図書室の管理人はライバルを思い出す
第一王子クリスハルトが学院の卒業パーティーで盛大に婚約破棄をし、その立場を追われた──そんな大事件が世間では噂になっていた。
誰もかれもがその話題をしており、この国でクリスハルトの名を知らない人間はいないのではないかと思ってしまうほどである。
まあ、元々クリスハルトは有名ではあったのだが……
しかし、そんな噂もずっと続くわけではない。
今ではほとんどが第二王子ハルシオンの話題となっていた。
【放蕩王子】と呼ばれていた第一王子とは違い、第二王子は真面目で信頼の厚い素晴らしい王子と噂されている。
もちろん、多少の脚色はされているではあろうが、大体のところは間違ってはいない。
そんな第二王子が次期国王になるのだから、この国は安定したと言っても過言ではないだろう。
「これでよかったのかのう」
図書室で一人、儂は呟いた。
この結果はクリスハルトが望んでいたものである。
これでほとんどの人間が幸せになる──彼はそう思って計画したのだ。
もちろん、儂は本心からそう思っていたわけではない。
しかし、王族という立場に縛られることがクリスハルトのためにならないと思ったからこそ協力したのだ。
「まあ、儂にできることはしたつもりじゃよ。約束は果たしたな、ラインハルトよ」
儂はそう呟き、上を向く。
唯一無二の親友のことを思い出していた。
儂は子供のころから優秀な人間であった。
いわゆる【才能】のある人間だったのだろう、やればなんでもできていた。
勉学もそのひとつであった。
子供のころはそれで天狗になっていた。
しかし、それは学院に入学する前であった。
儂はその伸び切った鼻をあっさり折られてしまったのだ。
ラインハルト=リーヴァ子爵令息──【智のリーヴァ】と呼ばれるリーヴァ子爵家の令息であった。
顔は整っているが、どちらかと言うとクールな雰囲気のせいで周囲に人がいなかった。
もちろん、人気がなかったわけではない。
王族という身分もあった儂とほぼ互角と言っていいほど女性人気は高かった。
まあ、当の本人は気付いていない様子だったが……
初めての敗北を味わった儂はそれ以降は勉強に打ち込んだ。
今まで努力というものをしたことがなかったが、それは今まで勝ち続けてきたからである。
負けることによって悔しい気持ちを知り、次こそは勝ちたいと思っていたのだ。
しかし、それは茨の道であった。
学院の試験は非常に難しい。
どれだけ勉強しようとも準備は完璧だとは言い難い。
いや、突発的な対応力を問う問題があるのだから、完璧にすることは不可能と言っていいだろう。
当然、毎回1,2問は間違ってしまっていた。
しかし、ラインハルトは常に満点を取っていた。
つまり、一歩先にいるようなものではあるが、その一歩が果てしなく遠かったのだ。
そんなラインハルトに対し、不快感を示す者達がいた。
そいつらが彼に対して嫌がらせをし始めた。
たかが子爵家の分際で王族である儂を負かしたことに対する報復──と言ったところだろうか?
