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公爵令嬢は婚約者の行動を怪しむ

【天才】については個人の見解です。

こうであったらいいな、という作者の願望も入っています。

作者は勉学については要領の悪い努力の人間でしたから……



「というわけで、クリスハルト様を更生させるのを手伝ってもらえないかしら?」

「え?」


 私の突然の言葉にセシリアさんは驚く。

 まあ、いきなりこんなことを言われたら驚くのは当然だろう。

 しかし、私としては良い案だと思っていた。

 なぜなら……


「現状でクリスハルト様に一番響く言葉を言えるのが貴女だからよ」

「どうしてですか?」

「だって、クリスハルト様はセシリアさんに興味を持っているでしょう? それならセシリアさんが何か言えば、クリスハルト様も聞いてくれると思うのよ」

「それは……」


 私の説明にセシリアさんは何とも言えない反応をする。

 一体、どうしたのだろうか?

 私の言っていることは間違ってはいないと思うが……


「もしかして、クリスハルト様に何か言うことをためらっているの?」


 私は思いついたことを聞いてみる。

 彼女が躊躇う理由はこれかもしれない、と。


「……い、いえ、そんなことは」


 私の言葉にセシリアさんは首を横に振る。

 一瞬考え込んだのは、はっきりと言うべきか悩んだからであろうか?

 いや、それにしては妙な反応ではあるが……

 とりあえず、彼女は身分のせいで躊躇っていると思うことにしよう。


「安心しなさい。クリスハルト様は身分をとやかく言う人ではないわ。流石になれなれしい態度はどうかと思うけど、しっかりと対応をすれば何も言わないはずよ」

「(……それは理解していますよ)」


 安心させるように告げた私の言葉を聞き、セシリアさんが何か呟いた。

 しかし、声が小さすぎて聞き取ることはできなかった。


「何か言ったかしら?」

「い、いえ、クリスハルト様は素晴らしい方ですね」


 私が問いかけると、セシリアさんは慌てた様子で答える。

 やはりどこかおかしな反応ではあるが、あまり気にしない方が良いのかもしれない。

 クリスハルト様を褒められたことを婚約者として喜んでおこう。


「ありがとう。クリスハルト様は本来、もっと褒められるべき方なのよ」

「褒められるべき、ですか?」


 セシリアさんは首を傾げ、質問をしてくる。

 今のクリスハルト様からは想像できないことだったからであろう。

 しかし、私はこの考えを変えることはない。


「クリスハルト様は【天才】なのよ」

「【天才】ですか? たしかにAクラスに所属はしていますが……」

「その程度のことなら、努力をすれば何とかなるわ」

「えっと……それは努力をしてもAクラスに入ることのできなかった人たちから批判されそうですが……」


 セシリアさんが私の言葉に反論する。

 たしかにそうかもしれないが、努力をしてAクラスに入れなかったのであれば、その人の努力が足りなかっただけであろう。

 別に努力したことを認めていないわけではない。

 だが、Aクラスに入ることができるほど努力をしていなかった、というだけだ。

 とりあえず、私が言いたいのはそんなことではない。


「出会ったころのクリスハルト様は子爵家の出身だったにもかかわらず、すでに学院卒業レベルの学力だったそうよ」

「えっ!?」


 セシリアさんは非常に驚く。

 当然の反応だろう。

 私とクリスハルト様が出会ったのは8歳のころ──その時にすでに学院卒業レベルの学力があるなど、普通はあり得ないからである。


「リーヴァ子爵家は優秀な人材を輩出することで有名な家柄──その血が流れているのであれば、クリスハルト様が【天才】であることはなにもおかしくはないわ」

「そうなんですか?」

「もちろん、クリスハルト様も努力はしていたんでしょうね。いくら【天才】といえども、8歳の時点でそのレベルの学力を身に付けることは並大抵のことではないわ。才能があることに変わりはないけどね」

「それはそうでしょうね」


 セシリアさんは頷く。

 おそらく努力も何もしていなかったと思っていたのだろう。

 クリスハルト様も努力をしているという話を聞いて、納得することができたのだろう。


「だったら、おかしくはないかしら?」

「え?」


 セシリアさんは呆けた声を漏らす。

 聞かれたことが抽象的過ぎたのだろう。

 これは私の質問が悪かったかもしれない。


「8歳の時点でそのレベルの学力を有しているのよ? それなのに、Aクラスにギリギリ所属しているレベルなんて、おかしいわよね?」

「ある時から努力をしていなかったんですよね? いくら【天才】だったとしても、何年もまともに勉強をしていなかったのなら、当然学力が落ちると思いますが……それでもAクラスに所属しているのだから、十分にすごいと思いますが……」


 私の話を聞いたセシリアさんがそんなことを言う。

 たしかに今までの話を聞けば、そう思うのは当然である。

 だが、私はそれ以外にも否定する要素を持っていた。


「実はクリスハルト様は時々城の図書室にこもることがあったのよ」

「え?」


 今度は驚きの声であった。

 まあ、信じられない話だろうから、セシリアさんの反応も理解できるが……

 もちろん、この話は他の誰にも言っていない。

 クリスハルト様自身にも私が気付いていることは伝えていない。

 余計に離れられると思ったからである。


「何が目的なんでしょうか?」

「図書室に行く目的なんて、本を読む以外に何があるの?」

「……たしかにそうですね。ですが、今のクリスハルト様の姿からは想像できないです」

「まあ、そうね。でも、これは事実よ」


 信じられないという反応をするセシリアさんに私ははっきりと告げる。

 おそらく他の人では信じてもらえなかっただろう。

 なぜだか、彼女なら信じてくれると思ったのだ。


「でも、勉強はしていないのでは? 本を読んでいただけ、とか?」

「まあ、その可能性もあるわね。流石に私も読んでいる本の内容はわからなかったわ」

「では、学力が落ちてもなにもおかしくは……」


 セシリアさんはそう結論付けようとする。

 普通なら、その結論で当然だろう。

 どこか彼女が話を早く終わらせようとしている気もするが、気にしないでおこう。


「【天才】と呼ばれるほどのクリスハルト様が頭を使うような行動をして、学力が落ちると思う?」

「それは……」


 私の説明にセシリアさんは言葉を詰まらせる。

 まったく勉強をしていなかったのであれば、以前に手に入れた知識を失うことはあるだろう。

 もちろん、【天才】である殿下も例外ではない。

 だが、それはあくまでもまったく知識を使うことがなかった場合である。

 読書は頭を使う行為である。

 本に対する意識で変わってくるかもしれないが、本の内容を理解しようとするといろいろ考えないといけない。

 つまり、クリスハルト様は頭を使っているはずなのだ。

 だからこそ……


「殿下がAクラスのギリギリの位置にいるのは、明らかに狙っていたはずよ」

「……」


 私の結論にセシリアさんは何も言えなくなった。

 反論する余地がなかったのだろう。

 クリスハルト様から好かれているとはいえ、流石に10年近く恋をしている私にクリスハルト様のことで勝てるはずがないのだ。

 好意を向けられていることについては負けているのかもしれないが……






 作者の執筆のモチベーションに繋がりますので、読んでくださった方はぜひともブックマークと評価をお願いします。

 勝手にランキングの方もよろしくお願いします。

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