公爵令嬢は情報を聞く
メイドと執事はやっぱりなんでもできるキャラが好きです。
ドジっ娘メイドも捨てがたいですが……
セシリアさんと仲良くなってから、私はクリスハルト様を更生させるべく行動していった。
どれだけ面倒がられようとクリスハルト様に毎日話しかけた。
セシリアさんに協力してもらい、できる限りクリスハルト様から離れてもらった。
ハルシオン様にはクリスハルト様に会うたび煽ってもらい、競争心を引き出してもらおうとした。
しかし、結果として何の成果も上がらないまま2年の月日が経ってしまった。
そして、あの運命の日がやってきた。
私は失敗してしまったのだ。
半年前の出来事だというのに、いまだにあの時の光景を鮮明に思い出すことができる。
やはりそれほどまでにショックだったのだ。
一目惚れから始まったとはいえ、本気でクリスハルト様のことが好きだったのだ。
だからこそ、諦めることはできなかった。
(コンコン)
「入りなさい」
扉がノックされたので、私は答える
扉が開かれ、一人のメイドが入ってきた。
彼女は侯爵家に仕えるメイドである。
「おはようございます、お嬢様」
「帰ってきていたのね」
当たり前のように挨拶をする彼女に私はそんなことを言う。
実は彼女はとある事情でこの屋敷にいなかったのだ。
「ええ、昨晩遅くに帰ってまいりました」
「なら、今日ぐらいはゆっくり休んたら良いのに」
彼女の言葉に私は思わずそんなことを言ってしまう。
遠くから帰ってきた翌日から働かされるなんて、ムーンライト公爵家は使用人にとって黒い職場であると思われかねないからだ。
もちろん、そんなことはないはずだが……
「いえ、そういうわけにもいきません。お嬢様から与えられた仕事ですから、それが最優先です」
「まあ、貴女が言うならそれでいいけど……」
メイドの忠誠心が高すぎる。
少し怖くなってしまった。
まあ、今はそんなことを気にしている時ではない。
とりあえず、今やるべきことは……
「まずは着替えるわ。報告はその後ね」
「かしこまりました」
私の言葉にメイドは頷いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
着替えを終え、私は椅子に座る。
そして、メイドに声をかける。
「さて、報告を聞かせてもらいましょうか」
「はい、かしこまりました」
私の言葉にメイドは頭を下げる。
彼女はどこからか紙の束を取り出す。
一体どこにしまっていたのだろうか、まったくわからない。
子供のころから疑問に思っており、何度か質問をしたことがある。
だが、いつもはぐらかされる。
「メイドの秘密です」と言われた時には思わずクビにしようかと思ってしまったほど苛ついてしまった。
まあ、優秀であることには変わりないので、流石にクビにすることはなかったが……
「まず、クリスハルト様の廃嫡の命令書についてですが、これはクリスハルト様自身が偽造したことは事実のようです」
「ええ、そうでしょうね」
「わかっていたのですか?」
私の反応にメイドが少し驚く。
もっと驚かれると思っていたのだろう。
だが、私はこれでもムーンライト公爵令嬢──その程度のことぐらい想像できるのだ。
「あの命令書が本物と仮定した場合、陛下が出したことになる。もちろん、陛下はそんな命令書を出すはずがないので、偽造であることが確定するわ」
「たしかにそうですね」
「そして、偽造であると確定した場合、誰がそんなことをするのかを考えるわ。考えられる候補としては、クリスティーナ様とハルシオン様があげられるわね」
「そうなんですか? お嬢様から二人の話を聞いた限りではそのようなことをするとは思えませんが……」
私の説明にメイドが首を傾げる。
彼女の疑問はもっともである。
「そうでしょうね。あくまで候補としてあがるのは二人の立場によるもの。二人が心の中でどう思っているかなどは考慮されていないわ」
「つまり、犯人ではない、と?」
「ええ、その通りね」
「流石お嬢様ですね」
メイドは私を褒める。
だが、別に何も嬉しい事ではない。
これぐらいは情報を集めれば、誰でも推測できることだろうから……
「というわけで、あの偽造の命令書はクリスハルト様自身が作ったものということよ」
「しかし、自分の廃嫡の命令書を作るなんて、一体何を考えているんですかね?」
私の言葉にメイドがそんな疑問を抱く。
普通の人間なら、そう思うのが当然だろう。
普通の人間は自分が破滅するような行動を取るなんて、明らかにおかしい事だとわかっているからだ。
しかし、クリスハルト様は普通の人間ではない。
本物の天才なのだ。
天才の思考は常人にはわからない。
「国を思ってのことでしょうね」
「国を思って?」
私の言葉にメイドは聞き返してくる。
流石にこれだけではわからないようだ。
「貴女は知っているでしょう? この国の貴族のほとんどは第一王子派と第二王子派に分かれている、ということを」
「ええ、もちろんです。ボンクラな第一王子を傀儡にしたい貴族と優秀な第二王子を上にすべきと考える貴族たちですね」
「もう少し言い方は考えられないかしら? まあ、事実だから否定はできないけど……」
あまりにも歯に衣着せぬ物言いではあったが、間違ってはいないので言い返すことはできなかった。
まあ、この場には私たちしかいないので、心配することはなかったが……
「気になったのですが、クリスハルト様はどうしてボンクラのふりを? お嬢様が言うことが正しいのであれば、子供のころから天才で、今もそれは変わっていないようですが……そんなことをする意味が分かりません」
メイドは純粋な疑問を投げかけてくる。
たしかに明らかにおかしな行動だろう。
だが、それはクリスハルト様が天才であるが故の行動──でもないか。
これは別の要因が関わってくる。
「それはクリスハルト様の出自が関わってくるわ」
「子爵家出身ということがですか?」
小さいころからクリスハルト様のことを知っているメイドはすぐに理解をする。
「ええ、その通りよ。クリスハルト様は後ろ盾がない自分よりクリスティーナ様が後ろ盾のハルシオン様の方が次期国王にふさわしいと思っていたのでしょう」
「その気持ちは理解できますが、わざわざ自分を犠牲にするほどですか?」
メイドはさらに混乱する。
これは理解することは絶対にできないだろう。
なぜなら……
「それがクリスハルト様だからよ。彼の心の中は誰のもわからないわ」
「……お嬢様も、ですか?」
「ええ……そうね」
メイドの指摘に私は気持が落ち込んでしまう。
たしかに理解ができなかったからこそ、このようなことになってしまったのだから……
今回出てきたメイドはどこかに出てきたはずです。
名前を付けていなかったはずなので、メイド呼びですが……
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