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公爵令嬢は後継者争いを憂う

※あくまで個人的な見解です。

 競争は同レベルで行われる方が健全だと思っています。


「クリスハルト様が何を考えているのか、私にはそれを知る必要があるの」

「……たしかに、レベッカ様の立場ならそう思うのが当然ですね」


 セシリアさんは私の言葉に賛同してくれる。

 まあ、ここまで説明してくれたのだから、彼女なら理解してくれるだろうとは思っていた。

 しかし、まだ完璧ではない。

 これについては説明はまだではあったが……


「もう時間もないのよ」

「時間がない、ですか?」

「先日、ハルシオン様が入学されたでしょう?」

「ハルシオン様……ああ、第二王子殿下ですね。ですが、それがどうしたのですか?」


 セシリアさんは少し考えた後、思い出したように答える。

 流石に面識のない第二王子について、名前を聞いただけではすぐに思い出すことはできないようだ。

 まあ、彼女の立場なら仕方がない事かもしれないが……


「ハルシオン様が同じ学院の中にいる──つまり、クリスハルト様と直接比べられる状況になる、ということよ」

「……どうしてそれが時間がない事につながるんですか?」


 セシリアさんは首を傾げる。

 流石にこれはわからなかったようだ。

 なので、説明をすることにする。


「今まで、クリスハルト様自身が【放蕩王子】という悪評が出ていただけなの。まあ、それだけでも十分問題ではあるけど……」

「たしかにそうですね」

「でも、それはあくまでもクリスハルト様自身の評価なの。確かに現状では悪い評価かもしれないけど、クリスハルト様が努力をすれば改善する可能性が残っているわ」

「……なるほど。たしかにそうかもしれません」


 私の説明にセシリアさんは頷く。

 クリスハルト様の評価は現在非常に悪い。

 第一王子としての責務をほったらかし、遊び惚けているのだから仕方がない事である。

 しかし、私はまだ解決できると考えていた。

 もちろん、生半可な努力では難しい。

 だが、かつてのクリスハルト様のように優秀なのを周囲に見せれば、評判だって上がるはずなのだ。


「でも、ハルシオン様が現れたらそうはいかなくなるの」

「どうしてですか? というか、レベッカ様はハルシオン第二王子殿下のことがお嫌いなんですか?」


 セシリアさんは少し驚いたような質問をしてくる。

 まるで私がハルシオン様のことを好いていると思っているような反応であった。

 まあ、私が普段クリスハルト様から受けている仕打ちを考えれば、そう思われても仕方がない事かもしれないが……


「別に嫌いじゃないわよ。といっても、私にとっては義理の弟としか見ることはできないし、ハルシオン様も私のことは義理の姉と思っているでしょうね」

「じゃあ、仲はよろしい、と?」

「ええ、もちろん。共通の敵と戦うための仲間、といったところかしら?」

「共通の敵──クリスハルト様ですよね?」

「あくまでもたとえよ? 本当の意味で敵じゃないんだからね」

「流石にわかっていますよ」


 一瞬、【敵】という言葉を本当の意味で捉えかねられないと思い、焦ってしまった。

 だが、流石にセシリアさんはそんなことはしなかった。

 もしこれが他の人であれば、言葉通りの意味で捉えられそうだ。


「とりあえず、ハルシオン様は一学年したとはいえ首席で入学したわ。Aクラスにギリギリ在籍するクリスハルト様とは違って、ね」

「非常に優秀なんですね」

「まあ、優秀であることは良い事よ。でも、それがクリスハルト様と比較されることが問題なのよ」

「それは仕方がない事では? 二人の王子が同じ学生という状況で、比較されないことの方がおかしいと思いますが……」


 セシリアさんは純粋な疑問を投げかけてくる。

 この話を聞けば、当然の反応であろう。

 しかし、事態は想像以上に深刻なのだ。


「二人が同じように努力をしているのであれば、何の問題もないわ。どちらか相応しい方が次期国王に選ばれるのだから」

「現状でもハルシオン第二王子が選ばれるだけなのでは? レベッカ様はクリスハルト様が次期国王になることをお望みで?」


 私の説明にセシリアさんはそんなことを聞いてきた。

 第一王子の婚約者として、そのように考えていると思われるのは仕方がないだろう。

 私が公爵令嬢なのだから、次期王妃としては最もふさわしいと自分でも思っている。

 だが、それはあくまでも評価での話だ。


「クリスハルト様がなりたくないのであれば、私は別にならなくてもいいとは思っているわ」

「そうなんですか?」

「もちろん、かつてのクリスハルト様を知っているからこそ、次期国王にふさわしいとは思っているわ。でも、それはあくまでも私の評価というだけよ」

