クールな王妃は文句を言う
それから月日が経ち、学年末になった。
一年も経たない間に学院内でも私の評判は酷いものとなっていた。
リリーの言った通り、あの侯爵令嬢が私の悪い噂を流しているせいだろう。
正確に言うと、私が言い返さないこととリリーがわざと止めていないことで調子乗って広めてしまっているためではあるが……
しかし、ここまで思い通りに行くとは思っていなかった。
こういう点でもリリーは私よりも優れていると言ってもいいだろう。
学力だけでは測れない頭の良さ、といったところだろうか?
知識だけなら私の方が上かもしれないが、それを使った──いや、それ以外のものを合わせて実際の場面で使う状況であれば、リリーの方が上ということだ。
本当にリリーが恋のライバルでなくてよかった。
本気で戦ったのであれば、敗色濃厚だった。
そして、運命の日がやってきた。
学年末のパーティーである。
正確に言うと、卒業生のためのパーティーではあるが、卒業生と関わりのある在校生たちも参加することがあるのだ。
それは高位貴族であるほど多い。
といっても、私は本来知り合いなどいないので、参加するつもりはなかった。
しかし、ここで私がいなければ、この一年の我慢が無駄になってしまうのだ。
作戦のためにわざわざ貶められに行くのはあまり気乗りのするものではなかったが、王太子の婚約者候補としての立場を盤石にするためにもいく必要があったのだ。
「あははっ、本当に思い通りにいったわね」
リリーは本気で面白そうに笑いながら、そんなことを言った。
パーティーから一週間後、フォンティーヌ公爵邸にやってきた彼女は一息ついた後、先ほどのセリフを言ったのだ。
ちなみにメリッサも同じ場所にいた。
公爵邸という場違いな場所にいると思っているのだろうか、少し不安そうな反応をしていた。
知らない場所に連れてこられた小動物にちょっと似ていて、庇護欲が私の中にあふれそうになってしまったほどだ。
まあ、今はそんなことは関係ないわね。
「笑い事じゃないわよ。まさかあんな大ごとになるとは思ってもいなかったわ」
私はリリーを睨みつけ、思わず文句を言った。
私はもっと簡単に済ませるものだと思っていた。
要は私が婚約者にふさわしい事、リリーが婚約者候補から外れること、侯爵令嬢が私を貶めようとしたこと──この三点を証明することが目的だったはずだ。
それだけであれば、そこまで大掛かりなことをしなくてもよかったはずだ。
しかし、事態は予想外に大きくなってしまった。
私はあまり興味がなかったため知らなかったことではあったが、王立学院の卒業パーティーは非常に大きな催しであった。
どの学年にも高位貴族の子息令嬢がいるため、それに関係のある子息令嬢たちも当然集まってくる。
しかも、今回はそれだけではなかった。
事前にリリーが侯爵令嬢に言っていたらしい。
「クリスティーナを陥れるのなら絶好の機会がある。学年末のパーティーで多くの生徒の前でその罪を暴けばいい」と。
それを本気に思ったのか、侯爵令嬢は大々的に言い触れ回ったのだ。
それが私の耳に入ることを考えていなかったのだろうか?
