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クールな王妃は自身の行動を後悔する


「ああ、なんてことを……」


 私は部屋で頭を抱えていた。

 完全に後悔している様子が分かるはずだ。

 しかし、周囲は私に同情する様子はなかった。

 特にリリーはそれが顕著であった。

 明らかに呆れた表情を浮かべていた。


「ほら、言わんこっちゃない」

「わかっていたなら、助け船を出してよ」

「クリスが「大丈夫」って言ったんでしょ?」

「うぐっ!?」


 リリーの指摘に私は言葉を詰まらせる。

 その点では反論できなかった。

 しかし、私だって本当に大丈夫だと思っていたのだ。

 実際にメリッサの息子──クリスハルトと出会うまでは……


「「あの女の子供」は流石に無いわ。なんであんなことを言ったの?」


 リリーから問いかけられる。

 私は初っ端にとんでもない失言をしてしまった。

 義理の母子となる上で最悪の顔合わせと言っても過言ではないだろう。

 正直、その時のクリスハルトのショックを受けた表情はいまでも頭の中に残っていた。

 しかし、私にも理由があったのだ。


「……実際にクリスハルトを見て、メリッサと似ていると思ったの」

「そこまで似ているかしら?」


 私の言葉にリリーが首を傾げる。

 どうやら彼女にはわからなかったようだ。

 まあ、流石にこれが分かるのはメリッサの親友であった私ぐらいであろう。


「ええ、似ているわ」

「……私の記憶が正しければ、メリッサの容姿とは似ても似つかない気がするわ。まあ、どちらも整っているという点では同じかもしれないけど」

「そういうことじゃないわ」

「じゃあ、どういうことよ」


 私の言葉にリリーが聞き返してくる。

 ルックスが全く違うのであれば、何が似ているのかわからないのだろう。

 たしかに、こういう場合の似ている部分はルックスであることが大半であろう。

 しかし、私はそういう場所は全く見ていなかった。


「私を見る目よ」

「クリスを見る目?」


 リリーが怪訝そうな反応をする。

 旦那さまやアレク様も理解できなかったようで首を傾げる。

 まあ、これだけで理解できないのは仕方がない事だろう。

 だからこそ、私は一から説明をする。


「メリッサは私と話すときに決して目線を逸らすことはなかったわ。常にまっすぐ、私のことを見てきたの」

「そうなの?」

「学生時代に一度聞いたことがあるわ。私と信頼関係を築くため、まっすぐ偽りのない自分であることを示したかった──メリッサはそう言ったわ」

「まあ、たしかにメリッサらしいわね」


 彼女は私に対してまったく自分を偽らず、常に正直に私と接してくれた。

 だからこそ、私も彼女のことを信頼し、ありのままの自分で接したのだ。

 大事な親友を裏切りたくなかったからである。

 それはあの日もだった。


「メリッサは私の元を離れると決めたときもまっすぐ見てくれたわ」

「っ!?」

「裏切ってしまった──そう思っていたのだから、私と視線を合わせることなど本来ならできるはずがなかったわ。でも、彼女は私と旦那様の将来のことを考えてくれていたからこそ、自分の言うことを信用してもらおうと決して私から視線を逸らすことはなかったの」

「……」


 私の説明にリリーは何も言えなかった。

 それは男性陣も同様であった。

 私にとってメリッサとの別離の話は繊細な話である。

 だからこそ、下手に相槌を打つこともできなかったのだろう。


「クリスハルトがじっと私を見たとき、メリッサと瓜二つだと思ったわ。そして、私はなぜか緊張してしまったわ」

「はぁ……」


 私の言葉を聞いたリリーが大きくため息をつく。

 完全に呆れられたと思ったのだが、再びこちらを向いた彼女の表情はそうではなかった。

 なぜか予想通りのことが起こった、といった感じであった。


「な、なによ」

「まさか、ここまで考えた通りになるとは思ってもみなかったわ」

「どういうことよ」


 リリーの言葉に今度は私が分からなくなる番だった。

 彼女は一体何を言っているのだろうか?

