放蕩王子は用心棒と対峙する
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放課後、クリスハルトたちは授業が終わるとすぐにクラウド商会にやってきた。
といっても、一緒に行動をしていることがみられるとまずい。
というわけで二人には先にクラウド商会に行ってもらい、後でクリスハルトが合流することにしたのだ。
王族であるクリスハルトがいきなり行っても驚かれるだけだろうから、事前に知らせておいた方が良い。
クラウド商会の建物はすぐに見つかった。
中堅とはいえ大量の商品を扱っているためか、建物自体はかなり大きく作られていた。
保管をするスペースとかも必要なのだろう。
まあ、それでも城に比べるとかなり小さいが……比べる対象がおかしいな、これは。
そんなことを考えながら、クリスハルトは建物の中に入った。
中は予想通り、人でごった返していた。
平民たちが生活を送るために必要な商品を扱っているため、その数はかなり膨大である。
そのため、人手もたくさん必要になってくる。
これは当たり前の光景なわけだ。
「何か御用ですか?」
従業員だろうか、クリスハルトに気づいた女性が話しかけてきた。
まあ、知らない人間が入ってきたのだから、用件を聞くのは当然の反応だろう。
ちなみにクリスハルトの顔は知らないようだ。
まあ、彼はそこまで国民相手に顔を売っているわけではないので、知らなくても仕方がない。
髪も隠しているので、そこから王族であることがバレることはない。
亡くなった祖父の言葉を今も忠実に守っているのだ──というよりは、癖になっていると言った方が正しいか?
「ああ、商会長に会いに来た」
「商会長ですか? どういったご用件でしょうか?」
「ああ、商談をしようと思ってね」
「……」
クリスハルトの言葉に女性が黙り込む。
どうしたんだろうか、と思って女性を見ると、訝しんでいるような視線を向けられていた。
ここでクリスハルトは気付く。
いきなりアポもなく商会長に会おうとしている男など信用できるはずがない。
これは失敗した──クリスハルトは後悔したのだが、もう遅い。
「アポはありますか?」
「いや、それはしていないな」
「……では、誰かから推薦でも?」
「そんなこともされていないな」
嘘をついても仕方がないので、クリスハルトは素直に答える。
だが、その答えが女性からの視線を冷たくしていく。
クリスハルトは別に被虐趣味があるわけではないので、その視線はあまり気持ちのいいものではない。
(スッ)
「ん?」
女性が不意に右手を上げる。
クリスハルトが疑問に思っていると、少し離れたところから一人の男がやってきた。
クリスハルトより頭一つ分大きく、服の上からでもわかるぐらい全身の筋肉が隆起していた。
クリスハルトは一般的な男性よりも背が高いはずなのだが、そんなクリスハルトが小柄に見えるほど男は大きかった。
まさに巨漢と呼ばれるほどだった。
騎士団の団長の方がふさわしいのではないか──と思ったりもしたが、商会でたくさんの荷物を運ぶ力仕事もあるのだから、案外間違ってはいないのかもしれない。
だが、彼の仕事はおそらくそれだけではない。
「なんだ、この坊主? フードなんて被って、怪しいな」
「商会長に会いに来たそうよ」
「商会長に? じゃあ、なんで俺を呼んだんだ?」
女性の言葉に男は首を傾げる。
明らかにこの男は商会長ではないだろう。
それなのに、この状況で呼ばれたのだから、疑問に思って当然である。
そんな彼に女性は端的に説明する。
「もちろん、この子が怪しいからよ。アポもなく商会長を訪ねてくるなんて、怪しんでくれと言っているものでしょう?」
「なるほど、そういうことか。なら、俺の出番だな」
女性の言いたいことを理解したのか、男は手をポキポキと鳴らし、首を回す。
臨戦態勢に入ったということだろう。
「これは手荒い歓迎だな。商会長を訪ねてきた奴全員にこんなことをやっているのか?」
「そんなわけないだろう? アポなしで商会長を訪ねてくる知らないやつ相手だよ。もしかしたら、商会長を騙そうとしている奴かもしれない……だったら、その前に追い出そうというわけだ」
「なるほどね」
男の答えにクリスハルトは納得する。
商会長という立場上、普通の人よりはよっぽど金を持っている。
個人の金ではないが、商会としてもかなりの金を扱っている。
そんな金を狙って、だまそうとやってくる人間もいるのだろう。
そんな奴らを商会長に会わせないため、その前に追い払おうとこの男が出てきたわけだ。
いわゆる「用心棒」というやつだ。
クリスハルトは詐欺師と間違えられたわけだ。