「ふさわしいのであれば、次期国王になるべきだと思いますが……」


 私の言葉にセシリアさんは思わずそんな質問をする。

 ふさわしい、才能がある、素質がある──これらはたしかに選ばれるための条件であろう。

 クリスハルト様がかつてのように戻ることが前提ではあるが、彼が次期国王になった方がこの国がよりよくなると思っている。

 しかし、それはあくまで私のみの考えだ。

 クリスハルト様の希望は考慮されていない。


「おそらくクリスハルト様は第一王子──王族であることにつかれているんだと思うわ」

「っ!? どうしてそんな風に思っているのですか?」


 セシリアさんは酷く驚いていた。

 何が彼女をそこまで驚かせたのかはわからない。

 驚かせるようなことを言った覚えはあるが、ここまで驚くとは……


「自分は王族にふさわしくない──そう思っているからこそ、【放蕩王子】なんて呼ばれるような行動を取っているんじゃないかしら? それ以外に理由は考えられないと思うわ」

「……クリスハルト様に直接確認したのですか?」

「何度か聞こうとしたけど、答えてくれることはなかったわ。でも、あながち間違いではないと思っているわ」

「……」


 私の言葉にセシリアさんは何とも言えない表情を浮かべる。

 彼女の立場からは何と言えばいいのかわからないのだろう。

 これは仕方がない。

 とりあえず、話を進めよう。


「まあ、クリスハルト様がどう思っていようと、第一王子であることには変わりないわ。それはこれからも変わらないことなのよ」

「そうですね」

「その状況下でクリスハルト様だけが圧倒的に評価が低い状態はまずいと思わない?」

「……それはたしかに」


 セシリアさんは頷いてくれる。

 流石にここまで説明したら、理解してくれたようだ。


「別にクリスハルト様が次期国王になりたくないのであれば、それでも構わないわ。でも、今の状況はまずいの──クリスハルト様にも、ハルシオン様にも、ね」

「クリスハルト様はわかりますが、ハルシオン様もですか?」


 セシリアさんは少し驚く。

 流石にハルシオン様の方には意識が向いていなかったようだ。


「ハルシオン様が優秀であることは他の人も理解しているでしょう。だからこそ、次期国王として担ぎ上げようとしている派閥があるのよ」

「優秀な人に上に立ってもらいたいのが普通ですからね」

「でも、今の状況ではハルシオン様が優秀だからではなく、クリスハルト様があまりにも駄目だったから次期国王になったということになりかねないの」

「それはそうですが、何か問題があるんですか?」


 セシリアさんは質問をしてくる。

 どちらもハルシオン様が次期国王になることは変わりない。

 だったら、同じように思っても仕方がない事かもしれない。

 だが、実際はそう簡単なことではないのだ。


「クリスハルト様が悪評で落ち、繰り上がりでハルシオン様が次期国王になった──普通のことのように思うかもしれないけど、後々に問題が起こるはずよ」

「問題、ですか?」

「まず、現状でもクリスハルト様を次期国王に推そうとする派閥がいるわ。その派閥からの支持を得にくくなるはずよ」

「そうなんですか?」

「その人たちにとって、ハルシオン様が次期国王になるのはあまりよろしくないことなの。派閥とかの関係でね」

「だから、支持が得にくいわけですね。でも、それはクリスハルト様が優秀でも変わりがないのでは? 結局は派閥ができるのですから……」


 私の説明にセシリアさんはそんなことを聞いてくる。

 たしかにその通りかもしれない。

 だが、意外と大きな違いが出てくるのだ。


「たしかに派閥ができるでしょうね。でも、前者に比べると、格段に問題は減るわ」

「どうしてですか?」

「お互いが優秀であることで、負けた側も納得することができるからよ」

「納得、ですか?」

「前者の場合、クリスハルト様についているのは【無能】であることを理由に利益を得ようとしている人間たちよ。そんな人たちにとって、だましにくいハルシオン様はあまり近づきたくない方でしょう?」

「まあ、そうですね」

「後者の場合、クリスハルト様につくのは優秀な彼を信じてくれる人たちになるわ。そんな彼に真っ向から勝ったのだから、全員ではないかもしれないけれどハルシオン様のことを認めるはずよ」

「……そう考えると、前者の方が問題かもしれないですね」


 ようやくセシリアさんは納得してくれた。

 といっても、理解は早いぐらいだろう。

 説明はかなり楽であった。


「というわけで、私はクリスハルト様には昔のように戻ってもらいたいのよ」


 私は結論を告げた。






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