クールな王妃は娘に慰められる
時間軸は現在に戻ります。
「結局、私はクリスハルトとの関係性を改善することはできなかったわ。その結果がこれよ……」
私は思わず両手で顔を覆ってしまう。
自分のせいでこんなことになってしまったと理解しているからこそ、後悔してしまっているのだ。
もしクリスハルトにもっと歩み寄ることができていれば、こんなことにはならなかったのではないだろうか──そんな考えが常に頭の中を支配していた。
それが私の心をすり減らしていく。
「お母様がすべて悪いわけじゃないわ」
「リリアナ?」
後悔する私にリリアナが優しく声をかけてくれる。
彼女はとても優しい子である。
人の感情の機微に敏感であり、困っている人に声をかけることができる自慢の娘である。
そういうのが苦手な私から生まれたとはとても思えない。
「確かにお母様にも非があるのは事実よ」
「うっ」
リリアナの指摘に私は胸を抑える。
私に非があること自体は彼女も認めているようだ。
いや、それはわかっているのだが、こうも真正面からはっきり言われると心に来るものがある。
人の機微には敏感ではあるが、如何せんまだまだ子供の彼女には相手を思いやるような話し方はまだできない。
そういう所が子供らしい愛らしさと言えなくもないが……
「同じ城で生活していたんだから、いつでも会うことはできていたと思うわ。何年も過ごしてきたんだから、話しかけるタイミングもいっぱいあったと思うわ。そこできちんと交流をできていれば、こんな風にこじれることはなかったはずかな」
「……そうね」
リリアナの言葉に私の気持ちは沈む。
私のせいでこじれたのであれば、私自身が解決すべく動かないといけなかったのだ。
しかし、私はそれができなかった。
だからこそ、私の非なのだろう。
その事実を突きつけられた私はさらに落ち込んでしまう。
「でも、クリスお兄様にも同じく非はあるわ」
「え?」
だが、リリアナはいきなりそんなことを言った。
クリスハルトのことが好きな彼女らしからぬ言葉であった。
少し怒った様子で彼女は話を続ける。
「クリスお兄様はお母様に対しては頑なだったと思います。まるでわざとお母様に嫌われるようにしていた節すらあります」
「……やっぱり嫌われていたのね」
「それは違うわ」
「え?」
クリスハルトに嫌われたという話に落ち込む私をリリアナが否定する。
その言葉に思わず下を向きそうになった顔が上がる。
そんな私にリリアナは真剣な表情で話を続けた。
「クリスお兄様はとても優しい人であることは妹である私が一番わかっています。クリスお兄様は面倒そうな顔をしつつも、私を拒否することはありませんでしたから」
「……そう」
リリアナの話を聞き、私の気持ちは落ち込んでしまう。
自覚はしていないのかもしれない。
クリスハルトの優しさを離したいのかもしれないが、これではリリアナが受け入れられ、私が受け入れられないことを話しているだけなのだ。
しかし、話はこれだけで終わらないようだ。
「そんなお兄様がお母様のことを嫌いだからという理由で頑なに行動するはずがありません。今回の件だって、誰かのためにこんなことをしたはずです」
「っ!?」
リリアナの話に私は驚く。
クリスハルトが優しいと信じているからこその視点であった。
彼が人を傷つけるためにこんなことをするはずがない──完全にそう思っているのだ。
「きっとお兄様のことよ。自分がこの国にとって邪魔だとか思って、自ら退場しようとしたんだと思うわ」
「……どうしてそう思うの?」
リリアナの話に私は思わず首を傾げてしまう。
彼女がクリスハルトを信じる理由はわかる。
しかし、そこまで言う理由が分からなかったのだ。
何か根拠があるのだろうか?
