半球睡眠　前

「疲れたな。キリがないな」

　ついつい独りごちる。目の前のアリは尽きる事がない。日が落ちて、日が昇り、また沈みかけてる。なんか頭がぼーっとして働かないけど、ということは、かれこれ一日以上アリを叩いている事になる。

　今引き受けている仕事は、ジャイアントアーミーアントの完全駆除。人間サイズのでっかいアリだ。何故かなんと通常の十倍以上の報酬だったから、迷わず引き受けた。アリの完全駆除の依頼がこんな時期に出てるのは目珍しい。奴らは寒いのに弱いから、冬になると巣ごもりするはずなのにこの時期まで発生してるって事は餌の確保が追いついてないって事か？　場所は南部の山の中。そう言えば猛暑で草木が枯れたって話きいたもんな。異常気象の影響がこんなとこまで。アリだけにアリがたくない。んー、マイがいたらどつかれてるな。

　依頼書の討伐対象と場所以外は読まなかったのが悪かった。これ、絶対パーティー、いや間違いなくクラン用の依頼だよな？　巣穴から蟻が終わる事なく発生してくる。それを叩いて叩いて叩きまくって、収納にいれる。文字通りワンマンアーミーだな。こういうと格好いいけど、やってる事はただの害虫駆除だ。この蟻は素材にはならないけど食べられる。ギルドに納品したら二束三文だけど、このあと乾燥させて潰してレーションに混ぜ込まれるそうだ。あまり食べたくないな。とか思いながらも、ギルドで買ったレーションを食べ、喉を潤しながらアリを叩く。

　なんで一人で来たんだろう。虫の天敵と言えばトカゲ。炬燵ドラゴンを引きずってきたら、アリどもをローストして食べてくれただろう。マイは虫は嫌がるし、ジブルは『アリというより、無しよりの無し』とか言ってたし。

　そんなたわいないことを考えながら叩く。叩く。叩く。叩く。

　まだまだいけそうだけど、最近は動いてばっかだから疲れてきたような。年末が近づくと何かと物入りだから稼ぐしかない。クリスマスの飾り付けやごちそうやケーキはこういうお父さんの陰なる努力により生み出されている。そんな働くお父さん気分を味わい、みんなが喜ぶ顔を思い浮かべながらアリを叩く。お父さんにはサンタは来ない。けど、みんなが喜ぶ楽しむ姿が最高のプレゼントだ。

　けど、エンドレスバトルは厄介だ。僕のハンマーは力を解放するとしばらく人間スタイルになって戦ってくれる。それでなんとかトイレはこなしてるけど、とにかく眠い。

　そう言えば、ジブルが言ってたな。ずっと飛び続ける鳥は、片目を瞑って、頭の中を半分づつ交代に眠らせるって。それって便利だよな。