ひね
「おい、にいちゃん、この前にヒネがいるさかい、気をつけるんやで」
前から来たオッサンがすれ違いざまに、ボソッと呟いて行った。
え、なに?
今のオッサンは知ってる。たまに一人静かにゆっくりしたい時に行ってる、街の奥の寂れた食堂でたまに会う人だ。挨拶し合うくらいの仲にはなってる。
オッサン、東方諸国の関西出身だったんだな。いつもは標準語で喋ってるから知らなかった。
けど、ヒネってなんだ? この先にいるって、別に代わった人いないし。年末だから、飲酒検問してたくらいだ。王都は飲酒運転に厳しく、酒飲んで馬車に乗ったらめっちゃ激しい罰金だ。酒気を図る魔道具で王国警察が検問してるのは王都の年末の風物詩だ。
ヒネってなんだったんだろう? まあ、家に帰ったら、誰か知ってるだろ。
「ヒネ? 何それ? 知らないわ」
マイは知らないみたいだ。まあ一応炬燵ドラゴンにも聞くか。
「ヒネ? なんですかそれ? けど、食べ物っぽくないですか? ヒエとイネの中間の作物なんじゃないですか?」
なんかそれっぽいけど、違うだろう。オッサンは『いる』って言ってた。しかも『気をつけろ』と。聞いたのが間違いだった。
マイが収納の書物を調べてくれたけど、見つからなかったそうだ。やはりジブルを待つしかないか。
「ヒネ? ヒネがどうかしたの? ザップあんたなんか捕まるような事したの? 淫行ね、淫行」
僕とマイがリビングでゆっくりしてるとジブルが帰ってきたから聞いてみた。失礼な奴だな。
「おい、待てよ、なんで俺が淫行で捕まるんだよ。そんな事せんわ。知り合いのおっさんがヒネに気をつけろって言ってきたんだよ」
「だから、なんか悪さしたんでしょ?」
「してないわ。だから聞いてるだろ? ヒネってなんなんだよ」
「えっ、もしかしてあんたたち、ヒネって知らないの? そう言えばここらじゃあんまり聞かないわね。魔道都市では、ヒネを見たら逃げるは鉄則よ」
「あ、わかったわ。ヒネって警察の事なのね」
僕も薄々そうじゃないかと。
「さすがマイ。私と同様、底辺を這い回っただけあるわね。で、あんたんとこは、警察をなんて呼んでたの?」
「普通にサツとかみんなは呼んでたわ」
「で、ザップが小っちゃい時は?」
「え、俺か? 言わなかったか? 俺は妹と二人で、警察なんかがいるとこじゃ暮らしてねーよ」
「ごめん、ザップ。私よりさらに恵まれてなかったってのを忘れてたわ」
「けど、なんでヒネって言うの? ひねくれてるから? 賄賂もらう悪いやつ結構いるし」
「マイ、違うわよ。ひっそり狙うの略らしいわ」
「おいおい、それならさ、警察って言えばいいじゃねーか。わかんねーよ」
「それは違うわね。警察がいるって言ってるのを警察に聞かれたらマークされるでしょ」
「けど、そのヒネって言ってるのも聞かれたらばれるんじゃ? てことは、オッサン、俺が警察に捕まるような事してるって思った訳か……」
まあ、そうだよな。真っ昼間から寂れた飯屋でまったりしてたら、カタギの人間には見えないな。て事はあのオッサンは。
「まあ、意味はわかったけど、使わない言葉だな。確かに悪い警察もいたりするが、ほとんどの人は、国の治安を守るために頑張ってるんだから。そんな悪口っぽい呼び名はよくないなー」
「あたしもそう思うわ」
「私だってそうよ」
ジブルはそう言ってるけど、ヒネを見たら逃げるは鉄則とか言ってたよな? こいつ、実はヤバい実験とかしてるんじゃないか?
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