公爵令嬢は男爵令嬢を慰める
「ありがとうございましたっ!」
「っ!?」
いきなり感謝の言葉を告げられ、私は驚いてしまった。
助けてもらったのだから、感謝を告げるのは当然のことだろう。
しかし、彼女の立場からすれば、私はかなり話しかけづらい立場のはずだ。
それなのに、そんなことを気にした様子もなく話しかけられたので、驚いてしまったのだ。
「まさかあそこまでされるとは思っていませんでした。第一王子殿下に話しかけられているので、嫌がらせをされることは日常茶飯事でしたが……」
「……私がその首謀者とは思わないの?」
レイニー男爵令嬢の話を聞き、私はふと思いついた質問をする。
彼女は自分がどうして嫌がらせを受けているのか理解しているようだった。
ならば、その嫌がらせの首謀者の最有力候補は私であることを理解しているはずだ。
だからこそ、このような質問をしたわけなのだが……
「はい?」
「え?」
レイニー男爵令嬢が予想外の反応をしたので、私も同じように呆けた声を出してしまった。
何、その反応は?
驚く私にレイニー男爵令嬢は話しかけてくる。
「どうしてムーンライト公爵令嬢様が私なんかに嫌がらせをするのですか?」
「え? だって、婚約者を貴女に奪われると思って……」
彼女の質問に私は慌てて答える。
もちろん、嫌がらせの首謀者ではないので、それっぽい理由をでっちあげしているが……
「ムーンライト公爵令嬢様は首謀者ではないですよね?」
「なっ!?」
「今までや先ほどの様子から、貴女なら直接私に文句を言うタイプでしょう? こそこそと嫌がらせをするようなタイプには見えません」
「む……」
レイニー男爵令嬢の言葉に私は何も言うことができなかった。
まさにその通りだったからである。
権力を使った陰湿な方法を使うことはある。
だが、それはあくまでも相手を脅す時に使うのであって、裏からこそこそと貶めるような真似はしない。
そんな方法だって、滅多に取ることはないし……
「ムーンライト公爵令嬢様は……」
「レベッカでいいわ」
「はい?」
「いちいち【公爵令嬢】とつけるのは面倒でしょう? だから、レベッカと呼んでくれたらいいわ」
「では、レベッカ様で。私のことはセシリアとお呼びください」
「わかったわ、セシリアさん」
お互いの呼び方を変えることになった。
そして、再び顔を見合わせると思わずクスリと笑ってしまった。
私は公爵令嬢、セシリアさんは男爵令嬢。
同じ貴族であれども、権力的にはかなりの差が開いてしまっている。
ならば、このように名前で呼ぶことなどあり得るはずがないのだ。
それなのに、まるで仲良しのようにお互いの名前を呼ぶようになった。
人生というのは不思議なものである。
「公爵令嬢の方を名前で呼ぶなんて、なんか緊張しますね」
「そういうものかしら? 私としては、名前で呼ぶことが当たり前だと思うけど?」
「それはレベッカ様が公爵令嬢としていろんな人に会っているからでしょう? 私は末端の男爵令嬢だし、今まで社交界にすら出たこともありませんから」
「ああ、そういうことね」
セシリアさんの言葉に私は納得する。
たしかに彼女の言う通り、私は普段から人と会っているからこそ、名前で呼ぶことも呼ばれることも慣れているのだ。
しかし、それはあくまでも公爵令嬢としての役割を全うしているからこそである。
同じようなことを男爵令嬢である彼女がしているわけではないのだ。
「でも、それでよくクリスハルト様と話すことができるわね」
「……私が喜んで話していると思いますか?」
「違うの?」
セシリアさんの言葉に私は聞き返す。
まあ、彼女が喜んでいないことはなんとなくわかっていた。
だが、そう聞かずにはいられなかったのだ。
「私から話しかけることなどありえません。男爵令嬢風情がこの国の第一王子と話すなんて、どんな罰ゲームですか?」
「本来は誇らしい事だと思うのだけど……」
「たしかに誇らしい事でしょう。普通の人は王族の方と話すことなどできるはずがないのですから……しかし、それはあくまで「王族と話した」という行動だけです」
「というと?」
「私のような男爵令嬢が第一王子と話していることを良く思わない人間が多く現れるんですよ。その行き着く先の一つが先ほどのような嫌がらせです」
「まあ、そうでしょうね」
セシリアさんの話に私は頷く。
流石にその辺りの事情については理解していた。
しかし、確信は持っていなかったので、一つだけ確認しておかないといけなかったのだ。
これでようやく納得できた。
「セシリアさんはクリスハルト様の行動に迷惑をしているということね」
「は……えっと……」
私の質問にセシリアさんはあっさりと答えようとした。
しかし、不敬なことを言おうとしたことに気づいたのか、すぐに口を閉じて迷ったように視線を動かす。
そんな彼女に私は微笑みかける。
「安心しなさい。はっきりと言ったとしても、私が不敬に問うことはないわ。それにこの場には私たち以外には誰もいないわ」
「で、ですが……」
「私としては貴女の本心を聞きたいの。言ってくれるかしら?」
「……わかりました」
私の説得に彼女は応じてくれた。
私の気持ちが伝わったのだろうか、そのことが嬉しく感じた。
今までは私の公爵令嬢という立場のせいで、賛同する者しかいなかった。
しかし、彼女は私が嫌悪する可能性もあると思いながらも本心を言ってくれようとしてくれているのだ。
「正直、かなり迷惑です。ただでさえ他の人たちと違う境遇なのに、そのうえで第一王子殿下に話しかけられるのは変な目で見られるようになって当然です」
「まあ、そうでしょうね。貴女の事情は調べさせてもらいましたが、一般的な貴族の考え方からは外れた境遇でしょう」
「……駄目でしょうか?」
私の言葉にセシリアさんは不安げな目で見てくる。
その視線に私はなぜかドキッとした。
なんだろう、この気持ちは……
なぜか守ってあげたい気持ちになってしまった。
「私はそんなことを思っていないわ。珍しい境遇ではあるかもしれないけど、まったくないわけではないのよ? まあ、少ないのは事実だけど」
「……そうですか」
「でも、貴女がそれを悲観するのは駄目よ」
「え?」
「調べた情報だけだから、本人たちの気持ちを完全に理解することはできないわ。でも、セシリアさんの両親や男爵は貴女に幸せになって欲しいから行動したと思うの」
「……たしかにそうですが」
「それなのに貴女が悲しんだら、その人たちはどう思うかしら?」
「……そうですね」
私の言葉を聞き、セシリアさんは少し顔を上げた。
どこか晴れやかなような気分になったようにも見える。
これで話の続きを聞くことができる。
「さて、続きを聞かせてもらいましょうか」
「はい」
私の言葉にセシリアさんは元気に答える。
さて、クリスハルト様を更生させる糸口をつかむことはできるかしら?
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