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放蕩王子は元側近の罪悪感を消す


「俺がこの国からいなくなる理由は理解できたか?」

「……はい」


 クリスハルトの言葉にジークは反論できなかった。

 たしかに、クリスハルトはこの国にいてはいけない存在だったのだ。

 もちろん、クリスハルトが悪いわけではない。

 だが、悪いわけではないからこの国に残ったとしても、問題も一緒に残ってしまうのだ。

 そうなれば争いとなってしまうだろうから、クリスハルトが自分から出て行こうとするのは当然の判断なのかもしれない。


「まあ、この話はこれまでにして……とりあえず、この命令書は明日の卒業パーティーの直前にハルシオンに渡してもらいたい」

「直前? どうして?」


 気まずい空気を理解したのか、クリスハルトは話を変えた。

 だが、その内容にジークは思わず聞き返してしまった。

 直前に渡す理由が分からなかったからである。


「それはもちろん、ハルシオンに正常な判断をさせないためだ」

「え?」


 クリスハルトの説明にジークは驚く。

 明らかに悪い事をするような考えだったからである。

 まあ、悪い事であるのは否定できないが……

 しかし、クリスハルトの言うことには理由があった。


「当たり前だろう? この命令書が偽造であることは正常な判断をしていれば、簡単に理解できる。そのために相手の正常な判断を奪っておかないといけない」

「それはたしかに……」

「そして、ハルシオンは突発的な出来事に弱い。今回はそこをつくわけだ」

「なんか詐欺師みたいなやり方ですね」

「国を相手に詐欺をしようとしているからな」

「否定できませんね」


 クリスハルトがニヤリと笑い、ジークもつられてニヤリと笑う。

 まったく同じ認識をしていたので、思わずそんな反応になってしまったのだ。

 だが、すぐにジークはこの作戦の問題点に気づく。


「ですが、このままではハルシオン殿下が疑われるのでは?」


 ジークは心配を口にする。

 ハルシオンは偽造の命令書を持っていた。

 しかも、それはクリスハルトを廃嫡するためのものである。

 この二つの情報から、「ハルシオンがクリスハルトを廃嫡するためにこの命令書を偽造した」と疑われてもおかしくはない。

 流石にそれはまずいと思ったのだ。


「いや、これを作ったのは俺ということでいい」

「……それだとおかしなことになりませんか?」


 クリスハルトの言葉にジークは反論する。

 たしかにクリスハルトが偽造したことに間違いはないが、だとするとおかしなことになってしまうのだ。

 「クリスハルトが自分を廃嫡するために命令書を偽造した」というのは、辻褄が合わないのだ。


「いや、大丈夫だ。あくまでもこの命令書は「第一王子が偽造したもの」で「第一王子が第二王子を嵌めようとした」証拠とするんだ」

「どういうことですか?」


 ジークは首を傾げる。

 流石のジークでもクリスハルトの言うことの意味が分からなかった。

 クリスハルトは本物の天才である。

 だからこそ、常人ではわからないことを考えつくのだ。


「筋書きはこうだ。「第一王子は第二王子の存在を疎ましく思っている。だからこそ、排除しようとした。しかし、第二王子を廃嫡させるための命令書を偽造したところで、自分が偽造したことがバレてしまい、逆に自分が廃嫡することになってしまう」とな」

「まあ、そうなるでしょうね」

「「ならば、逆に考えよう。第二王子が第一王子を廃嫡させようと命令書を偽造したことにすればいい。その命令書が偽造であることを暴き、第二王子を廃嫡させようとしたのだ」ということにするわけだ」

「なんか複雑ですね」


 クリスハルトの説明にジークは頭がこんがらがってしまう。

 だが、その話は「第一王子が第二王子を嵌めようとした」ということを説明していることだけはわかった。


「そこでジークが登場するわけだ」

「私ですか?」

「「ジークは第一王子にそそのかされ、将来の重要なポストと引き換えに第二王子を裏切るよう脅される。しかし、第二王子を裏切るつもりがないジークは逆にこの命令書を利用することにし、第一王子を廃嫡させる。ジークはこの命令書が第一王子の偽造であることを知っているため、第二王子が罰せられることはない」とな」

「ああ、なるほど」


 ジークは自分の役割を理解する。

 要はハルシオンを守るための証人になる、ということだ。

 そして、クリスハルトを追い詰めるための証人になる、ということでもある。


「まあ、多少の齟齬はあるかもしれないが、「第一王子が命令書を偽造した」と「第二王子が嵌められそうになった」という二点が大事になってくる。そうすれば、「第一王子が廃嫡される」と「第二王子が次期国王になる」という結果になるはずだ」

「……」

「どうした?」

「いや……わかっていても、人を陥れることには嫌悪感がありますね」


 ジークは思ったことを口にしてしまう。

 もちろん、自分の主を守るためにやったこととは理解している。

 だが、その結果がクリスハルトを廃嫡に追い込むことなのだ。

 計画であることはわかっている。

 だが、それでも一人の犠牲のもとに成り立つ平和への疑問もあるのだ。

 そんなジークにクリスハルトは告げる。


「ジークはこれからハルシオンの右腕として、政治の中枢で頑張らないといけないんだ。この程度のことでそんなことを思うようでは、この先やっていけないぞ?」

「それはわかっていますが……」

「まあ、ジークがそう思う気持ちもわからないではない。ならば、悩んだときは思い出せ」

「何をですか?」


 ジークは首を傾げる。

 一体、何を思い出せばいいのだろうか、と。

 そんなジークにクリスハルトは告げる。


「「犠牲になった第一王子にこの国のことを託された」とな」

「……」

「もちろん、犠牲にしたことを気に病むのは仕方がない事だろう。だが、この犠牲は必要なことであり、避けることができないことだ。だったら、その犠牲を受け入れたうえで、未来を託されたと思えばいいんだ」

「託された、ですか」

「ああ、そうだ。「犠牲にした」というネガティブな発想ではなく、「託された」というポジティブな発想にすれば、頑張ろうと思うことができるはずだ」

「そう簡単にいきますかね?」


 クリスハルトの言っていることの理屈はわかる。

 だが、そう簡単に納得できるとは思えないのだ。

 そんなジークにクリスハルトは告げる。


「安心しろ。俺も同じようなことを思ったからな」

「え?」

「俺だって自分を犠牲にすることに対し、まったく躊躇しなかったわけではない。「なんで俺が……」なんて悩んだことだってあるさ」

「……」

「だが、俺だって「この国の人間に幸せになって欲しい」という思いもあるんだ。だからこそ、この計画をしようと思ったんだ」

「……なるほど」


 クリスハルトの言葉にジークは納得する。

 「犠牲」というネガティブな気持ちを消すことはできない。

 だったら、「託された」というポジティブな気持ちで上書きをすればいいのだ。

 そうすれば、少しは罪の気持ちも軽くなる。


「ちなみに、俺は平民としての生活を楽しみに思っている。王族なんていろいろと縛られる堅苦しい生活は俺には合わなかったらしい」

「……最後にそんなことを言わないでくださいよ」


 ジークは呆れた反応をしてしまった。

 せっかくいい話で終わりそうだったのに、クリスハルトの最期の言葉で台無しになってしまったからである。

 しかし、ジークはこれで決意することができた。






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