放蕩王子は義弟と対峙する
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クリスハルトの予想通り、学院中の視線がハルシオンに移っていた。
出来損ないの王子を批判するよりは、出来の良い王子にすり寄る方が良いと思ったのだろう。
まあ、人間としては当然の考えであろう。
その結果、常にハルシオンの周りには人だかりができていた。
そのおかげもあってか、クリスハルトはハルシオンとは会わずに学院で過ごすことができていた。
人だかりがあれば、そこから離れればいいのだから……
しかし、まったく会わないわけでもなかった。
「兄上」
「……なんだ」
授業が終わって教室から出ようとした瞬間、ハルシオンから声をかけられた。
ハルシオンのクラスの授業が先に終わった場合、こうやって待ち伏せをされることがあるのだ。
基本的にハルシオンは集まる人を邪険にすることはないが、何か用事がある場合にはきちんと断る。
王族であるハルシオンの頼みなので、周囲にいる人間は聞かざるを得ないわけだ。
そして、その用事の大半というのがクリスハルトのことなわけだが……
「また城にほとんど帰っていないようですね」
「それがどうした? お前には関係ないだろう」
ハルシオンの言葉をクリスハルトは冷たく切り捨てる。
わざわざそんなことを言うために待ち伏せをしていたのか、とも思っている。
クリスハルトとハルシオンがこうやって話すのを周囲に見せるわけではない。
会話の内容を聞けば、仲が悪い事はわかっているだろう。
しかし、傍から見れば、ハルシオンがクリスハルトに会いに来ているようにも見えるのだ。
もちろん、お互いが王子であり、兄弟であるため、弟が兄に会いに来ることはおかしなことではない。
だが、こうやって会いに来ることはハルシオンの評判を下げることにつながりかねない。
だからこそ、クリスハルトは心配しているのだ。
「リリーが寂しがっています。あの娘は兄上に懐いておられますから」
「そうだろうな。だが、そろそろ兄から離れることを覚えた方が良い」
「……妹が兄離れする必要がありますか?」
「家庭によりけりだろう? だが、うちの場合はその必要があると思っただけだ」
どこか嫉妬の感情がこもったハルシオンの言葉にクリスハルトは答える。
リリアナがクリスハルトのことばかりに気にしているから、実の兄であるハルシオンとしてはあまり嬉しくないのかもしれない。
クリスハルトにとって、リリアナから懐かれていることはとても嬉しい事である。
だが、同時にリリアナのことを心配してもいる。
だからこそ、突き放そうとしたわけだが……
「10歳の少女に我慢を強いるのはどうかと思いますよ?」
「リリーも王族だろう。だったら、自分の感情を押し殺し、民のためになる選択をしなければいけないことになる。我慢は大事だろう」
「……それを兄上が言いますか?」
クリスハルトの言葉にハルシオンが嫌味っぽく告げる。
クリスハルトが自由奔放に生きていることを皮肉っているのだろう。
たしかに、クリスハルトは到底我慢しているようには見えない。
「俺には言う権利はないだろうな。まあ、元々俺にはリリーにとやかく言う権利はないさ」
「……そんなことはないでしょう、兄妹なのですから」
「半分だけだがな」
「……」
ハルシオンは黙り込んでしまう。
「半分」──その言葉はリリアナだけではなく、ハルシオンにも当てはまることだったからだ。
二人はクリスハルトとは異母兄弟であり、「半分」とはそれを表したことである。
その言葉を使われるたび、ハルシオンは突き放された気持ちになってしまう。
まるで家族ではない──そんな風に言われているような気がして……
「父上も心配されています」
「王族としての世間体を気にしているんだろう? 俺が悪い事をすれば、王族の評判が悪くなるからな」
「母上だって……」
「あの人は俺と顔を合わせることがないから、清々しているんじゃないのか? 嫌っている人間と顔を合わせることほど嫌なことはないだろうからな」
「そんなことは……」
クリスハルトの指摘にハルシオンは反論することができない。
クリスティーナがクリスハルトのことを嫌っていることは周知の事実であり、それを否定することは難しい。
だが、ハルシオンはクリスティーナにはそれ以外の感情があるように見えて仕方がない。
しかし、それがどういう感情なのかが分からない──だからこそ、反論することができないのだ。
