コンフェッションブース 10
ピチョン。
頭の上に水滴が落ちてくる。
「きゅう」
低い声。一桁になったな。
「おいおい、おかしいんじゃねーか? さっきのあきらかに百滴以上あったよな。まともに数も数えられないのか?」
辺りは静まり返る。けど、たしかに上から何者かの息遣いを感じる。
ただ僕の頭から滴る水の音。
「もしかして、終わったの?」
「いや、上にいる。最初は居なかった。多分、アナベルの恐怖心が無くなったから来たんだろう」
僕らは上を見る。闇の中にさらに暗い塊があるような。
「なぜ、お前はここにいる?」
上から低いしゃがれた声がする。
やっと会話してくれるようだな。
「そりゃアナベルを助けに来たんだ。毎日こんな夢みててもつまらんだろ」
「……どうやって来た?」
「魔法だ。仕組みはよくわからん」
「……なぜ、お前は怯えない?」
「こんなもん、怖くねーよ。それより、お前は誰なんだ? なんでこんな事してんだよ」
「……答える義理はない。お前は消えろ」
バサッ。
布が翻る音がする。
タッ。
目の前に何者かが降り立つ。真っ黒なマントに包まってフードを被ってる。フードの奥は闇。手には錆びた大きな鎌。テンプレだな。死神をイメージしてるのだろう。
「ヒッ」
アナベルがビビってる。せっかく水滴タイムを怖くなくしたのに。こんなので動揺するなよ。
死神もどきは低く構え、鎌を大きく横に引き絞る。多分狙いは僕の首。
「ザップさんっ!」
アナベルの声。
「大丈夫だ。あっち向いてろ」
これからやる事は、少女にはちと刺激が強すぎるからな。
「死ね……」
ブゥオン!
鎌が風を切る。腰がはいったいいスイングだ。
「プリミティブ・ワールド」
僕は魔力を解放する。僕が唯一使えるピーキー過ぎる魔法。僕の体から分解の光を放ち、触れてる無生物を塩に変えるというものだ。
極相に至りし魔の理は、世界を変質する。
魔法は極めると、発動と結果が結びつく。要は絶対に防げない。そういう魔法を『世界魔法』と呼ぶ。
僕を戒めていた石床は塩となり消え去り、ギリギリまで迫っていた鎌も白い粉になる。飛び上がってフードに殴りかかるが、手が突き抜ける。ジブルが言った通り実態が無い。魔法の源のマナは少し残ってるから、両手の爪に纏って右、左と引っ掻く。水に手を突っ込んだかのように、少しの感触はあるがマントが裂けただけだ。マントの人物は大きく下がる。フードははだけて一瞬人影のようなものと目が合ったが、ファサッと音を立ててマントは床に落ちる。逃げられたか。僕はマントを拾い腰に巻く。この魔法、全裸になるのが欠点だよな。まあ夢の中だから服は無くならない事だろう。
「ザップ! 何やってんの起きなさいっ!」
ん、ジブルの声だ。
ミキミキッ。
気が軋む音?
ドガーーーーン!
大きな音と共に背中にはしる痛み。背中をしたたかに打ち付けたようだ。油断してたから、息が詰まる。
「敵襲かっ!」
立ち上がると、応接間。僕の足下にはテーブルが破壊されている。
「『敵襲かっ』じゃないわよ!」
声の方を見ると、天井に穴が空いていて、そこからジブルが覗き込んでる。もしかして、あの穴って……
確定申告の準備してます。ヤバい。打ち込み多すぎるです(>_<)




