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クールな王妃は母が強い事を知る


「な、なんでっ!?」

「当たり前でしょう? クリスの今までで一番の問題は何なの?」

「え? えっと……人と話していなかったこと?」


 リリーの質問に私は答える。

 今回の件でそれが如実にわかった。

 人と話してこなかったからこそ私を陥れようとした嘘を誰もが信じてしまいそうになったし、メリッサやリリーと話すようになったからこそ窮地から脱することができた。

 人と話すことがいかに大事かを理解することができた。


「その通りよ。というわけで、貴女の目下やるべきことは王太子様と愛を育むべきことよ」

「そ、それはわかったけど……いきなりそんなことを言われても……」

「何を弱腰になってるのよ。今までも自分が王太子妃になるつもりで頑張ってきたでしょ?」


 私の反応に呆れたような表情を浮かべるリリー。

 だが、私にだって理由はあるのだ。


「……ない」

「はい?」

「何を話していいのか、わからない」


 私は理由を口にする。

 これは本心からの言葉である。

 そして、そんな私の本心を聞いたリリーの反応は……


「さて、メリッサ。早速今日から修業を始めましょうか」

「ちょっ、待ってよ」


 あっさりと見捨てようとした。

 酷くないかしら?

 これでもこっちは友達だと思っていたんだけど?