「ロータスがお兄様の独り言を何度か聞いたみたい」
「独り言?」
「「これで俺の評判はさらに下がるな」「レベッカも愛想をつかしただろうな」「これでまたハルシオンの派閥が増えたな」──そんなことを口にしていたみたい」
「そんなことを言っていたの? というか、どこでそんなことを聞いたの?」
クリスハルトがそんなことを言っていたことに私は驚く。
しかし、それよりも彼の言葉をどうしてリリアナのメイドであるロータスが聞くことができたか気になってしまう。
そんな私の疑問にリリアナは答える。
「城の図書室だったみたい。私のために本を借りるために図書室に行ったとき、偶然聞いたみたい。お兄様はロータスに気づかなかったから、思わず口にしていたのかもしれないわ」
「……なるほど」
「あっ! でも、クリスお兄様が知らないお爺さんと図書室で親しく話していた、ってロータスが言っていたわ」
「知らないお爺さん? まさかっ!?」
リリアナの話を聞いた私はあることに気が付いた。
ずっと疑問に思っていたことがあった。
今回の件はクリスハルトがわざとやっていたことはわかっていた。
しかし、明らかに一人でやるには不可能な大掛かりな内容なのだ。
クリスハルトが実は天才であることは判明している。
今回の事件のあと、ハルシオンの家庭教師をしていた先生から報告を受けたのだ。
彼は元々クリスハルトの家庭教師であり、その優秀さを見込んでハルシオンの家庭教師もしてもらったのだ。
その彼曰く、ハルシオンの家庭教師をすることをクリスハルトに勧められ、ハルシオンの現状に合わせた勉強法について何度かクリスハルトが提案したらしい。
その結果、ハルシオンの成績は格段に上がった。
私はハルシオンの努力の賜物だと思ったのだが、どうやらクリスハルトのおかげだったらしい。
ならば、どうしてクリスハルトの学力が下がったのか疑問に思ったのだが、手を抜いていたと先生は語った。
クリスハルトは不義の子が実の子を学力で負かしてしまうことで私の機嫌が悪くなる可能性があり、ハルシオンに対してより厳しくなることを危惧していたらしい。
たしかにそう思われても仕方がないかもしれない。
だが、別に私はクリスハルトがハルシオンを負かすことに対しては何とも思っていなかったのだ。
昔はハルシオンがまったく勉強をしていなかったので厳しくしていただけなのだ。
それをクリスハルトにたしなめられたこともあり、彼がそんなことを思っていたのもそれが原因なのかもしれない。
とりあえず、天才であるクリスハルトが多少勉強しなくとも、学力が落ちるはずがないのだ。
クリスハルトはまったく勉強しないでも学院に首席入学を果たし、そのまま卒業することができるぐらいの頭脳があると家庭教師は評していた。
それは流石に嘘だろうと思ったのだが、家庭教師の真剣な表情が真実であることを物語っていた。
しかし、いくらクリスハルトが天才でも一人でこんなことができるはずがない。
今回の一件、クリスハルトが完全に悪者の状況になっていたが、それはあまりにもできすぎていた。
今までの話を総合し、クリスハルトが事前にそうなるように悪い評判を流していたのだろう。
だが、それは一人でできることではないはずだ。
誰か協力者がいたと考えるべきか……
(コンコン)
「王妃様、よろしいでしょうか?」
「入りなさい」
部屋の扉がノックされたので、私は招き入れる。
リリアナと過ごしていることはわかっているだろうから、急ぎの用事なのだろう。
だからこそ、すぐに招き入れたのだ。
一人の使用人が部屋に入ってくる。
なぜかそわそわしている様子だった。
「ムーンライト公爵令嬢──レベッカ様が王妃様とお会いしたい、と」
「わかったわ。案内してあげて」
「え、えっと、良いのですか?」
「? どういう意味かしら?」
質問の意図が分からず,私は首を傾げる。
その質問を使用人が答えることはなかった。
しかし、どうして彼がそんなことを言ったのか、すぐに理解することになった。
「ごきげんよう、ティーナ様。リリアナ様」
「ごきげ……っ!?」
部屋に入ってきたレベッカに挨拶を返そうとしたが、私はそれを最後まで続けることができなかった。
驚きの光景が広がっていたからである。
珍しくリリアナも驚いている様子だった。
「実は分かったことがあります」
驚く私たちを気にすることなく、レベッカは話を始める。
そんな彼女の足元には二つの大きなものが転がっていた。
それは簀巻きにされた人間であった。
公爵令嬢暴走中。
詳細については後で語るサイドストーリーで書くつもりです。
あと、とある人物についても。
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