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クールな王妃は裏事情を知る


「でも、そんな私の恋も成就しそうにないの」

「……向こうにその気がないとか?」


 突然正常に戻ったリリーの言葉に私は理由を考えてみる。

 本人ではないので、正確な理由はわからない。

 だが、リリーからの求婚を断るとなると、完全にその気がない状態でないとおかしいはずだ。

 男としては、リリーのような女性から告白されれば、ほぼ確実に受け入れるだろう。

 しいて言うなら、「男色」か「美女が苦手」、「リリーがあまりにも優秀であるために劣等感がある」といったところだろうか?

 しかし、そんな私の考えを見抜いてか、リリーが否定をする。


「違うわよ。クリスのせいよ」

「私のせい?」


 私は首を傾げる。

 どうして私が理由でリリーの恋が成就しないのであろうか?

 もしかして──


「私──そのアレク様って人のこと、良く知らないのだけれど……」

「何を考えているのかはわかったけど、そういう意味じゃないからね? 少なくとも、アレク様はクリスのことを知っているかもしれないけど、恋心を抱くほど知ってもいないと思うわ」

「……まあ、そうね」


 あっさりと勘違いであることを告げられた。

 流石に私自身も本気にはしていなかった。

 外見だけを見れば、私のことを好きになってくれる人もいるかもしれない。

だが、私の噂を知れば、すぐにその考えを改めるであろう。

さらに私は王太子の婚約者候補なのだ。

 そんな女性に恋心を抱くのは時間の無駄というもので……


「クリスを王太子妃候補から引きずり降ろそうとする者達が私の元に集まりつつあるわ」

「えっ!?」


 リリーの言葉に私は驚く。

 だが、すぐにそれは当たり前であることに気が付く。

 私が王太子妃になり、次代の王妃になったと仮定した場合、得をする人間はあまりいない。

 正確に言うと、まったくいないわけではないのだが、私に関係するコネで得をする人間が極端に少なくなるのだ。

 それだけ私は人との交流をしていなかったのだ。

 だが、リリーの場合は違う。

 リリーが王太子妃になれば、彼女と親しくなっておくことで得をすることができるはずだと思う人間が多数いる。

 ならば、彼女を王太子妃に推そうとする派閥が現れ、対抗している私を蹴落とそうとするはずだ。

 その結果──


「気づいたようね」

「王太子妃になったせいで、アレク様と結ばれる可能性が〇になるというわけね?」

「そういうことよ」


 私が結論を告げると、リリーは頷いた。

 たしかに実際にあり得そうな話である。

 しかし、疑問がある。


「どうやって私を蹴落とすつもりなの? 自慢じゃないけど、社交が苦手なことと友達が少ない事、雰囲気が怖い事以外は問題点がないと思うけど……」

「本当に自慢じゃないわね。欠点は少ないかもしれないけど、次代の王妃となるにしては結構致命的な欠陥よ、それ」

「うぐ」

「まあ、蹴落とすには難しい問題点であることは認めるわ。でも、その3つの理由がすべて関係してくるわ」

「どういうこと?」


 リリーの言葉の意味が分からなかった。

 この3つの理由が関係してくるなんて、一体どんな理由で私を蹴落とそうとするのだろうか?

 全く想像がつかないのだが……


「要は「クリスが公爵令嬢として傍若無人に振舞っており、多大な迷惑を被った人間が多数いる。そんな人間が王太子の婚約者候補なんて相応しくない」と言うつもりよ」

「完全に事実無根ね。私は公爵令嬢として傍若無人に振舞ったことはないわ。人と関わることなんてほとんどないから、迷惑をかけることなんてないはずよ」

「本当に自慢にならないけど、それは事実でしょうね。でも、向こうからしたらそれは関係ないのよ」

「どういうこと?」

「「クリスが王太子の婚約者候補にふさわしくない」ということを印象付けたいだけなの。だからこそ、嘘か本当かは関係なく、事実であると周囲に思わせたいわけよ」

「何よそれ」


 リリーの説明に私は憤慨する。

 なんで私がそんなことをされないといけないのかしら。

 少なくとも、そんな風に嫌がらせをされるほど酷い事をしたつもりは私はない。

 なのに、どうして……


「メリッサを助けたときに侯爵令嬢と揉めたでしょう?」

「ん? ああ、たしかにそんなことがあったわね。でも、それがどうしたの?」


 リリーの言葉に私は聞き返す。

 メリッサと仲良くなったきっかけであるので、その出来事は覚えている。

 たしかに侯爵令嬢にお灸をすえた覚えはある。

 名前すら思い出せないけど……


「その侯爵令嬢がクリスの悪い噂を流しているわ」

「なっ!?」


 私は驚く。

 まさかそんなことをされているとは思っていなかった。

 そこまで恨まれているのか、とも思ってしまう。


「「脅されて酷いことをさせられた」とか「嫌がらせをされた」なんて噂を流しているわね。クリスが反論できないことをいいことにあることないこと──いえ、ないことだけを言いふらしているわね」