そんなことをすれば、わざわざ断罪されに行こうと普通は思わないだろう。
そういうところも私が評価した頭の足りなさにつながると思う。
まあ、私は普通に参加したわけだけど……
結果として、その学年末パーティーには例年以上に生徒たちが集まっていた。
聞いたところによると、2倍近くいたらしい。
卒業生と何ら関わりのない生徒たちすらも興味が惹かれたようだ。
そして、そんな衆人環視の中で侯爵令嬢は私を断罪しようとした。
私の悪事を暴き、私が王太子の婚約者候補にふさわしくないこと──ひいては、リリーこそが婚約者候補にふさわしいと宣ったのだ。
ここで自分の名前を出さないことは正しいと思った。
侯爵令嬢であることから、身分的に王太子の婚約者候補になってもおかしくはない。
だが、上の身分である公爵令嬢がいる状況で、自分の方がふさわしいというのは難しいわけだ。
その公爵令嬢である私を批判することも本来であれば難しいが、リリーを持ち出すことによって自分の身を守ろうとしたわけだ。
そういうところでは意外と頭が使えているわけだ。
騙されていることに気が付いていない時点で大した頭ではないが……
侯爵令嬢による私の罪状が終わると、王太子様が騒ぎの中心にやってきた。
周囲の視線が彼に集まってくる。
本来であれば、こんな注目をされずとも多くの視線が彼に向けられる筈であった。
だが、彼よりも私の断罪の方が面白いと思われたのか、その視線もこちらに向いてしまっていたのだ。
申し訳ないと思ってしまった。
そもそも主役の卒業生たちを差し置いてこんなことをしているので、それも申し訳ないと思ってしまった。
周囲の視線が集まった彼が口を開く。
そして、言葉を発そうとするが……
「待ってくださいっ!」
そこに乱入者が現れた。
メリッサである。
彼女の登場に周囲が驚いた。
当然、私も驚いていた。
彼女の登場はもっと後のはずだったからだ。
王太子様から言質を取ったうえで、彼女が証言をする予定だったのだ。
私は王太子を見る。
「っ!?」
口を開いた状態で固まってしまっていた。
いきなりの出来事にどうしていいのかわからなくなったのだろう。
さらに申し訳ない気持ちになってしまった。
「(プフッ)」
リリーの方に視線を向けると、彼女は口周りを手で押さえて笑いをこらえていた。
どうやら彼女の仕込みの様だ。
私にも知らせないで勝手に作戦を変更し、周囲が呆気に取られている様子を楽しんでいるのだ。
彼女と出会ってから数ヶ月が経つので、もう彼女の行動原理は大体わかっていた。
「何事もおもしろければいい」である。
彼女は自分が面白いと思ったことをやろうとすることが多いのだ。
人の行動の基準はその人ごとに決めればいいが、巻き込まれる方はたまったものではない。
もちろん、友人と言ってくれた私たちに害があるようなことをするとは思えなかったが……
それからメリッサは私のことを声高に褒めてくれた。
本人からしても首を傾げることはいくつかあったが、メリッサからすれば本当のことだったらしい。
それをリリーに相談して、嘘にならない程度に脚色したらしい。
そのおかげか、私は「恥ずかしがり屋ではあるが困っている人を助けずにはいられない人格者」という評価になってしまっていた。
間違いではないかもしれないが、そこまで持ち上げられるような人間ではないと私自身は思っていた。
恥ずかしくて、顔が熱くなるのを感じた。
「その女の言っていることは嘘よっ! だって、公爵令嬢の手先だからよっ!」
侯爵令嬢は矛先をメリッサに向けた。
どうやら自分が不利な状況に陥っていることを悟ったのだろう。
すぐにでも自分に優位に立つため、メリッサが私と繋がっていることを暴露しようとしたわけだ。
しかし、それが良くなかった。
私は普段からメリッサと過ごしていた。
当然、その姿はほとんどの生徒が見たことがあるはずだ。
もちろん、最初は権力を使って無理矢理従えているように見えたかもしれない。
しかし、よく見ると仲良く過ごしていることは理解できたはずだ。
そこで侯爵令嬢の言葉に矛盾が生じる。
「手先」という部分ではない。
仲良くしている以上、身分的な問題で手先になることは否定できないだろう。
しかし、侯爵令嬢の言う私の罪状の中に「権力を使って身分が下の者達を虐げていた」というものがあった。
そんな公爵令嬢が子爵令嬢と仲良く過ごすであろうか、ほとんどの人間がそう考えた。
その結果、侯爵令嬢に向けられたのは懐疑の視線であった。
嘘をついているのはこっちだろう、と。
「くっ」
まずいと思ったのか、侯爵令嬢は逃げようとする。
しかし、一人の大男が彼女の右の手首をつかみ、逃げられなくする。
たしか王太子様の側近の一人である騎士団長の息子だったはずだ。
いくら手首だけとはいえ、大の男に捕まえらえた女性が逃げることなどできるはずがなかった。
捕まえられた侯爵令嬢に誰かがゆっくりと近づいていく。
リリーだった。
「多少のことなら黙っているつもりだったけど、流石に今回はやりすぎね。私、友達を傷つけられるのがとんでもなく嫌いなの」
「っ!?」
リリーの言葉に侯爵令嬢が驚いたような反応をした。
自分が今までとんでもない勘違いをしていたことに気づいたのだろう。
味方だと思っていたリリーがまさかの敵だったということに……
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