クールな王妃は裏切られる 2
「……」
メリッサから衝撃の事実を告げられた私は黙ってしまった。
信じられない出来事が起きたのだから、当然の反応であろう。
そんな私にメリッサとメイド長が口を開く。
「私はとんでもないことをしてしまいました。だからこそ、いかなる罰も甘んじて受けるつもりです」
「メリッサの失態は私の監督不行き届きでもあります。私も罰を受けますので、どうかメリッサの命だけは……」
二人は罪を認め、罰を受け入れるつもりだったようだ。
まあ、状況だけ見れば、罰を与えられるには十分だからである。
しかし、私はそうしなかった。
「まだ話していないことがあるでしょう?」
「はい?」
私の言葉にメイド長は呆けた表情を浮かべる。
その表情から彼女が何も知らないことを理解することはできた。
「……」
「やっぱりあるのね?」
対してメリッサは黙ってしまった。
その反応から彼女がまだ何か隠していることがわかった。
そして、私に隠すことはできないと悟ったのだろう、メリッサはゆっくりと口を開いた。
「王太子殿下は精神的にかなり消耗されていました」
「ええ、そうね。私もメリッサの提案があったから精神的に落ち着くことができたけど、彼はまだそういうことができなかった。だからこそ、お酒を過剰に飲んでいた」
メリッサの言葉に私は頷く。
それは私も把握していたことだ。
彼女がここで言うということは、それが関係している内容なのだろう。
「酷い泥酔状態、精神的な消耗。そして、似たような背丈とアクセサリー──これらの条件により、王太子殿下は私をクリス様と勘違いされたようです」
「……それは事実なの?」
メリッサの説明に私は少し考えてから聞き返す。
すぐに信じられない内容ではある。
しかし、一概に否定することはできない。
彼女がそこまではっきりと言うということは、何か明確な証拠があるということである。
「王太子殿下はクリス様の名前を呼ばれていました。泥酔状態で部分的にしか認識出来ない状態であったため、そのままクリス様と思いこんだようです」
「……そう」
「いくら男性が相手とはいえ、泥酔状態であれば無理矢理引きはがすことはできたはずです。しかし、私はそれができなかった」
「……それにも理由があるんじゃないの?」
苦しげなメリッサを見て、私は聞くしかなかった。
それがつらい選択であってもだ。
「あの状況で私が拒否をしてしまえば、王太子殿下にとって大変なことになる可能性があったからです」
「どういうことになるのかしら?」
「可能性としては二つあります。一つ目はクリス様と間違えて私とことに及ぼうとしたことに気づいた場合です。未遂とはいえ裏切ったと思ってしまえば、消耗した王太子殿下にとってはさらに精神的に追い詰めることになるでしょう」
「……そうね」
メリッサの言っていることは理解できた。
たしかにそうなる可能性はある。
しかし、まだほかにもあるようだ。
「二つ目は拒否された状態でクリス様と勘違いしたままの場合です。泥酔状態とはいえクリス様と事に及ぼうとした状態なのに拒否をされた──そう思うことは王太子殿下にとって精神的なダメージになるはずです。それが今後の二人の夫婦生活にとって、大きなダメージになる可能性があると考えました」
「……」
私は何も言うことができなかった。
メリッサは王太子殿下だけではなく、私のことまで考えてくれていたようだ。
これは彼女がいろいろと物事を考えることができたからこそ、そういう行動をとってしまったのだ。
普通なら、そんなことも考えずに行動をしていただろう。
しかし、彼女はいろいろと考えることができたから、私を裏切るとわかっていたとしてもその行動を取ることしかできなかったわけだ。
そのことについて、私は申し訳ない気持ちになってしまった。
彼女にそんな選択をさせてしまうほど、私達は仲良くなってしまったのだ。
「このような理由があるとはいえ、私が裏切ったという事実は変わりません。だからこそ、罰を与えてください」
「……私にそんなことができると思う?」
メリッサの言葉に私は質問する。
そんな私の質問に彼女は一瞬驚いたような表情をする。
そして、すぐに悲しげな表情で小さく笑みを浮かべる。
「私の知る限り、クリス様はできないでしょうね」
「なら、今回の件は聞かなかったことにしましょう。私たちの心の中だけに留めておけば、この事件は起こらなかったことに……」
「それは無理ですよ」
「っ!?」
メリッサの否定の言葉に私は何も言えなくなってしまう。
どうにかしてメリッサが私のそばにいてくれるようにいろいろと考えていた。
しかし、それを当の本人に拒否されてしまったのだ。
「たしかに、当人の心の仲だけに留めておけば、それ以外の人にとって事件はなかったことになるでしょう。当人たちだって気にしないようにするのならば、事件をなかったように振舞うことができるでしょう」
「だったら──」
「私がそんなことをできると思いますか?」
「っ!?」
メリッサの悲しげな笑みに私は何も言えなくなった。
彼女の言う通りであった。
彼女のことを知っているからこそ、彼女の言っていることが間違いではないと気付いてしまったのだ。
「私にとってクリス様は友人であり、恩人でもあります。今回裏切ってしまうことになったとしても、その事実は変わることはありません」
「……」
「そんな方を裏切った行動をして、どうしてそのままそばにいることができると思いますか?」
「……そうね」
メリッサの説明に私は納得することしかできなかった。
学生時代からメリッサに口で勝ったことは一度もなかった。
今回も彼女の言うことを否定することができなかった。
だが、私にできることはまだある。
「……わかったわ。貴女達に罰を与えるわ」
「「はい」」
私の言葉に二人は頷く。
もうすでに罰を受ける覚悟はできているのだ。
命を絶つことすら厭わないのかもしれない。
そんな彼女たちに私が告げたのは……
「二人とも解雇するわ。二度と城の──いえ、王都の地を踏めないことを覚悟しなさい」
「「は?」」
私の言葉に二人は呆けた声を漏らす。
その反応の意味は理解できる。
あまりにも罪が軽すぎると思ったのだろう。
死をも覚悟していたのだから、そう思うのは仕方がない事だろう。
だが、私にだってこうする理由はある。
「あら、不服かしら?」
「はい。クリス様を裏切ったにしてはあまりにも罰が軽すぎます。自殺するように命令されてもおかしくはなかったはずです」
「……メリッサも私のことを理解できていなかったんじゃない? 私がそんなことをできると思う?」
「っ!?」
先ほどメリッサに言われた言葉を私はそのまま返した。
たしかに彼女は私を裏切ったかもしれない。
だが、最後まで彼女は私のことを考えて行動をしてくれたのだ。
「私にとってもメリッサは友達であり、恩人でもあるわ。そんな貴女の命を奪うなんて、私にはできないわ」
「……ありがとうございます」
「感謝の言葉なんておかしな娘ね。私は貴女を王都から追い出そうとしているんだから」
「……ありがとう、ございます」
彼女は涙を流しながら、顔を手で覆った。
そんな彼女を優しく抱きしめた。
私の目からも何か温かいものが流れるのを感じた。
この日、私は大事な友人を失ってしまった。
※裏切りの事実は変わりません。
しかし、何らかの事情があれば、情状酌量するぐらいはしても良いと思っています。
というわけで、極刑ではなく追放になっています。
これもクリスティーナが友人を大事にする優しい性格だからです。
ちなみに、他の性格も裏事情に関わってきます。
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