子爵令息は母と義母の昔話を盗み聞く
公爵令嬢(現王妃:クリスティーナ)と子爵令嬢 (メリッサ)の過去話(他人目線)第一弾です。
男女の恋愛も良いけど、仲の良い女性同士も尊いわぁ。
「おいおい、そんなことを言うもんじゃないぞ。不敬になるぞ」
相方の言葉に衛兵はそんな注意をする。
いくら本当のこととはいえ流石に王族のそんな情報を口にすれば、不経済に問われてもおかしくはないだろう。
城の中という誰が聞いていてもおかしくない状況で口にする内容ではない。
「だが、お前も気にならないか?」
「まあ、そりゃあ気になるけど……」
相方の言葉に衛兵は反論できない。
スキャンダルの情報は良い悪い感情のどちらにしろ、興味を引くものが多い。
この衛兵にとってもそうだったのだ。
そんな衛兵の反応に相方は話を進める。
「実は俺とクリスハルト様の母親は同期なんだよ」
「同期? 同じ時期に城に勤めていた、ってことか?」
相方の言葉に衛兵は聞き返す。
だが、特段驚いている様子はない。
クリスハルトの母親が城に勤めていたこと自体は知る人は知っている内容であるので、今更な情報だったからだ。
「いや、学院に通っていたときからだな。俺は妃殿下やクリスハルト様の母親と同じ学年だったんだよ」
「……まあ、そういう奴ぐらいはいるか。一学年に百数十人ぐらいは生徒がいるしな」
この国の学院には毎年百数十人の子供たちが入学する。
そして、その中で優秀な生徒たちは人から羨まれるような職に就くことができ、その一つが王城勤務である。
つまり、この相方はエリートということだ。
「その頃は妃殿下とクリスハルト様の母親は仲が良かったんだよ。クリスハルト様の母親は子爵家の令嬢だったんだけど、当時公爵令嬢だった妃殿下はその身分差を気にせずに一緒に過ごしていたんだよ」
「それはすごい話だな。いや、そんなことを回りが許すとは思えないんだが……」
「高位貴族の令嬢たちはかなり敵意を向けていたみたいだな。自分たちが本来は妃殿下の周りにいるはずなのに、ぽっと出の子爵令嬢に負けたんだからな」
「そりゃ、そうだろうな」
相方の言葉に衛兵は納得する。
自分達が得るはずだったものをかすめ取られれば、むかつくのは当たり前だからだ。
「当然、クリスハルト様の母親への嫌がらせはかなり酷いものだったよ。でも、誰も助けることはできなかった。なんせ、嫌がらせをしているのは侯爵家や伯爵家の令嬢だったんだから」
「そういや、お前は伯爵家出身だったな。身分が上、もしくはそこから命令をされている可能性があったから、むやみに守ることもできなかったわけか」
「そういうこと。そして、そんな彼女を救ったのが、妃殿下なわけだ」
「つまり、クリスハルト様の母親には妃殿下への恩があるわけだな」
相方の説明に衛兵は納得する。
だが、クリスハルトは首を傾げる。
いい話ではあるが、その話がどうやったら言いたい決論につながるのだろうか?
「だが、話はこれで終わらないんだ。今度は矛先が妃殿下に向かったんだよ」
「妃殿下に? 公爵家の令嬢だったんだろ?」
「まあ、そうだったんだけど、自分達に利をもたらさないんだったら神輿にする理由もなかったんだろう。妃殿下を陛下の婚約者から引きずり下ろし、自分達の利になるような人を婚約者に仕立て上げようとしたんだよ」
「なるほど……だが、自分達が婚約者に立候補しようとは思わなかったんだな」
「その辺の分はわきまえていたみたいだな」
「ほう」
相方の言葉に衛兵は頷く。
胸糞悪い話ではあるが、納得できる点はある。
自分の立ち位置を理解できることは悪い事ではない。
まあ、やっていること自体はかなり悪い事ではあるが……
「だが、結局はそれも失敗することになる」
「どうして?」
「担ぎ上げようとしたのが今のムーンライト夫人なんだよ。あの人も公爵令嬢だったから身分的には問題がなかったんだけど、王妃の座には興味がなかったんだよ」
「なんで? 王妃って女性の中では最高権力者なわけだから、興味が出るとは思うんだが……」
「噂によると、あの人は昔からムーンライト公爵のことが好きだったらしい。だからこそ、わざとその話にのったんだ」
「のった? 断ったんじゃないのか?」
相方の説明に衛兵は驚く。
今の流れでは、公爵夫人は自身が王妃になる話を断ったと考えるべきだろう。
しかし、当時の公爵夫人はまったく違う考えを持っていたらしい。
「妃殿下と内通していたらしいんだ。公爵夫人からすれば、妃殿下が婚約者から外れるのは困るから」