「俺は別に詐欺師じゃない、と言っても信じてもらえないだろうな」
「そうだな。そもそも自分から詐欺師を名乗る奴もいねえだろ」
「そりゃごもっとも」
男の指摘にクリスハルトは笑みを浮かべる。
たしかに、自分から詐欺師であることを名乗る奴など聞いたことがない。
そもそも犯罪者であることを声高に名乗る奴もいないだろう。
そんなことは自分から言うことでもないし、もし調べられて事実だった場合、捕まることにつながるわけだ。
相当な馬鹿でなければ、そんなことはしないだろう。
「それで、お兄さんを倒せたら、商会長に会わせてくれるの?」
「ああ、別に構わねえよ。俺が止められなければ、誰も坊主を止められないだろうからな」
「それでいいの? そんなことしてたら、お兄さんより強い詐欺師は全員商会長に会えることになると思うけど……」
「俺より強かったとしても、商会長を騙すことができなかったら詐欺師としての仕事は失敗だ。そして、今まで商会長を騙すことができた詐欺師はいねえよ」
「じゃあ、なんでお兄さんはこんなことをしているの?」
「商会長を騙そうとする詐欺師が多いからに決まっているだろう? そのすべてを相手にしていたら、商会長が仕事出来ねえじゃねえか」
「なるほど、それは必要な仕事だ」
男の言葉にクリスハルトは納得する。
たしかに必要な仕事かもしれない。
どれぐらいの数の詐欺師が商会長に会おうとしているかはわからないが、彼の言い方だとかなりの数がいるに違いない。
普通の仕事があることも考えれば、ここで男が数を減らすのは理にかなっているわけだ。
「そして、坊主はこのままむざむざと帰ることになるわけだ」
「つまり、俺がお兄さんに勝てない、ってこと?」
「当たり前だろう? そもそも人を騙すことしか考えていないような奴が俺を倒すことができるはずがないだろう」
「でも、お兄さんを倒して商会長と話す所まで行った詐欺師はいるんだよね?」
「そいつは傭兵を雇っていたんだよ。流石に本職の連中相手には俺も勝てねえよ」
「ああ、そういうことか」
「まあ、流石に詐欺のためにそこまでやるような連中は少ないがな。基本的には口八丁で相手を騙すことしか能がない連中だ。その詐欺師も騙されたことに気づいた傭兵に裏切られていたよ」
「因果応報、だな」
男の話を聞き、クリスハルトは反応する。
だが、そんな無駄話をしながらも、一切の油断をしていなかった。
一応、周囲も警戒してみる。
他にもこの男と同じような用心棒がいないか、確認しているのだ。
「安心しろ。坊主が戦うのは俺だけだ」
「でも、何か相談しているみたいだけど?」
男の言葉にクリスハルトは反応する。
その視線の先には一人の男に群がる従業員の姿があった。
彼らの手には紙やコイン──お金があった。
「ああ、あれは賭けだ」
「賭け?」
「やってきた詐欺師がどうなるか、を賭けているんだよ」
「ああ、そういうこと」
「基本的に一番人気なのが、「5秒以内にやられる」だな」
「今までの最長は?」
「俺を倒した傭兵以外なら、「1分以内にやられる」だな」
「へぇ……それは面白いね」
「何が面白いんだ?」
クリスハルトの言葉に男が怪訝そうな表情を浮かべる。
とてもこの状況は詐欺師にとって喜ぶ状況ではないはずなのだ。
それなのにクリスハルトは笑っている。
それが気になって仕方がないのだ。
そんな男の様子を気に掛けず、クリスハルトは掛けの受付をしている男に声をかける。
「「俺が5秒で倒す」に一万を賭ける」
「「「「「っ!?」」」」」
クリスハルトの言葉にその場は驚きに包まれたのだ。
あまりにも無謀な賭けであることはわかり切っていることであったからだ。
しかし、商会の人間たちは驚きつつも、こんな大博打に出るクリスハルトにワクワクを隠せなかった。
そして、そんな挑発をされたら当然……
「殺すっ!」
男はクリスハルトを潰すようにその巨体で襲い掛かってきた。
いたってシンプルな普通の突進ではあるが、身長だけでも頭一つ、全体では二倍近くの対格差であれば、それはかなりの脅威である。
これは一瞬で終わるな──誰もがそう思ったが……
(ドオオオオオオオオオオオオンッ)
「「「「「えっ!?」」」」」
次の瞬間、全員が予想外の声を上げた。
そこには真正面から床を突き破った男の姿と──
「「俺が5秒で倒す」──俺の勝ちだな」
──その隣で元気な姿を見せるクリスハルトの姿があった。
「クリスハルトは天才です」──この前提を覚えておいてください。
それが意外な展開にする要素です。
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