ハニードロップ 終
夜も更けて、雪が舞う道路を通り神殿に忍び込む。僕たちは黒装束に身を包み目だけ出している。闇の中に仄かに浮かぶ光の神の像のシルエットは神々しいと言うよりなんか不気味だ。忍び込んでいるそのやましさがそう見せてるのだろうか? 地下への階段の前で魔道都市のエージェントと別れて降りていく。エージェントは戦闘能力は高くないそうだからその方がやりやすい。けど、おかしい誰とも遭遇しないし、何の音もしない。ピオンは忍び足、僕はそんな器用な事は出来ないから、収納のポータルを足場にして音を立てずに進んでいく。地下に降りてもなんの気配もしない。真っ直ぐな道の横には衛兵の詰め所みたいなものもあるが誰もいない。つきあたりに頑丈そうな扉。ピオンが耳を当てて奥を探り、首を横に振る。もしかして、はずれだったのか? ゆっくり扉を開けると、その中には大きな部屋。がらんとしてて何もない。けど、なんかお茶のような草いきれのような匂いがする。地面にはなにかを引きずったような後。埃も積もってなく、つい最近まで使われていたようだ。ピオンが僕の肩を叩く。頬被りを下にずらす。
「誰もいないし、ここにあったものは処分されたか持ち去られたみたいだな」
「どうしてだ?」
「多分、私たちの情報が漏れてたんだろう。この匂いは間違いなくここに薬品工場があったと思われる。ハニードロップかはわからんが。しかもつい最近。下手したら今日撤去したと思われる。床の跡が新しすぎる」
まじか、もしかしてマイたちが暴れたのが発端か?
「まあ、これで仕事が終わりで帰れるな。だが、ここから、短時間で全てを撤去したと考えると、ここには、かなり大容量の収納スキルを持った者が関わってると思われる。それか聖国で収納スキルを技術化したか」
この部屋は広い。ここに色々あったと考えると、それをさっきの通路から運び出すのはかなり時間がかかるんじゃないだろうか?
そして僕らはその部屋を後にした。エージェントに説明して、魔道都市諜報部の宿で一泊し、予定通り絨毯に乗って国境からワープポータルで帰宅した。
なんか、聖都にピオンとデートしに行っただけで何もしてないけど、聖都の謎のプラントが消えただけで上出来だろう。戦闘も無かったし。これでハニードロップの供給が減ればいいんだけど。後は政治的な事で、僕にはできる事はもうないだろう。けど、なんかモヤモヤするのは確かだ。
「どうしたのよザップ。難しい顔して」
リビングで考え事してた僕にマイが話しかけてくる。
「いや、たいした事じゃない」
「ザップ、ハニードロップの事でしょ。ザップは頑張った。けど、わからない事はわからないわよ。それでいいんじゃない?」
「ああ」
まあ、そうだけど、一つだけわかった事がある。マイにはヤンデレの資質があると……
ハニードロップ 終わり
読んでいただきありがとうございます。ここで一区切りとさせていただいて、しばらく新作の方に力を入れさせていただこうと思います。落ち着いたら、また、こちらも再開しますので、よろしくお願いします。