「でも、言っていることは正しいのだから、素直に聞いておいた方が良いのではないかしら?」
「……レベッカ」
クリスハルトの背後からレベッカが話しかけてくる。
ここは第二学年のAクラスの教室──つまり、レベッカも所属しているクラスである。
そんなところで話していれば、当然彼女も話しかけてくる。
おそらく、ハルシオンはこれも狙っていたのだろう。
要領が良くなったのは喜ばしい事ではあるが、こういうところはあまり嬉しくない。
クリスハルトとしては、できるかぎり関わりたくはないのだから……
「たしかにお二人はクリスハルト様のせいで王族の評判が悪くなることを危惧しているかもしれないわ」
「レベッカ義姉様」
レベッカの言葉をハルシオンは止めようとする。
ハルシオンとしては、クリスハルトに情で訴えようとしていたのだろう。
だからこそ、レベッカの言っていることはあまりよくないと思ってしまったのだ。
しかし、レベッカは止まることはなかった。
「ですが、それは当然ではないでしょうか? 王族に批判が集まれば、その権力を奪おうとする勢力が現れるはずです。王族の求心力を下げることを回避しようとすることは当然でしょう?」
「……まあ、もっともな話だな」
レベッカの説明にクリスハルトは納得する。
滅多に怒ることではないが、今までの歴史でも王族の血筋が途絶え、別の血筋が王族になったことは幾度とある。
もちろん、純粋に跡継ぎが産まれず、分家もいなかったことで起こった断絶もある。
しかし、大半は王族の求心力の低下によるクーデターでその血が断絶してしまったことだった。
その歴史を知識としてとはいえ知っているからこそ、そうならないように努力しているのだろう。
「だったら、クリスハルト様はもう少し注意を聞いていた方が良いのでは?」
「そんなつもりは毛頭ないな」
「……どうしてでしょうか?」
納得してくれたのに断るクリスハルトにレベッカは思わず質問する。
クリスハルトの思考が全く理解できないからだろう。
それは仕方がない話であろう。
クリスハルトの思考は普通の人間とは全く違う──高位貴族や王族のような身分の高い人間からすれば、真逆と言っていい考えだからだ。
「俺のことを批判するのであれば、それでいいだろうよ」
「……その批判が王族に向かうのですよ?」
「だったら、そのときはそれ用の対処をすればいいだけだろう? 「第一王子には王族の血は半分しか入っていない。だからこそ、王子らしくないのだ」ってな」
「……本当にそんなことができるとでも?」
クリスハルトの言葉にレベッカは悔しげな表情を浮かべる。
何か失敗した場合、誰かに責任を押し付けることは組織では多々あることである。
この場合はクリスハルトに責任があり、王族には全く責任はないと言い逃れすればいい──と言っているのだろう。
たしかに一つの方法としてはあるだろう。
しかし、国王と王妃が果たしてそんな方法を取ることができるのだろうか。
いや、取らなければいけないことはわかっているのだが……
そして、クラスはクリスハルトの発言により、騒然としてしまっていた。
クリスハルトが国王の子供ではあるが、王妃の子供ではない──この噂はあったが、それが事実であるかどうかは確かではなかった。
しかし、クリスハルト自身がそれを認めてしまったのだ。
だからこそ、全員が驚いてしまっており……
「あの……」
「どうした?」
レベッカがそんな風に悩んでいると、不意にハルシオンが口を開く。
一体、何を言うつもりなのか?──クリスハルトが思わず聞いてしまった。
しかし、すぐに後悔することになる。
「王族の血が半分しか流れていないのは僕もですよね?」
「「え?」」
「だって、王族なのは父上だけなのですから……」
「「あ」」
ハルシオンの言葉にクリスハルトとレベッカは驚き、その事実に気づく。
たしかに「王族の血が半分」という言葉は国王の子供全員に当てはまることなのだろう。
なぜなら、母親が王族ではないのだから……
「と、とにかく……切り捨てるんだったら、とっととするべきだ」
クリスハルトは慌てたようにその場から立ち去った。
おそらく、その顔はかなり熱を持っていただろう。
まさかあんな切り返しをされるとは思わなかったうえ、大衆の面前で予想外の辱めを受けたのだから……
「……はぁ」
そんな光景を見て、セシリアは思わずため息をついた。
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