ハニードロップ 4
「うぉおおおおおおーーーーっ! みなぎるぜっ!」
レンジャーの男は、腰からククリナイフ、刃が反対側に反ったやつを抜くと、それを舐める。刃の方を舌が這い、明らかに切れて口から血を流す。目が爛々と輝いている。瞳孔開きまくってるな。
「おいっ、ダイアン。全部いきやがったな。全部はヤバいって話だっただろ」
レンジャーの名前はダイアンって言うらしい。全部いったって事は金貨三枚分飲み込んだって事か? コイツらの今回の冒険は大赤字だろう。
「そんなの知るかっ! 命あっての物種だっ!」
ダイアンはタンクをチクチクやってるゴブリン数匹に向かっていく。慌てて斬りつけてくるゴブリンをガン無視しながらゴブリンの首にククリナイフを叩きつける。非力で寡黙だった男が大変身だ。体も硬くなってるのか、ゴブリンから食らった攻撃は浅くはないけど動きに支障をきたしてない。一気に三匹が首から血を噴き出して地に倒れる。
「ヒャッハー! 貧弱ッ! 貧弱だなあッ! この芋作どもがッ!」
なんだその『イモサク』って。罵倒語だと思うが、罵倒語に作物が出るって事は、元々は農家の出なのか?
「ズバッショー」
「ザーク、ザク、ザク」
「ズッバーーーーン!」
ダイアンは怯んだ残りのゴブリンに擬音語と共に斬りつけていく。あと残るは一匹。
「ヒィッ」
「ヤバくない……」
魔法使いと神官の女の子がへたり込んで震えている。
「ハイハイハイハイっ! 最高にハイだぜっ! クハハハハハハハッ!」
ダイアンは両腕を広げ交渉する。返り血を浴び、やられた傷口から血が流れ、口から血を流している。マッド、バーサーカー。そういう単語が頭に浮かぶ。
「グギョッ」
最後の一匹が逃げ出す。
「にーがしませんよー。おーにさんこちら」
にへらーって笑って走り出すダイアン。そして最後のゴブリンの頭にナイフを叩っこむ。
「きひょえ。きひょえ」
ダイアンはフラフラ歩きながらしゃっくりみたいな奇声を漏らしている。
「おぼあーーっ!」
口から大量の赤い泡を吹き出し、その場にうつ伏せに倒れる。そして突き出したお尻には尖った何かが突き出し、ピクピクと震えている。うん、蜂だな。けど、お腹の調子が悪かったら蜂にはなんねーな。
「おいっ、メグ、回復魔法だ」
タンクが神官たちに声をかける。
「えーっ、なんか嫌よ。触りたくない」
とか言いながらも、神官は渋面でダイアンに回復魔法をかける。見る限り大丈夫そうだな。僕のエリクサーの出番は無さそうだ。
「お前らも飲み過ぎんなよ、ああはなりたくねーだろ」
「えっ、嫌よ。死んでもなみたくないわ」
神官がああなったらパーティー壊滅すんじゃねーか?
「あたしも嫌よ。キマり過ぎでしょ」
魔法使いは遠目に怯えてる。
「けど、順番って決めたじゃねーか。俺はお前らを守るためなら、喜んで悪魔に魂でも売るぜ」
「乙女の尊厳は売れないわ」
「まあ、死ぬよりはマシかな……ダイアンがやらなかったら、あたしたち全滅してたかも」
多分、この薬が違法になるのは時間の問題だろう。けど、複雑な気分だ。もし、この薬が無くて僕が居なかったらどうなった事か。コイツらはハニードロップに命を救われてる。
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