 というか、何を考えていたのだろうか?

 疑問に思う私に彼女は説明を始める。


「クリスはメリッサに対して異常なほど罪悪感を持っているみたいよ」

「は?」


 予想外の言葉に私は呆けた声を出してしまう。

 まさかそんなことを言われるとは思っていなかった。

 というか、それが今回の件とどんな関係があるのだろうか?


「メリッサがいなくなってからのクリスの様子を見てきたけど、それまでと同じようにしていたわよね?」

「それは別におかしなことじゃないでしょ?」

「いえ、おかしいことよ。だって、親友であるメリッサがいなくなったんだから、今までと同じように過ごすことができる方がおかしいのよ」

「っ!?」


 リリーの指摘に私は反論できなかった。

 まさにその通りだったからである。

 反論できない私を見て、リリーはさらに話を続ける。


「離れてしまったメリッサに心配かけないように頑張ろうとしたんでしょう? その結果、しっかりと王妃としての職務をこなすことができたわけね」

「だったら、良いように思うけど……」


 リリーの結論は別に悪い事ではないように思う。

 結果として、私は成長することができたのだから……

 しかし、彼女が言いたいことはそこではなかった。


「成長することは良い事よ。でも、行動原理がまずかったのよ」

「行動原理?」


 私は首を傾げる。

 理解できないことはわかっていたのか、リリーはさらに話を続ける。


「メリッサがいなくても──いえ、メリッサに心配をかけないよう、自分だけでどうにかしようとした。メリッサに罪悪感があったからこそ、そうしようと思ったんでしょ?」

「それは……」


 リリーの言葉に私は言葉を詰まらせる。

 反論しようとした。

 しかし、それはできなかった。

 彼女の言っていることはよく考えれば、まさにその通りだったからである。

 それを私が自覚できていなかっただけである。


「それはクリス自身が頑張る分には問題はなかったわ。でも、今回のようにメリッサの関係者が現れれば、あの日から知らずに積みあがってきた罪悪感がクリスに襲い掛かることになる。自覚していない感情だからこそ、クリスは緊張したと思っていたのね」

「……どうすればいいの?」


 何が起こったのか、理解することはできた。

 しかし、どうすればいいのかわからなかった。

 だからこそ、素直に聞いたのだが……


「それは自分で考えなさい」

「っ!?」


 リリーは私を突き放した。

 私は驚きのあまり、目を見開いてしまう。

 そんな私に彼女はため息をつく。


「これはクリスとメリッサ──いえ、クリスハルト君の問題でしょ? 外野が口に出すことじゃないわ」

「助けるぐらいしてくれてもいいじゃない」


 私はどうにか助けてもらおうとすがる。

 しかし、リリーは冷ややかに反応する。


「ちなみに、問題はそれだけじゃないわ」

「え?」

「一番の原因は罪悪感だけど、もう一つ大きな問題があるわ。それは緊張で突発的な対応ができないところよ」

「っ!?」


 メリッサの指摘に私は驚く。

 まさかそんなことを言われるとは思わなかった。


「これからクリスハルト君と関わっていく以上、当分は緊張から逃れることができないでしょ。だったら、そんな状況でも今回のようにならないようにしないといけないわね」

「う、それは……」

「家族になるんだから、それぐらい克服しないといけないわよ。まあ、時間もいっぱいあるんだから、じっくりと頑張りなさい」

「……はい」


 リリーの言葉に私は力なく頷く。

 私にはこの問題を自分で解決するビジョンが見えなかった。


 そんな私の予想が当たってしまったのだろうか、結局クリスハルトとの仲が改善することはなかった。






原因は罪悪感と極度の緊張でした。

本心では全く思っていなくとも、緊張で変なことを言いがちですよね?

まあ、最初の時点ではそういう背景もわからないでしょうから、クリスティーナ様が非道な人間であるように見えることは仕方がない事でしょう。


作者の執筆のモチベーションに繋がりますので、読んでくださった方はぜひともブックマークと評価をお願いします。

勝手にランキングの方もよろしくお願いします。

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