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クールな王妃はストレスが溜まっている


 妃殿下から与えられた課題をこなし、私はメリッサと学院で過ごす許可を得た。

 といっても、すぐにできるようになったわけではない。

 詳しい内容は恥ずかしくて言えないが、私にとってはかなりの難易度であったことだけは理解してほしい。

 そのせいで課題をこなすのに2か月もかかってしまった。

 そのことにリリーや妃殿下に呆れた表情をされてしまった。

 メリッサも私のことを慰めつつも、どこか苦笑いをした表情をしていた。

 少しショックであった。

 しかし、そのおかげで学院生活もストレスが溜まらない時間ができた。


 楽しく過ごせる時間が増えたおかげか、学院生活はあっという間に二年の月日が過ぎ、私達も卒業する日を迎えた。

 卒業式の後のパーティーでは同級生や後輩たちから別れを惜しみながら話しかけられた。

 入学当初の私では考えられない光景であった。

 王太子殿下と話をすることで人との付き合い方を覚え、メリッサと過ごすことでストレスを緩和することができた。

 そのおかげもあってか、他の生徒たちが話しかけやすい雰囲気になったそうだ。

 これはリリーの話である。

 私自身は変わった自覚はないのだが、周囲からすれば話しかけやすくなったようだ。


 メリッサの方もかなりの人気だったようだ。

 彼女は結局、最後まで学年首席の座を譲らなかった。

 そのことが平民や下級貴族からは尊敬の的に、上位貴族からは称賛の対象となっていた。

 前者からは別れを惜しむように話しかけられ、後者からは自身の家へのスカウトをされていた。

 それは使用人として働く提案から、正妻として迎え入れる話まであったらしい。

 もちろん、メリッサはあっさりと断った。

 私のそばにいるため、王宮でメイドになるためだ。

 私とメリッサの仲は学院でも知らぬ者がいないほど有名になっていたため、そう言われれば諦めざるを得なかった。

 万が一のことがあったときのため、一か八かで提案しただけだったようだ。


 卒業後、私と王太子殿下は結婚した。

 この国の王太子と公爵令嬢の結婚ということで、国中──いや、周辺諸国にもしっかりと知らせるため、盛大に式が行われた。

 その式での私たちの仲睦まじい光景は一気に噂となり、学生時代の話と合わせて物語が発売されたほどだった。

 私達は理想の夫婦として、国民の憧れとなっていた。


 しかし、それは最初だけであった。

 2年も経った頃、私達はとある問題に直面していた。

 子供ができないことである。

 夫婦仲は決して悪くはない。

 いや、むしろかなり良い方だろう。

 きちんと子供ができるような行為もしているし、できないようになる可能性を低くするためにいろんなことをしていた。

 だが、そんな努力もむなしく、この二年で私の中に新たな命が宿ることはなかった。

 国民たちはその事実を知らない。

 いまだに私たちのことを理想の夫婦だと憧れてくれていた。

 しかし、城で働くような貴族たちは違っていた。

 王侯貴族が跡継ぎが産まれないことの問題について理解しているからこそ、今後の国の運営について不安に感じているようだった。

 その不安が私たちの悪評へと繋がった。


・もしかして、夫婦仲が悪いんじゃないのだろうか?

・夫婦の営みをやっていないんじゃないのか?

・どちらか──どちらも子供を宿す機能がないのではないだろうか?


