これでも無理ですか。あまり使いたくない方法でしたが、仕方がないですね」


 レベッカは後ろにいた人間に指示を出すように手を上げる。

 そして、なぜか少し横に動いた。


(バンッ、ダッ)

「っ!?」


 酒場の入り口がいきなり開き、青年の胸のあたりまでありそうな大きさの物体が飛び込んできた。






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