漢マジック
「見ての通り、種も仕掛けもありません」
ここは王都の広場、ちょび髭シルクハットの怪しい男の屋台。今日は市が立っていて、往来が激しい。クロスをひいたテーブルに逆さの三つのカップ。それを開けた一つの下にはメダル。メダルとカップを観客に改めさせて男はカップの一つの下にメダルを入れて、三つのカップをシャッフルする。そして、観客が各々どのカップにメダルが入ってるのか賭けて、当たれば掛け金の倍貰えるという博打。上限は金貨一枚。それに、大人も子供も翻弄されている。僕は賭け事はしない主義だが、今は暇なので、石段に腰掛け、遠くで見ながら、イマジナリーベットしてる。負けまくり。もし、実際にお金を賭けてたら、金貨十枚ちかく持っていかれてる。
最初にメダルが入ったカップをしっかり目で追えてるんだけど、それにメダルが入ってる事がほとんどない。もしかして、カップやメダルをチェックしてる人がじつにサクラかと思ったが、毎回チェックしてる人は違うし、さっきなんて『イカサマ』だろって、怒り狂ったオッサンが机やクロスまで改めてたけど、何もなく。魔術師っぽい爺さんが魔法感知とかもしてたけど、何もなかった。
わかんねー。
僕はジワジワと屋台に近づく。
考えてみる。どういうからくりなのか。男が手に磁石をもっていて、メダルがそれに貼り付いて消えて、違うカップに貼り付いてるメダルを落とす。違う。終わった後のカップも改められてるし。
クロスに袋がついていて、それにメダルを入れて、違うカップで取り出してメダルが入ってるカップを変える。これも違うな。クロスを改められた時にクロスはひっくり返ってる。
「ザップ、何見てるの?」
買い物を終えたマイがくる。手には幾つもの紙袋を持っている。収納はあるけど、買っためっちゃ欲しかったものは手で持ちたいらしい。
「あれ、全く当たんねーんだ」
僕は屋台を指す。
「もしかして、ザップ、やったの?」
「いいや、見てるだけ」
「あれって詐欺だから絶対やっちゃダメよ」
「詐欺って? 全くそうは見えないんだけど」
「勝ってるのって、子供ばっかでしょ。お金持ちそうな人はことごとく負けてるでしょ」
確かにそうだ。可愛い女の子や、親子連ればっかり勝ってるような。
「けど、勝つ人をどうやって操作するんだよ」
「みんなシャッフルしてるとこばっか見てるわよね。けど、だいたいのタネは、最後にカップを空ける時にコインを弾いて違うカップに入れてるのよ。あと、シャッフルしてる時も弾いてたりするわ」
「え、マジかよ。そんな人に見えないスピードでメダルを弾けるのかよ」
「マジックには二通りあって、ギミックありとギミックなし。ギミックありはタネがある仕込んだものを使うけど、ギミックなしは、タネが無くて、熟練の技術であり得ないと思う事をやってたりするわ。漢マジックとも言われてるわ」
マジか。漢マジック、罠の漢解除と似たような力技って事か。
マイは、旅芸人の一座に昔いたから、大道芸とかに詳しい。多分なんか芸の一つや二つ持ってると思うけど、あんまりいい思い出じゃないみたいなので、詳しくは聞いた事はない。
「けど、詐欺なら捕まるんじゃねーのか?」
「んー、荒稼ぎしてたら、問題になるけど、見てればわかるけど、ディーラー、みんなを楽しませて、ほんのちょっとだけ稼いでるでしょ」
うん、なんていうか、良い感じで盛り上がってる。ギャンブル特有の負けて死にそうな人は見てないな。あの怪しげなオッサン、上手くそういうとこをコントロールしてるのか。プロだな。
「この国の衛兵は、楽しませてる分にはお目こぼししてくれるわ」
「そっか」
なんか、この街ってやっぱいい街だな。
ちょっとやってみたくなったけど、負ける未来しか見えないから止めとこう。
マイから荷物を受け取って、次は食料品の買い出しに行く。
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