 いつの間にか、そんな噂が城の中に流れていた。

 もちろん、私や王太子殿下に面と向かってそんなことを言う者はいない。

 不敬であることに他ならないからだ。

 だが、私たちに聞こえないところで話していたとしても、本人たちの耳に入ることもあるのだ。

 3つ目の噂を聞いた時、私はショックを受けてしまった。

 1つ目、2つ目は私自身が否定することができるが、3つ目については完全に否定することはできないからだ。

 もしかして、私のせいで子供ができないのか──そんな不安が頭をよぎったからである。


 陛下や妃殿下は私たちに子供ができないことを残念そうにしつつも、授かりものだからと焦らないように慰めてくれた。

 その優しさが逆につらかった。


 王太子殿下も私のことを責めることなく、慰めてくれた。

 しかし、そんな彼は日に日にやつれていった。

 彼の周囲には私たちの事情などを意に介さず、心無い言葉を言う人間がいるようだった。

 そんな人間の言葉に心をすり減らし、そのストレスで酒を飲む量が増えていったそうだ。

 元々は嗜む程度に飲んでいた。 

 しかし、今ではストレスを発散するために酒を飲んでいるようだった。

 もちろん、夫婦の営みを行う日には飲んではいない。

 だが、それ以外の日には翌日に二日酔いになるほど飲んでしまっているらしい。

 そのことも私は心配していた。

 ストレスで王太子殿下が体を壊してしまわないか、と。


「クリス様、大丈夫ですか?」

「え? ええ、大丈夫よ」


 自室でメリッサが私に声をかける。

 その表情には心配そうな気持ちが表れており、本心からそう思っていることが分かった。

 私は彼女に心配をかけないように答えた。

 しかし、それはあまり意味はなかった。


「私に嘘は止めてください。周囲の人たちは気付いていないようですが、少しずつ体調を崩していることは私にはわかります」

「……そうね。メリッサに隠し事はできないわね」


 私は諦めたように両手を上げた。

 彼女はずっと近くにいるのだ。

 私より私の体調のことに詳しい。


「あまり思いつめないでください。クリス様が体調を崩されれば、私を含め悲しむ人がたくさんいますから」

「わかっているわ。メリッサを悲しませないように頑張らないと、ね」

「いえ、その頑張りが……あっ」

「どうしたの?」


 何か言おうとしたメリッサが突然大きな声を出してしまう。

 彼女らしからぬ反応に私は首を傾げた。

 そんな私に彼女は告げた。


「頑張らない日を作りましょう」

「頑張らない日?」


 彼女の言っていることの意味が分からず、私はさらに首を傾げた。

 そんな私に彼女は説明をする。


「クリス様は毎日城で過ごされ、かなりのストレスが溜まっているはずです。それを発散させるための日を作ろうという提案です」

「……休日はあると思うけど?」


 メリッサの説明を聞き、私は反論した。

 実際に休日はあるのだ。

 それとは違うのだろうか、と。


「たしかに休日はありますが、実質あってないようなものでしょう? ずっと城の中にいるのですから、自ずと王太子妃として行動していらっしゃいます。それがストレスの原因でしょう」

「む……」


 メリッサの指摘に私は反論できなかった。

 たしかに、私は休日であっても王太子妃である。

 いや、休日かどうかで変わるものではないが、たしかに王太子妃として恥ずかしくないように行動している節はあった。

 もしかすると、それで疲れているのかもしれない。


「というわけで、クリス様はただの「クリスティーナ」として休日を過ごすべきだと思います。そしたら、ストレスも発散されるでしょう」

「なるほどね」

「お忍びで城下町に出るのはどうでしょうか? 私たちが学生の時から──2年も経てば、だいぶ変わっているはずですよ」


 メリッサは楽しそうに提案してくれた。

 彼女のそんな表情に楽しそうだと思った。

 しかし、同時に不安もあった。


「でも、旦那様もストレスが溜まっているのに、私だけそんなことをしていいのかしら?」

「クリス様もストレスを発散させないといけないのですから……むしろ、しないといけないですよ」

「そ、そうかしら?」


 メリッサの押しの強い言葉に私は若干引いてしまう。

 彼女は時折グイグイと来ることがある。

 私のことを思ってのことではあるが、温度差を感じてしまう。


「王太子殿下にも同じようにストレス発散する日を作ればいいでしょう? だったら、平等になるはずです」

「……まあ、それなら。あっ、だったら、一緒に城下に出かけるのも良いわね」

「デートも良いですが、とりあえずクリス様は王太子妃としての役割から離れてください。王太子殿下といれば、そうやって振舞うでしょう?」

「うっ」


 メリッサの指摘に私は言葉を詰まらせた。

 たしかに私は王太子殿下の前では、彼の隣に立つのにふさわしいように振舞おうとしている。

 それがストレスの原因であるのなら、一緒に出掛けるのは避けた方が良いだろう。


「もちろん、夫婦で出かけることも大事です。ですが、今はクリス様のストレスを発散させることが大事ですから、デートは後にしてください」

「……わかったわ。でも、許してもらえるかしら?」

「大丈夫でしょう。王太子殿下も陛下も妃殿下もクリス様のことを大事にされていますから、この提案は受け入れられるはずです」

「……なら、良いけど」


 メリッサの言葉に私は少し考えてから納得する。

 たしかに、その3人が私の提案を否定する姿を想像できない。

 まあ、あくまでも普通のことを提案していることを前提だが……


「クリス様と久しぶりにお出かけですね。どこに行きましょうか?」

「メリッサも来るの?」

「当たり前じゃないですか。城下町と言えどもクリス様一人で出かけさせるわけにもいきませんし、クリス様だけではどこに行けばいいかわからないでしょう?」

「……」


 メリッサの指摘に私は何も言えなかった。

 もちろん、一緒に出掛けることに対して嫌なわけではない。

 そして、自身が一人で城下町を歩きまわれば、迷ってしまう可能性が高い事もわかってしまった。

 普段は馬車で移動しているため、実際にそこを歩いたことはないのだ。


「楽しみましょうね、クリス様」

「ええ、そうね」


 メリッサの笑顔に私も笑みを浮かべ、答えた。

 彼女が私のために考えてくれた提案──そう思うと、自然と疲れが取れたように感じた。

 やはり、友達と言うのは大事だと思ってしまった。


 しかし、これがのちにとんでもない事件を引き起こすことになってしまった。

 そのことを当時の私は気付くことはなかった。






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