黄金色の道
「き、きれい……」
マイの語彙力が死んでいる。そりゃそうさ。僕も見た時に時が止まった。何気なく歩いてて見つけた時には魅入っていた。その時は可愛い女子高生が二人キャッキャ言いながら踊ってた。決して女子高生に見とれてた訳じゃない。まあ、確かにスカートがヒラヒラしてて目が吸い込まれたけどさ。
目の前にはイチョウ並木。100メートルくらいイチョウが植えられた歩道が伸びている。王都の大通りから伸びてるんだけど、紅葉がはじまる前は、しこたま銀杏が落ちてて、めっちゃ臭かった。誰がこんなはた迷惑なもの作ったんだろうと疑問に思ってたんだけど、女子高生が踊ってるのを見てその疑問は氷解した。
道はイチョウの落ち葉に覆われて真っ黄色、そして風が吹き空からはヒラヒラと黄色い葉が舞い落ちてくる。その幻想的な光景に僕らはしばし時を忘れた。
「マイ、歩こうか?」
「うん、けど、なんか葉っぱ踏むのが可哀想」
「可哀想も何も、毎日毎日掃除して捨ててるのよ。気にしなくていいわ」
可愛らしい声でデリカシー無い事を言ってるのは幼女導師。
「お前、なんでいるんだ?」
「うわ、ひっど。ついて来てたじゃないの。あんたが凄いもの見にいくって言ってたから来たんじゃないの。ったく。イチョウなんか見て何が面白いのよ。ザップが面白いって言うからどんなスプラッターかと思って楽しみにしてたのに」
スプラッター、好きじゃねーよ。
「わかった。じゃ、銀杏でも拾って帰れ。マイ、行くぞ」
「う、うん」
僕が歩くのにマイは恐る恐るついてくる。まだイチョウの葉っぱを踏むのに躊躇いがあるんだろう。そんなとこ好きだ。僕はマイの手を引っ張る。
風が吹き、黄金色の道を歩いている僕らに日を受けて黄金色の葉っぱが舞い落ちてくる。
「吹雪、イチョウ吹雪ね」
桜吹雪ならずイチョウ吹雪。いいな。いい時間を選んだ。平日の昼前なので誰も居ない。この時間に動けるのは冒険者とか自由業者の特権だ。
「誰が何のために作ったんだろ」
キュッと僕の右手をジブルが掴んでくる。両手に花だ。もしかしたら家族に見えるかも。
「そりゃね、イチョウって燃えにくいのよ。火事があった時の延焼防止用ね。あと城下町に植えられてるのは、保存食の銀杏のためと、悪臭に慣れさせるためにもよ。イチョウの実が腐った臭いって、死体が腐った臭いに似てるでしょ。新兵に集めさせて悪臭に慣れさせるのよ」
「死体……悪臭……」
マイの顔が曇る。アホウ導師がっ!
収納のポータルを発射して辺りのイチョウの葉の上をさらい集め、ジブルの手を振り切り、その上にイチョウの葉をだだ積みしてやる。金色の小山が出来上がりだ。
「ちょっ、ザップ、やり過ぎじゃ?」
「大丈夫、骨にでも変身してるだろ。大好きなイチョウに囲まれて満足だろ」
『イチョウくさいー』
ジブルの発声魔法。
「ほら、元気だろ」
「ジブルってある意味凄いわよね」
僕ら黄金色の道を歩く。すぐにマイは機嫌を直した。今日は銀杏でも食べよう。
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