「ああ、王妃になれば、公爵と結ばれることはなくなるもんな」
「そういうことだ。公爵夫人はわざと話にのることで妃殿下のことを悪く思っている人をあぶりだし、それを理由に妃殿下や陛下との良い関係を築こうって腹だったらしい」
「陛下も?」
「そりゃそうだろう。公爵は陛下の無二の親友だったんだから、陛下と良い関係を築くことで後押しをしてもらおう、と思っていたんだろう」
「……公爵夫人もいろいろと考えていたんだな」
衛兵は何とも言えない反応をする。
貴族社会ならばおかしくはないのかもしれないが、そんな裏事情はあまり知りたくなかったのだろう。
この二組の恋愛話は劇になるほど人気があり、女性人気が非常に高い。
衛兵も休みの日に妻や子供と見に行っていたので、その劇のことは知っていた。
それなのにこんな裏話を知ってしまえば、次からはどんな感情で見ればいいんだ──と
悩んでいた。
「ちなみに、その作戦は妃殿下が権力を利用し、とある男爵令嬢を虐めていたという噂を広めることだった。それが未来の国母にふさわしくない、という理由にするためにな」
「その作戦、上手くいくのか? とてもそうは思えないんだが……」
「まあ、失敗したからこそ、今の現状があるんだと思うがな」
「そりゃそうか」
「そして、その時に妃殿下のアリバイを証明したのが、クリスハルト様の母親というわけだ」
「そうなのか?」
相方の説明に衛兵は驚く。
まさか、そこでまたクリスハルトの母親が出てくるとは思わなかったからだ。
王妃と仲が良かったのはわかっていたが、そんな作戦でのアリバイ証明に出てくるとは誰も予想だにしなかっただろう。
「作戦を立案していたのが、元々は妃殿下の取り巻きの令嬢たちだったからな。クリスハルト様の母親と仲良くなった時点で、そいつらはどんどん離れていったんだよ」
「そして、残ったのがクリスハルト様の母親だけ、ってわけか」
「まあ、そういうことだ。といっても、その当時の妃殿下の方が幸せそうだったけどな」
「そうなのか?」
「ああ。その取り巻きたちがいた頃は公爵令嬢という立場に縛られているように見えたけど、クリスハルト様の母親と一緒にいるときは笑顔を浮かべていたんだよ。思わず見惚れてしまったし、陛下の婚約者じゃなければ告白してたぐらいさ」
「お前、それは本人の前で言うなよ? しかし、信じられないな……あの妃殿下が笑顔を浮かべているなんて……」
衛兵は思わず呟く。
今の王妃は笑顔を滅多に見せないクールな雰囲気の女性だからだ。
もちろん、それが彼女の美しさを引き立てているという面もある。
しかし、王妃という立場で国民の前に立つこともあるのだから、もう少し愛想よくしても良いと衛兵は思っていた。
「まあ、そんな感じでクリスハルト様の母親も妃殿下の恩人となったわけだ。といっても、元々はその必要もなかったんだけどな」
「というと?」
「妃殿下を助けるのは公爵夫人の役目だったはずなんだよ。裏の事情まで知っている夫人なら、妃殿下のアリバイを証明するのは簡単だろう」
「まあ、そうだろうな。じゃあ、クリスハルト様の母親のやったことは無駄骨ってこと?」
「そうでもないだろう。その行動のおかげで妃殿下はクリスハルト様の母親のことをさらに認めることになったんだ。その結果、クリスハルト様の母親は城で働くことになったんだから」
「そういう経緯だったのか……」
衛兵は思わず呟いてしまう。
劇では二組の純愛が描かれているだけだったが、こうやって裏事情を知るのは意外と面白い。
下世話かもしれないが、それぞれの人物の感情を知ればいろいろと納得することができるのだ。
「といっても、その結果があの悲しい話につながるんだがな」
「そういえば、妃殿下がクリスハルト様の母親のことを嫌っている、とか言っていたよな。今の話ではそんなことは……むしろ、その逆だと思うんだが……」
「そりゃそうだろうよ。学生時代の二人は本当に仲が良かったんだから……その二人が寄り添って仲よく話をしている絵姿が描かれたものが一部で売られていたほどだぞ?」
「そんなにかっ!? ……それだと、尚更疑問に思うぞ」
衛兵は首を傾げる。
今までの話から、妃殿下がメリッサを嫌う理由にはつながるとは到底思えないのだ。
そんな衛兵の疑問を解消することを相方は説明し始めた。
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