公爵令嬢は冷たい笑みを浮かべる
クール系美女には冷たい笑みが似合うと思っています。
ただクール系美女が真っ赤に照れる姿も好きです。
「そういえば、報告することがあります」
「何かしら?」
メイドの言葉に私は質問する。
もちろん、命令したのは私なのだから、内容についてはわかり切っている。
様式美である。
「クリスハルト殿下の協力者が判明しました」
「やはりいるわよね」
告げられた内容に私は呟く。
今回の件を考えているうちに一つの結論に辿り着いたのだ。
明らかに今回の一件、クリスハルト様一人でできることではない、と。
陛下の命令書を偽造することなどはクリスハルト様がいないとできないことである。
しかし、それ以外のことについては規模的な事を考えると、クリスハルト様一人でどうこうできることではない。
たとえクリスハルト様が天才だったとしても、だ。
「ジーク様です」
「あら?」
しかし、予想外の名前が私の耳に届く。
驚きが隠せなかった。
なぜなら……
「ジークはそんなことをするとは思ってなかったわね。真面目だけが取り柄なんだから」
私は思わずそんなことを呟いてしまった。
別に馬鹿にしているわけではない。
真面目であることは非常にいい事である。
信頼できる──といっても良いぐらいだ。
しかし、それも度が過ぎるとよろしくないことも事実ではある。
ジークは若干その気があったのだ。
そして、それがクリスハルト様とは合わなかった──そのはずだったのだが……
「といっても、協力したのは最後だけのようですが……」
「最後?」
「ハルシオン殿下に偽の命令書を渡したのはジーク様のようです」
「本当に意外ね」
告げられた真実に私は驚きを隠せない。
とても生真面目が売りのジークがすることとは思えないのだ。
仕える主君に偽物を渡す──裏切りと思われても仕方がないはずだ。
そんなことをジークがするとは思えないのだが……
「どうやらクリスハルト殿下は最後に真面目な姿を見せたようです」
「どういうことかしら?」
メイドの言葉に首を傾げる。
一体、何を言いたいのかしら?
「今までの【放蕩王子】としての姿なら、ジーク様も命令を聞く気も起きなかったでしょう。ですが、お嬢様の言う通り、クリスハルト殿下はこの国の未来のためを思って行動をしていた。そんな素晴らしい考えをした王子の命令を聞かない臣下はいるでしょうか?」
「……あまりにも駄目な案なら聞かないんじゃないかしら?」
メイドの言うことは理解できるが、だからといってすべて納得できるわけではない。
明らかにクリスハルト様が自分を犠牲にするやり方──真面目なジークが素直に協力するとは思えないが……
「だからこその【放蕩王子】だったのでは? 自身の評判を下げることで、この国での居場所を失くす──自分が消えた方が良いと判断してもらうために」
「流石にそんなことは……むぅ?」
否定しようとしたが、その材料が見つからない。
クリスハルト様ならあり得る──そうとすら思ってしまうのだ。
しかし、私が否定したとしても意味はない。
実際に起こってしまったことなのだから……
「とりあえず、これはジーク様に直接聞いたことですから、事実であることには変わりありませんよ」
「そこを否定するつもりはないわ。というか、よく聞きだすことができたわね」
私は素直に驚く。
このメイドはムーンライト公爵家に仕えてはいるが、貴族相手に同行できる力はない。
ジークも公爵家の人間である以上、このメイドが力業で聞きだすようなことができるとは思わないが……
しかし、予想外の内容を再び聞かされることになる。
「ジーク様は最近、荒れていましたから」
「はい?」
予想外の内容に私は呆けた声を出してしまう。
聞き間違いと思ってしまった。
しかし、現実は非常である。
「ここ数ヶ月、ジーク様は城下町の酒場に入りびたり、酒におぼれているようです」
「なんでそんな……いや、後悔しているからなんでしょうね」
私は意味が分からないかと思ったが、すぐに理解することができた。
どうやらジークも後悔しているようだ。
「ええ、そういうことです。命令があったからこそ協力したけど、結果として王族を一人追い出すことになってしまった。臣下としては、かなりショックだったんでしょう」
