ハニードロップ 7
「うわ、何すんだよ」
ピオンが僕の左腕にしがみついてくる。しかも思いっきり当てて、いや、押し付けてきてやがる。
「お前は乙女か。こうした方が怪しくない。ほら周りを見てみろ」
僕らが歩いている大通りはカップルだらけだ。けど、商人のオッサンに言われて着替えたの無意味だな。みんな上等な綺麗な服を着てる。そりゃそうだよな。クリスマスのデートにわざわざみすぼらしいものを見繕う人がいるはずがない。ここに約二名いるが。うん、逆に目立ってる。
「ちょっとくっつき過ぎだろ。帰ったらマイに言いつけるぞ」
「言えばいい。怒られるのはお前だ。それにこれは仕事だ。決して人肌恋しいわけじゃない」
うん、確かに怒られるのは僕だ。うん、これは仕事。ふにょふにょしたものに触れるのも仕事のうちだ。
「けど、私からマイに報告はしとく。ザップが腕を組んだらヘラヘラしてたと」
「おい、勘弁してくれ。どうすればいいんだよ」
「それは簡単。待ち合わせまで時間がまだあるから、私と一緒に露店を巡って、そのあとカフェでケーキとコーヒーを奢ってくれたら、私は黙るだろう。一般人観光客を演じるのも仕事のうち」
やむなく寄り道する事に。けど、これも仕事。
ピオンの気持ちもわかる。たくさんの露店に、美味しそうな匂い。まずは、腸詰めの屋台で小腹を満たし、ピオンにはホットワインも振る舞う。
「さすがザップ。しごできだ」
ホットワインはお気に召したみたい。コイツは酒に強いけど、僕はクソザコなので、楽しむのは匂いだけだ。スパイスの香りが匂いだけでも温かい。僕にとって雪は生活を脅かす魔物みたいなものだったけど、街の雪はなんかいいものだな。
ピオンが欲しいものはわかりやすい。他のものより見てる時間が長いから。そういうものを幾つか買ってあげる。それと相談してマイやアン土産も買う。
「なんかさ、これってデートみたいだな」
「みたいじゃなくてデートだ。私はそう思っている。そうじゃないとリアリティが出ない」
まじか、これってデートなのか。けど、デートしてる振りする仕事だと割り切る。けど、なんかピオンの顔が赤いような。ホットワインが効いたかな? チュロスなど買って僕も一緒にかじりながらクリスマスマーケットを楽しんだ。ここが聖都じゃなければマイも一緒に来られたのに。
そして、温かいカフェでコーヒーを飲みながら、今後の予定を打ち合わせする。
「私の魔法は雪や氷には効かないから、物理メインで戦う事になると思う」
ピオンの特技は竜魔法シルメイス。水を自由に操るというものだ。そういう欠点があるとは。まあ、けど、そのプラントには夜中に忍び込む予定だから、戦闘にならないと思うし、確実にハニードロップを作ってるわけじゃないから、確認してすぐ撤退もあり得る。
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