もちろん、儂の指示ではない。
儂の周囲に勝手に群がっていた有象無象が自身の判断でやったことなのだ。
当初は儂もそれを知らなかった。
しかし、婚約者からの言葉で知らされることになった。
あなたの名を使って、一部の生徒がリーヴァ子爵令息を虐めている。これはどういうことかしら?──婚約者からそう問い詰められた。
まさに寝耳に水であった。
信じられなかった、と言ってもよかった。
しかし、婚約者が嘘をつくとは思わなかった。
そして、すぐさま行動に移した。
その結果はすぐに出た。
儂の取り巻きを自称している連中が集団でラインハルトを虐めている現場を見つけることができた。
何度も殴られたのだろう、顔には酷いあざができていた。
おそらく服の下にも同様にあざがあるには違いない。
連中は倒れたラインハルトに向かって、次のテストでは手を抜くように命令した。
それを聞いた瞬間、儂は怒りに支配されそうになった。
ラインハルトが一位から陥落することで儂が一位となって喜ぶと思ったのだろう。
だが、真逆である。
ラインハルトを自分の力で負かしてこそ意味があるのだ。
「残念な奴らだよ、お前らは……そんなんでよく取り巻きを名乗れているな」
「っ!?」
ラインハルトは倒れながら、そんな風に笑った。
意味が分からないと言った表情の事象取り巻き達に対し、儂の思っていることを説明した。
ほとんど話したことがないのだが、ラインハルトの説明はほとんど正解だった。
少なくとも事象取り巻き達よりよっぽど儂のことをわかっていた。
しかし、それを事象取り巻き達は気付かない。
自分達より儂のことを知っているように振舞う身分が下の貴族令息が気に入らなかったのだろう、さらに痛めつけようとした。
そこでわしは割って入った。
事象取り巻き達を制圧し、現行犯として教師たちに引き渡した。
全員が停学となり、ほとんどの者が退学していった。
それから儂らは親友となった。
お互い勉強が得意だったおかげか、そういう話題で盛り上がることが多かった。
あまりにも仲が良かったせいか、変な噂も経ってしまった。
そのことについて、婚約者から小言を貰うこともあった。
だが、そんな学院生活は楽しかった。
卒業後、儂らは離れ離れとなってしまった。
儂は城で生活をしないといけなかったし、ラインハルトはリーヴァ子爵家を継がなければいけなかった。
中々会う機会はなかった。
城でパーティーを開いたとしても、あくまでラインハルトを呼ぶことができるだけだった。
お互いが忙しくて、会う時間をとることができなかったのだ。
そんな風に過ごしていたら、いつの間にやら儂は引退することになっていた。
そして、自分の趣味である読書に明け暮れるため、図書室でほとんどの時間を過ごすようになっていた。
時間はできたが、儂はラインハルトに会いに行くことはできなかった。
儂の立場上、一人でのこのこと外に出ることができなかった。
引退した身なので、わざわざ出かけるために護衛を連れて行くことをためらってしまった。
そんなある日、儂に来客があった。
ラインハルトであった。
久しぶりの再会に儂は喜んだが、ラインハルトは真剣な表情であった。
それは何かを決意した表情であった。
「クリスハルトのことを頼む」
ラインハルトは儂に向かって頭を下げた。
初めてのことであった。
そんな出来事に慌てながらも、儂はラインハルトから話を聞いた。
そこでクリスハルトのことを聞いた。
今まではラインハルトが面倒を見てきたが、すでに彼の体は病魔に侵されており、余命いくばくもない状態だった。
自分の死後は息子夫婦に任せることになるだろうが、おそらく上手くいかない。
その結果、存在が明るみに出て、王族として引き取られることになる、と言っていた。
だが、子爵令息として過ごしてきたクリスハルトに王族としての生活はなじまないだろう。
だから、助けてやってくれ、と。
ラインハルトの話を聞いた儂は即座にうなずいた。
もちろん、すべてを手助けできるわけではないことも伝えた。
ラインハルトはそれでもいい、と言ってくれた。
クリスハルトの人生なのだから、クリスハルトが決めなければならない。
儂にはそんなクリスハルトが一人ぼっちにならないようにしてほしかったそうだ。
それから一月ほどが経ち、ラインハルトは亡くなった。
そして、さらに数ヶ月の月日が経ち、クリスハルトは城にやってきた。
すべてラインハルトの予想した通りだった。
やはり儂のライバルはすごい奴であった。
(コンコン)
「ん?」
図書室の扉がノックされ、儂の意識は現実に引き戻される。
クリスハルトが去って以来、まったく来客がなかったのに珍しい。
少し待っていると扉が開き、一人の令嬢が入ってきた。
「客人か、珍しいのう」
儂は令嬢に向かってそう告げる。
しかし、そんな儂の言葉を無視して、彼女は真剣な表情で告げた。
「クリスハルト様の居場所はどこですか? あなたならご存じでしょう、先王陛下?」
「……」
彼女の言葉に儂はすぐに答えることはできなかった。
どうやらクリスハルトの計画は失敗するようだ。
儂以外に彼を気に掛ける者がいたせいで……
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一端、ここで終わりにしようと思います。
「この話が読みたい」などの希望が多ければ、追加で書こうと思っています。
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