「それはわかるけど……クリスハルト様だったら、自分がいなくなる前にジークに任せようとしたんじゃないのかしら?」
私はクリスハルト様の性格を考え、そんなことを言う。
もちろん、あくまで希望の話である。
私の知っているクリスハルト様ならこんな行動をするだろう、という……
「そのようなことは言われたようですね。しかし、後悔の気持ちの方が強く、仕事が手につかないようです。そして、気晴らしに酒を飲み始め、そのまま溺れてしまったというわけです」
「……情けないわね。気持ちはわからないでもないけど」
ジークの現状に思わずきつい言葉を言ってしまう。
しかし、自分も人のことは言えないかもしれない。
あの事件以来、毎日のように悪夢にうなされることになっていたのだ。
彼を批判する権利はないのかもしれない。
「酒におぼれ、見た目が良いところの坊ちゃんということで暴漢から狙われ……」
「それ、危なくないかしら?」
「大丈夫だったようです。流石に公爵令息として厳しい教育を受けていますから、酔っていたとしても暴漢相手に後れを取るようなことはなかったようです」
「それはよかったわ」
ジークの無事を聞き、安心する。
いくらクリスハルト様が廃嫡するのに協力していたとしても、知り合いが危険な目にあうのは後味が悪い。
「ちなみに、その件と「第一王子は自分のせいで廃嫡された」という内容の発言のせいで周囲には誰も寄ってこないらしいです」
「なんで? いや、前者はわかるけど……」
「見たところ、良いところの坊ちゃんがそのようなことを言うとは思わないんでしょう? そもそも一国の王子を廃嫡させたと声高らかに言うのは不敬罪に問われるでしょう?」
「あ、そういうことね」
ようやく理解できた。
おそらくジークは自分のやってしまったことを後悔しているからこそ、口から出してしまったのだろう。
しかし、周囲からは悪い事をしたのを自慢しているようにしか聞こえない。
結果として、周囲から人がいなくなったわけだ。
良い事か悪い事かはわからないけど……
「というわけで、私は苦労せずにジーク様から話を聞くことができました」
「酔っているから、簡単に口を割ったのね」
「そういうことです。ついでにお酒を驕ってもらいました。平民の酒場でもいい酒は置いているものですね」
「……職務中に飲んだの?」
思わず私は睨みつける。
少なくとも彼女は職務中だったはずだ。
いくら酒場にいたとはいえ、職務中にお酒を飲むことは良くないと思うのだが……
損な私の視線を受け、メイドは視線を逸らす。
悪い事をしている自覚はあったようだ。
「とりあえず、いろいろと聞くことができました」
「……へぇ、どんなこと?」
私の声が冷たくなる。
職務中に酒を飲むような人間の何を信頼すればいいのだろうか?
そんな私の様子に焦ったのか、メイドは大きな声で答える。
「いや、結構重要なことです」
「ジークが協力したこと以上に?」
それ以上に重要なことがあるのだろうか?
クリスハルト様に協力した人間で一番高位の人間はジークだろう。
これより重要な情報があるとは思えないが……
「それはこちらのリストを見てから言ってください。ジーク様から聞き出した協力者の一覧です。まあ、あくまでも知っている範囲ですが……」
メイドから一枚の紙を渡される。
そこには様々な名前が書かれていた。
ズラッとその一覧を確認し、最後に書かれてある二人の名前を見つけた。
「これって……」
「ああ、その二人は一番協力していたようですね。本当に意外です」
私の言葉にメイドはあっけらかんと言う。
しかし、私はそんなあっさりとした反応ができなかった。
なぜなら、完全に予想外だったからである。
まさか、こんなところにいるとは思わなかった。
私は思わず笑みを浮かべてしまう。
もちろん、喜びではなく……
「(ビクッ)」
私の顔を見ていたメイドが驚き、震え始める。
一体、どうしたのだろうか?
そんなことをしている暇はないのに……
「いかなければいけないところができたわ。すぐに準備するわよ」
「は、はいっ!」
私の指示にメイドは慌てて行動を開始する。
あの調子なら、すぐにでも出発することができるだろう。
さて、私を騙してくれた人たちにはどんなお礼をしようかしら?
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