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クールな王妃は家族に愛されている


「聞いてないわよっ! なんでメリッサがリリーの家に……というか、修行って何よ」


 私は思わずリリーを問い詰める。

 本当に知らなかったのだ。

 どうしていきなりそんな話になったのか、まったく経緯もわからないのだ。

 聞きたくなって当然だろう。

 そんな私の疑問にリリーはあっさりと答えた。


「これはメリッサからの頼みよ」

「メリッサからの?」


 リリーの言葉に私はメリッサに視線を向ける。

 そこには少し申し訳なさそうな表情のメリッサがいた。


「どうしたの、メリッサ。修行とかはよく分からないけど、私じゃ駄目だったの?」


 メリッサに私は問いかけた。

 彼女がどうしてリリーに頼んだのかはわからない。

 しかし、リリーに頼むのであれば、私であってもよかったはずだ。

 同じ公爵家なのだから。

 疑問に思う私にメリッサは答えた。


「クリス様のそばにずっといるためです」

「私のそばに? どういうこと?」


 メリッサの言葉の意味が分からなかった。

 もちろん、私のそばにずっといてくれるという言葉は嬉しかった。

 しかし、そのためにどうしてリリーの家に行くのかが分からない。

 修行という言葉についても……


「クリス様は王太子妃となり、いずれは王妃になられる方です。子爵令嬢の私では共に一緒にいることは難しいでしょう」

「そんなことないわっ! 私達は友達なんだから、一緒にいようと思えば入れるはずよ」


 私は反論する。

 メリッサの言っていることももちろん理解している。

 一緒に過ごすにはあまりにも身分が違いすぎる、それが周囲からいらぬ反感を買うことにもつながるのだろう。

 だが、私はそれでもかまわなかった。

 初めてできた友達──メリッサと共に過ごすことができるのであれば、知らない人間からの評価などどうでもいいと思っていたのだ。

 私はそう思ったのだが、彼女は首を振った。


「国のことを考えないといけない王妃様が一子爵令嬢──まあ、私もいずれは結婚するでしょうから、どこかの貴族の夫人と仲良くするのは私に対する反感も多いでしょうが、クリス様に対する批判にも繋がります。私はクリス様に悪意を向けられて欲しくないのです」

「そんなことは気にしないわ。だって、私は今までそういう風に見られてきたんだから」


 メリッサの優しさは嬉しい。

 だからといって、彼女と離れたくはなかった。

 悪意を向けられることに慣れているのも事実である。

 王太子様の婚約者候補である以上、そういう反応をされることはよくあったからだ。


「……自信満々に言うことじゃないわよ」


 リリーが何か言っていた。

 しかし、私はそれをあえて無視した。

 今はメリッサの方が大事である。


「クリス様はもっと好かれるべき存在なのです。クールでかっこいい雰囲気が他者を寄りつけず、悪印象を持たれていました。しかし、王妃になる以上は国民に好かれるようにしないといけません」

「でも、そのためにメリッサと離れるなんて……」

「私は離れませんよ?」

「え?」

「え?」


 二人は驚いたような表情で向き合う。

 そして、お互い何とも言えない表情のまま時間だけが過ぎていった。

 そんな空気を壊してくれたのはリリーだった。

 呆れたような表情で口を開く。


「ああ、説明不足だったわね。メリッサはクリス付きのメイドになるため、うちで修業をするのよ」

「私付き?」


 まだ状況を呑み込めていないので、私は聞き返してしまう。

 普段の思考ができていればそんなことはないのだが、慌ててしまったせいか上手く頭の中が纏まらない。

 それがわかっているのか、リリーは説明を続ける。


「子爵令嬢のメリッサが王妃になるクリスと一緒にいるのが不自然にならないようにするためには王宮で働くことが一番でしょう? そして、長くいることができるのはクリス付きになることよね」

「ああ、そういうことね。でも、それでどうしてリリーの家で修業なんてするの? 私の家だって、問題はないと思うけど……」

「クリスって、メリッサのことになると馬鹿よね」

「なっ!?」


 いきなりの言葉に私は驚く。

 現状で思考が上手くまとまらなかったのは事実ではあるが、馬鹿と言われるのは心外である。

 思わず反論しようとするが、リリーに止められる。


「フォンティーヌ公爵家よりグラモラス公爵家で修業した方が良いのは私も同感よ」

「どうしてよ! 同じ公爵家なんだから、使用人の質もそんなに違いはないでしょう?」

「別にそんなことを理由に否定しているわけじゃないわよ。うちの使用人たちの室には自信があるけど、別にそっちの使用人たちを馬鹿にしているつもりはないわ」

「そうなの? じゃあ、どうして……」


 やはり話の行き先が分からない。

 どうしてメリッサは私ではなく、リリーを頼ったのだろうか……


「ここで問題です」

「何?」

「今まで友達のいなかった娘に初めての友達ができました。娘が嬉しそうにその友達を家に連れてきました。さて、両親や使用人たちはどうなるでしょう?」

「……喜ぶんじゃないかしら?」


 リリーの出した問題に私は答える。

 その答えに彼女は納得する。


「わかっているじゃない。親としては娘にいつまでも友達がいないことは心配することなのよ。それは使用人たちも一緒ね。仕えている令嬢に友達がいないのはとても可哀そうだと思っているはずよ」

「まあ、そうよね」

「そして、そんな娘が友達を連れてきたら、当然喜ぶでしょうね。そして、その友達がずっと娘のそばにいてくれるように良い印象を与えようとするわ」

「当然でしょう」


 リリーの説明に納得しつつも私は首を傾げる。

 一体、何を言いたいのだろうか?


「ちなみに、これはクリスの家にメリッサを連れて行った場合に起こるであろう出来事よ」

「はいっ!?」


 リリーからの突然の言葉に私は驚く。

 今まで私と関係のない話だと思っていたら、まさかの私のことであった。

 驚きもするだろう。


「クリスは別に家族と仲が悪いわけじゃないでしょう?」

「……そうね。仲が良い方だと思うわ」

「使用人とも良い関係でしょう?」

「……小さいころから可愛がってもらっていたと思うわ」


 リリーの質問に私は答える。

 答えながら、徐々にリリーの言っていることが正しいと思い始めていた。


「つまり、クリスがメリッサを連れて帰った時点で、フォンティーヌ公爵家全体がメリッサを甘やかそうとすることになるわ」

「……」

「その結果、メリッサは修業ができなくなるわ」

「……否定できないわね」


 リリーの言い分は残念なことに否定することはできなかった。

 たしかに彼女の言う通りのことになりそうだった。

 それはメリッサの望むところではないだろう。

 私だって、メリッサの望みをかなえてあげたかった。


「というわけで、おそらく同等の教育ができるであろううちで修業をしようというわけよ」

「……つまり、毎日グラモラス公爵家に行かないといけないわけね」

「それは認めないわ。修行中は休みの日以外は合うことを禁止するわ」

「そんなっ!? メリッサと会えない間、私は何をしていればいいの」


 無慈悲な言葉に思わず絶望的な声を漏らす。

 頭を抱える私を見て、リリーはため息をつく。


「クリスにだってやるべきことはあるでしょう」

「……何を?」

「王太子様と愛を育みなさい。今までできてなかった分を補うためね」

「ええっ!?」


 先ほどよりも驚きの声を出してしまった。






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