「……潰そうかしら、その侯爵家」


 私は無表情で小さく呟く。

 表情はないが、心は激しく燃えていた。

 怒りの炎で……


「クリス様、落ち着いて」


 そんな私の様子に気が付いたメリッサが抱きしめてくれる。

 彼女の柔らかさと良い匂いで気持ちが安らかになってくる。

 そんな私を見て、リリーが話を続ける。


「落ち着いたみたいだから、話を続けるわね」

「いいわよ」

「……きりっとしているところ悪いけど、とってもかっこ悪いわよ、その姿。下手したら、そういう趣味の女主人みたいな姿よ」

「メリッサとだったら、そう思われても良いわ」


 リリーの呆れた反応に私はあっさり答える。

 貴族の中にはそういう趣味の人間が少なからずいるが、あまり表立って言うことはない。

 貴族は跡継ぎを産んで家を続けることが大事とされている以上、そのように生産性のない趣味は好ましくないとされていた。

 だが、メリッサのことを私は本気で大事だと思っていた。

 そんな彼女と両思いに思われるのであれば、それでもいいと思うわけだ。


「とりあえず、クリスがその侯爵家に手を出すのは悪手よ。嘘が事実に変わってしまうことになるわ」

「……たしかにそうね」


 リリーの指摘に私は納得する。

 今までは侯爵令嬢の嘘の証言だけであったが、私が手を出してしまえば事実ができてしまう。

 しかも、その事実が他の嘘の証言を事実だと誤認させてしまうことにもなりかねない。

 それは私としてはあまり喜ばしい事ではない。


「まあ、その侯爵令嬢が頼ったのが私だったから、どうにかはできそうだけどね」

「そうなの?」

「現にこうやって一人でやってきたじゃない。私としてはクリスと協力したいと思っているのよ」

「そういうことね」


 リリーの言葉に納得する。

 たしかに彼女が私のことを嫌いであれば、その侯爵令嬢の言葉を事実であるかのように喧伝して、私を蹴落とせばいいのだ。

 だが、彼女は別に私のことは嫌いではないし、彼女自身の目的もある。

 だったら、私と協力した方が得なのだ。

 そして、私が王太子の婚約者候補から外れることは彼女にとって最悪なシナリオなのだ。


「でも、本当に良かったわ」

「何が?」


 リリーが安堵したように呟く。

 理由が分からず、私は質問する。


「クリスに初めての友達ができたからよ」

「……それの何が良かったのよ」

「証言者が増えるわ」

「……なんかそのために友達になった感じがするから、その言い方はやめて欲しいわ」


 事実なのかもしれないけれど、あまり言われたくない言い方である。

 少なくとも、私とメリッサはお互いに友達になりたかったからなっただけである。

 そこに利害の一致などはない。

 いや、お互いの友人になるという利害の一致はあるかもしれないが……


「もしクリスに友達がいなくとも、私が調べた情報で侯爵令嬢たちを追い詰めることはできるわ。でも、それで完全に周囲の信用を得られるわけじゃないの」

「……自分たちの都合のいいように情報を変えた、ということね?」

「そういうこと。そこで当事者のメリッサの登場よ」

「情報だけの事実ではなく、当事者の言葉で補完するわけね」


 リリーのしたいことは理解できた。

 しかし、私は若干心の迷いがあった。

 ちらりとメリッサを見てしまう。

 そんな私に彼女は笑顔で答えた。


「クリス様のためなら、きちんと証言しますよ」

「でも、それで他の人たちから目をつけられるかも……」

「そのときはクリス様が守ってくれるでしょう? だって、私達は友達なんですから」

「っ!? そうね」


 メリッサの言葉に私は思わず驚いてしまう。

 しかし、すぐにその言葉を肯定した。

 どうやらまだ信頼しきれていなかったのは私の方だったようだ。

 彼女はもうすでに私のことを信頼してくれているようだった。

 まさかこんなところで気づかされるなんて……






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