クールな王妃は子供の幸せを願う
「あと、一つだけ提案があります」
「なんだ?」
「クリスハルト君の婚約者に娘のレベッカにするのはどうでしょうか?」
「ほう」
アレク様の提案に旦那様が少し驚いたような反応をする。
それは私も同様であった。
なぜなら、この提案は彼らしくないと思っていたからである。
「私がこんな提案をするとは思っていなかったですか?」
「ああ、そうだな。娘が大好きなアレクがわざわざそんなことを言うなんてな……明日は槍でも降るのか?」
旦那様の言い分は酷すぎる。
だが、おおむね私も賛成だったりする。
アレク様が家族のことを愛し、娘のことを溺愛していることは一部の高位貴族の中でも有名な話だからである。
そんな彼が娘を嫁にやる発言をしたのだから、驚いて当然だろう。
そんな私たちの反応にアレク様はため息をつく。
「確かに私は娘のことを溺愛している自覚はありますが、別に嫁にやりたくないと思っているわけではないですよ。レベッカが幸せであるなら、それで問題はないです」
「理屈ではそうだが、アレクの手元から離れるんだぞ? 悲しくないのか?」
「もちろん、悲しいですよ。ですが、クリスハルト君と結婚すれば、悲しみはそこまで大きくないでしょうよ」
「どういうことだ?」
アレク様の言葉に旦那様は首を傾げる。
意味が分からなかったのだろう。
それを理解したアレク様はさらに説明を続ける。
「クリスハルト君は王族になる──その彼と結婚するのだから、将来的には
王都から離れることは少なくなるでしょう? だから、あまり会えなくなる悲しみも無さそう、ということです」
「ああ、そういうことか」
旦那様が納得する。
遠く離れないのであれば、いつでも会いに行くことができるということだ。
たしかに、そう考えると寂しさは薄れるのかもしれない。
遠くに行くだけで会いにくくなり、二度と会うこともできないこともあるのだ。
それに比べれば、結婚による寂しさなんて大したことはないのかもしれない。
だが、ここで私は気になることがあった。
「一ついいかしら?」
「何でしょうか?」
「それはレベッカも了承している話なのかしら?」
私は心配事があった。
王族との結婚──貴族としてはこれほど名誉なことはないだろう。
しかし、それはあくまでも貴族としての考えを持っているであろう大人の常識である。
まだそういう教育を受けていない、または理解できていない子供にとっては話を理解することすら難しいのではないだろうか?
そんな状況下で無理矢理婚約者にするようなことになれば、レベッカを不幸にすることにつながると思ったのだ。
だが、そんな私の不安も杞憂ではあったらしい。
「これはレベッカの希望です」
「本当に?」
アレク様の言葉に私は思わず聞き返してしまう。
親という立場を利用して、子供に命令しているのではないだろうか?
まあ、彼に限ってそんなことはないと思うけど……
「一目惚れしたのよ」
「えっ!?」
リリーの言葉に私は驚いた。
予想外の内容だったからである。
それと同時にワクワクしている自分がいた。
「クリスハルト君を見つけた経緯は聞いたわね?」
「暴漢から助けたこと?」
「ええ、そうよ。でも、正確に言うなら、元々暴漢に襲われていたのはレベッカだったのよ」
「えっ!? 大丈夫だったの?」
リリーの説明に私は不安になる。
女の子にとって、かなり怖い出来事ではないだろうか?
「レベッカは無傷よ。クリスハルト君が助けに入ってくれたおかげでね」
「ああ、なるほど……それで一目惚れ、ね」
私は納得することができた。
いわば、レベッカにとってクリスハルト君は自分を助けに来てくれた王子様のように見えたわけだ。
恋に落ちてもおかしくはない。
「とりあえず、レベッカはクリスハルト君にガンガン攻めているわ」
「……クリスハルト君は怪我人よね?」
「ええ、そうね」
「すぐにやめさせなさいっ!」
あっさりというリリーに対して思わず命令してしまう。
この母親は何をしているのだろうか?
別に娘の恋を応援するのは構わないが、怪我人を相手に無茶をさせるのはどうかと思う。
しかし、そんな私の言葉もリリーには響かない。
「安心なさい。無茶なことはさせてないわ」
「……本当に?」
「とりあえず、怪我の治療で動けないクリスハルト君の看病をしているわ」
「……それぐらいならいいのかしら?」
少し不安に思いながらも私は納得する。
看病ならば、流石に無茶をすることはないだろう。
「それでどうでしょうか?」
「まあ、断る理由はないな。レベッカと結婚することでクリスハルトの後ろ盾ができるわけだから、王族になったとしても安心だ」
アレク様の言葉に旦那様も頷く。
この話を断る理由はないからである。
この婚約の話はレベッカの一目惚れを成就させたいだけの話ではない。
クリスハルト君が王族になった際に降りかかる悪意から守ることも目的となっている。
王族だけでなく、ムーンライト公爵家を敵に回してまで彼を批判する者はあまり出てこないだろう。
正確に言うと、私の実家のフォンティーヌ公爵家とリリーの実家のグラモラス公爵家も敵に回すことになる。
……かなりの戦力な気がする。
「さて、それよりもう一つ気になることがあるわ」
「?」
婚約の話が終わったと思ったら、リリーがそんなことを言いだした。
一体、どうしたのだろうか?
というか、なぜか視線がこっちに向いているのだが……
「クリス、大丈夫なの?」
「何がかしら?」
リリーが何を心配しているのかわからなかった。
私は思わず首を傾げてしまう。
「クリスハルト君に緊張せずに会える?」
「本当に何を心配してるのっ!?」
予想外の心配に私は驚いてしまう。
だが、リリーは至って真剣な表情で私を見ていた。
「クリスハルト君はメリッサの子よ?」
「それぐらいわかっているわ」
「平常心で会うことができるの?」
「……」
リリーが何を心配しているのかを理解することができた。
私とメリッサはいろいろあって別れてしまった。
もちろん、私もメリッサもお互いのことを嫌いになったり、恨んだりはしていないはずだ。
だが、それでも問題があったことには変わりない。
しかも、その象徴的な存在が現れるのだ。
平常心である方が難しいかもしれない。
「大丈夫よ。メリッサがいないのなら、クリスハルト君は私が守らないといけないのよ。平常心ぐらい保てるわ」
私は自信満々に宣言した。
メリッサのこともであるなら、私にとっても子供同然の存在である。
それなのに、どうして緊張することがあるだろうか?
だからこそ、私は自信満々に答えることができたのだ。
「……」
だが、そんな私をリリーは不安そうに見ていた。
自信満々に答えた私はまったくその視線に気づいていなかった。
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