「何を今さらそんなことを言ってるのよ」

「だって、今までほとんど話してこなかったのよ? 今さらどんな話をすればいいのよ」

「そんなこと知らないわよ。こうなったのも今までのクリスの行動が原因でしょう?」

「うぐ……そうなんだけど……」


 リリーの指摘に私は反論できなかった。

 たしかにこの状況は私のせいで起きたことである。

 それ自体は認める。

 そして、自分自身で解決すべきことであることも認めよう。

 しかし、自分だけでは対処できないことも世の中にはあるのだ。


「ねえ、リリー」

「何よ」

「私たちの間に入ってくれない? 間にリリーがいたら、会話が弾むと思うの」

「メリッサ、うちで働かないかしら? 王宮よりも好待遇で迎え入れるわよ」

「ああっ、メリッサを引き抜かないでっ!」


 リリーのとんでもない提案に私は慌ててしまう。

 見捨てられた上にメリッサを奪われてしまったら、私には何も残らないではないか。

 そんな私を見て、リリーは呆れたようにため息をつく。


「はぁ……なんで将来の夫婦の語らいの場に部外者が間にいないといけないのよ」

「……友達でしょ?」

「友達も夫婦の間では部外者よ。おかしな光景だと思わないの?」

「……それはそう思うけど」


 おかしなことであることは認めよう。

 しかし、そんなおかしな状況に頼らないといけないほど、私の対人スキルは絶望的過ぎるのだ。

 リリーだったら、そのことを理解してくれると思っていたが……


「そもそも貴女のそれ(対人スキル)を直すためにやることなのよ、これは」

「荒療治すぎないかしら?」

「荒療治でもやらないといけないのよ。というか、そうしないといけないほど貴女はやばいのよ」

「酷いっ! 普通、そこまで言う?」

「そこまで言うほど酷いのよ、もう」


 私の反応にリリーは本気で呆れていた。

 というか、そんなに酷かったのか。

 自覚していたつもりが、想像以上にヤバかったようだ。


「とりあえず、貴女がやるべきことは最低限王太子様と仲良く話はできるようになることよ」

「王太子様だけでいいの?」

「……陛下や妃殿下とも話すようにする?」

「無理ね」

「諦めが早いわよ」


 私があっさり諦めると、リリーは思わずツッコみを入れる。

 早いのは認めよう。

 しかし、それは自分のことを理解できているからこその反応なのだ。

 そこは評価してほしい。


「安心なさい。妃殿下にはすでに貴女のことは話しているわ」

「えっ!? 何を?」

「人付き合いは苦手だけど、それ以外の部分は優秀な公爵令嬢であることよ。ついでに、王太子様(息子さん)のことを一番愛している、とね」

「ちょ、何を言って……」

「ちなみに後半については「ふふっ、それは楽しみね。どうやっていびってあげましょうか?」と冷たい笑みを浮かべながら言っていたわ」

「いやっ!?」


 リリーから衝撃の事実を告げられ、私は頭を抱える。

 まさか、いきなりそんなハードモードになっているとは思っていなかった。

 妃殿下にとって私は大事な息子を奪う泥棒猫のようなものではないか。

 そんな人に対して煽るようなことをしてしまったのだから、評価はとんでもなく下がっていることに違いない。

 本気で逃げようかしら──そんな思考が頭をよぎった。


「安心なさい、ほとんど冗談だから」

「本当に?」

「もちろんよ。貴女のことについては妃殿下もきちんと調べていたようだから、かなり心配していたのよ」

「え? なんで?」

「当たり前じゃない。貴女は妃殿下にとって【大事な一人息子の婚約者候補】の一人よ? その人となりを調べるのは当然じゃない。私だって調べられていたしね」

「そうなのっ!?」


 いきなりの暴露に驚く。

 まさかそんなことをされていたなんて全く思ってもみなかった。

 しかし、当然と言えば当然かもしれない。

 将来の国母になる以上は下手な令嬢に残ってもらっては困るのだから。


「妃殿下としては貴女が一番のお気に入りだったみたいよ」

「そうなの? てっきり、リリーが一番だと思っていたんだけど……」


 リリーの言葉に私は聞き返す。

 リリーは人当たりも良いし、ずっと前から妃殿下と会っていたようだ。

 ならば、一番人気になってもおかしくはないと思うが……


「妃殿下には前からアレク様のことが好きだと伝えていたわ。応援してくれていたわ」

「そうなの?」

「ええ。その上で婚約者候補として残るように言われたわ。クリスを成長させるためにね」

「私のため? どういうこと?」

「人が成長するために必要なことは何だと思う?」

「努力?」


 クリスの質問に私は答える。

 私が今まで成長してきたのはその一言に尽きるからだ。

 むろん、「才能」という答えもあるだろう。

 だが、私はその言葉が「努力」を否定するような気がして、あまり好きではなかった。


「それもあるだろうけど、一番は「ライバル」よ」

「ライバル?」

「言い換えるなら、切磋琢磨しあえる同等の敵、ってところね。そういう存在がいるといないとでは、大分成長が変わってくるみたいよ」

「……なるほど」


 リリーの説明に私は納得する。

 たしかに私はリリーに負けないようにいろいろと頑張ってきた気がする。

 人付き合いが苦手だからこそ、それ以外の部分で負けないように、と。


「つまり、妃殿下の中では最初からクリスが王太子妃にふさわしいと決めていたのよ。だからこそ、悪い噂が流れたとしても婚約者候補から外れなかったわけ」

「……リリーがいろいろと手をまわしてくれていたからじゃないの?」

「私は別に何もしていないわ。まあ、妃殿下にクリスのことを気にするようには言われたけどね」

「……そう」


 本当に妃殿下の掌の上だったようだ。

 正直、彼女と同じようになれるとは思わない。

 現状でここまでの差を見せつけられたら、追いつけるとは到底思えないのだ。

 今までもかなり努力してきたのに、あとどれほど努力すればいいのだろうか?


「とりあえず、妃殿下に恩を返すために一度礼をしておきなさい」

「……わかったわ」

「ついでに、妃殿下と仲良く話すことができるように頑張りなさい」

「やること増えたっ!?」


 リリーに課題を増やされた。

 私は驚愕してしまった。

 そして、涙目でメリッサの方に助けを求める。


「メリッサ、助けて」

「クリス様、頑張ってください」

「ええっ!?」

「私も頑張りますので。将来のために頑張りましょう」

「うぅ……頑張る」


 メリッサも頑張るのなら、と私は努力を決意した。

 彼女が頑張るのに、私が頑張らないわけにはいかないのだ。






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