武器の手入れ 前
「ちょっと頼みがあるんだけど」
僕はソファに寝転がって本を読んでるマイに話しかける。基本的に僕らは肉体労働者だから、休みの日はどうしても体を休めるためにインドア系の趣味を堪能する事が多い。だから、暇な時は本を読んでる事が多い。収納にジブルが作ったライブラリーゾーンにはかなりの数の本が入ってるから本には不自由しない。
「なあに?」
本から目を離して体を起こしてこっちを見る。少し反応に時間がかかったのは没頭してたからだろう。マイがだらしない格好で本を読んでるのはレアだ。
「ちょっと武器の手入れを手伝って欲しいんだ」
年を越す前に、全部の武器を綺麗にしないとね。ちなみに、収納の中の剣千本、槍千本は終わっている。ほぼ毎回使う度に磨いてるから、纏めて磨いたのは百本くらいだった。仲間にも手伝って貰ったし。
「いっけど。アンちゃんも連れてく?」
「頼んだ」
僕らは街から離れた荒野にいる。
「ご主人様、なんでこんなとこまで来たんです? 寒いから早く帰りましょうよ」
ドラゴン娘は激しく着膨れてる。それでも寒いのか? 今日は晴れてて日が照ってるからむしろ少し熱いぞ。
「やっぱり、磨く武器はアレなのね」
マイは気付いたみたいだ。アレの手入れって聞いたら逃げられるかもしれないから内緒にしてた。
アンが腕を組もうとして諦めて考える。着込みすぎだろ。手が曲がってないぞ。
「荒野、広さが無いと手入れできない武器……でっかい武器。あ、山殺しっ! 帰ってもいいですか?」
絶剣山殺し。またの名をマウントスレイヤー。北の魔王リナから貰った、刀身30メートルくらいの化け物大剣だ。名前は忘れたけど、丈夫な希少金属で出来ている。
「正解だ。ご褒美に一緒に磨かせてやる」
「うわ、絶対面倒くさいやつじゃないですか。あれってそうそう刃こぼれもしないんでしょ。磨く意味ないですよね?」
「アン、目を瞑って想像しろ。俺が太陽の下『山殺しを』出して構える。反射して光ってるのと、くすんでるのどっちが格好いいか?」
別に格好つけるのが趣味って訳じゃない。『勇者の剣』、あと最近使ってないから名前を忘れたけど、僕は二つの勇者武器を持っている。それを使うのには勇者力と呼ばれる、人々の僕への憧れ的なものが必要だ。それを集めるためには格好よさが必需品だ。
「そりゃ、くすんでる方がいいですよ。ほら、なんかいっぱい斬った感が出て」
「アンちゃん、諦めなさい。今日は温かいし、運動するにはちょうどいいでしょ。三人で全力で磨いたらすぐに終わるわよ」
「はーい」
コイツ腹立つなー。僕には必ず食ってかかるのに、マイからなら一撃かよ。まあ、手伝ってくれるんだから文句言うまい。
収納から二つのでっかい輪切りの丸太を出して剣の長さの間隔に置き土台にして、山殺しをそこに寝かせる。あっちで土台の調節をしてるマイが豆粒みたいだ。この剣作った奴、何考えて作ったんだろう。リナ言うには、巨人でも思い通りに振るえなかったそうだし。それを軽々振り回してる僕っていったい……




